第4話 出版社の闇
しかし、それらの心理をうまくくすぐって、
「お金を少々なら出しても、自分の作品を世に出せるんだ」
ということになれば、
「この人たちは信用できる」
と考えたことから、
「よもや騙されている」
などと思えない状態なので、最後には、
「じゃあ、出しましょう」
ということで、まんまと詐欺に逢い、
「金を取られることになる」
というものだ。
実際に、このやり方は、表向きには素晴らしいもので、実際に、コメンテイターなどが絶賛したことで、一大ブームとなったのだ。
しかし、2,3年もすれば、
「そのブームは、一過性のものだった」
ということになり。
「これは詐欺だ」
ということで、大きな社会問題を引き起こすということになるのであった。
この手の会社のやり方として、まず最初に行うのは、
「送ってもらった作品を読んで、その批評を書いた時、一緒に、作品の書籍化に対しての提案と、その出版方法によっての見積もりを示す」
ということであった。
出版社側の作戦として、
「作者への批評」
というのは、あくまでも二の次で、あくまでも、
「出版方法の提案」
と、それに対しても、
「見積もりを示す」
ということであった。
「では、出版方法の提案」
というのがどういうものなのかというと、それには3種類のものがあった。
一つ目というのは、
「最高にいい作品なので、出版に際しての費用はすべて、出版社がもつ」
というものであり、それを、
「企画出版」
という。
二つ目は、
「いい作品ではあるが、出版費用をすべて出版社が請け負うというのはリスクが高すぎるので、半分、作者にもってもらう」
というもので、それを、
「協力出版」
という。
三つめは、
「出版社が費用を出して出版しても、販売効果が見られないので、お安くしておくので、作者が趣味で出版する」
という、いわゆる昔からある、
「自費出版」
というものである。
この三種類を提案するわけだが、
「企画出版以外は、筆者が必ず批評負担ということなので、見積もりが発生する」
というわけである。
だから、作者は、
「企画出版を目指して、原稿を送り続ける」
というわけである。
だが、それも最初のうちだけで、実際に、
「作品を送り続けるうちに、相手の営業の態度が変わってくる」
ということがあるようだった。
要するに、
「何度も送ってくるくせに、なかなか本を出そう」
ということをしようとしないということであった。
作者とすれば、
「企画出版を目指すのは当たり前」
ということで、出版社が、
「協力出版を言ってきても、企画出版を目指す」
ということをいうに決まっている。
だから最初から、
「企画出版を目指す」
というのだ。
相手の営業は最初こそ、
「あなたの作品は、他の人の作品に比べて、素晴らしい」
と言って褒めちぎったうえで、あたかも、
「協力出版でも、あなたの作品は最優秀の部類だ」
などと言われると、
「あと少しで企画出版」
と思うではないか。
しかし、それを相手は、
「あくまでも協力出版で」
と言ってくれば、こちらも、
「企画出版を目指します」
ということで、
「原稿を送り続けるしかない」
というわけだ。
しかし。実際には、そうはうまくいかない。そんなことを繰り返していると、原稿を送り始めて数回してから、出版社の方から、
「今回が最後」
と言い出すのだ。
「何のことか?」
と思って聞いてみると、
「あなたの作品は、今まで自分の一任で、出版会議に挙げてきたが、それも今回が最後」
というわけだ、どういうことかと聞いてみると、
「企画出版のためには、出版会議に推薦しない候補にも挙がらないが、今までは自分の一任であなたの作品をひいきしてあげてきた」
と言い出すのだった。
作者は
「うさん臭い」
と思ったので、すでにその時には、半分切れかかっていたが、それでも冷静に対応した。
「優秀な作品だから、企画出版の候補に挙がったんじゃないですか? あなたは今までそういってきたではないですか?」
というと、
「ええ、そうなんですが、それにも限界がある」
と言い出した。
作者の方とすれば、
「ははん、なるほど」
と感じてはいたが、それでも自分がいう言葉は一緒で、
「自分はそれでも企画出版を目指すだけです」
というと、相手が今度は切れてきて。
「それが今回で最後だというんです」
というので、こっちも引き下がれないとばかりに、
「それでも、企画出版を目指す」
というと、相手は逆上し、
「そんなことは無理です。編集者の営業が上にあげなければ無理ですから」
というので、さすがに腹が立ち、
「本当に企画出版などということを、おたくは考えているんですか?」
と聞くと、
「はっきり申し上げて、企画出版というのは100%ありません」
と開き直るではないか。
「だったら、企画出版などという甘い言葉で作者をだますなよ」
というと、相手は、
「もし、うちが企画出版を行うとすれば、それは、相手が必ず本が売れるという確証がないとありません。すなわち、著名人だけです」
という。
「どういう人なんだ?」
と聞くと、なんと相手の口から出てきた言葉は、
「プロの作家か、犯罪者だけです」
というのだ。
ここに至って、さすがに呆れかえった作者だったが、これではっきりしたわけだ。
というのが、
「自費出版社系の会社というのは、詐欺商法だ」
ということである。
それまで、出版業界において、出版のためのハードルを、その問題点を治す形で、出てきたことで、
「新しい出版社のありかただ」
ということで、あたかも、
「新興業界」
ということで、
「世の中のトレンド」
ということになっていたが、さすがに、
「世の中そんなに甘くない」
ということになるのだ。
それでも、そんな出版社が多い時には十社近くまであったのだが、どの会社もやり方は同じで、正直、
「そのほとんどは、二番煎じ」
ということであった。
だから、オリジナリティがないので、その隙をつけれると弱いわけである。
そういう意味では、
「詐欺を感じさせた企業」
というのは、シビアだけど、経営とすれば、ひょっとすると間違っていないのかも知れない。
しかし、それは、
「経営」
という意味でだけで、
「継続」
ということでは、限界があるだろう。
最初から、
「数年儲ければ、あとは引き際が肝心」
と思っていれば、大きな損はないということである。
そもそも、それが流行というもので、どこまでできるかは、経営陣の才覚によるものであろう。
実際のやり方であるが、冷静に考えると、
「単純な自転車操業」
である。
つまりは、まず雑誌や新聞に、
「本にしませんか?」
ということで、
「本を出したい」
と思っている人の心を揺さぶる。
小説を書いている人のほとんどは、前述のような、出版業界の闇を知っているので、少なくとも、
「批評をしてくれる」
ということで、
「ここなら信用できる」
という考えになり、出版社に原稿を送るということを繰り返す。
だから、まずは、
「宣伝広告費」
というものが、大きな支出となる。
さらに、送ってきた原稿に対し、批評して見積もりを作り送り返すことになるわけだが、その時担当をした人が、その作者の担当ということになる。
つまり、一人の社員でたくさんのことをするので、それだけ、応募作品が多ければ、たくさんの人件費がかかるというわけだ。
一人の給料も、これだけの仕事をさせるのだから、それなりにかかるというものだ。
きっと、
「小説家のタマゴ」
ということで、一度デビューはしたが、その後が続かずに、鳴かず飛ばずだった人に対して、
「いい商売がある」
とでも声をかけたのだろう。
まさか、
「詐欺の片棒を担ぐことになる」
と思っていたかどうかわからないが、結局は、それが大きな問題となるわけだ。
だから、あくまでも、この会社とすれば、
「本を出したい」
ということで、
「協力出版に応じてくれる人を、どれだけ増やすか?」
ということになる。
前述の作家のように、
「企画出版を目指す」
という人ばかりでは、
「時間と費用が無駄」
ということになり、自転車操業がうまくいかないというのは当たり前のことであり、営業成績が上がらないと、その人の会社での立場も悪くなるということなので、切れたのも、ひいき目に見ればしょうがないことなのかも知れない。
ただ、この会社の致命的なことは、
「本にすれば、全国有名書店に一定期間置く」
というのは、規約としてうたっていたことであった。
実際には、そんなことができるわけはない。
特に出版不況と言われ始めたその時代、プロ作家でも、毎月何十冊という本が出るのに、
「どこの出版社か、作者も、どこの馬の骨か分からない人間の本を、誰が店頭に並べるというのか?」
ということである。
もし、万が一並んだとしても、
「一日で返品」
ということになるだろう。
だから、実際に、
「一定期間並べる」
などということはありえないのだ。
しかし、お金を出した本を出した作者とすれば、お金を出した目的は、
「その一定期間の間でも本屋に並べば、誰かが見てくれて、プロとしての道が開けるかもしれない」
という、実に甘い考えからであった。
だが、これもありえない。
それでも、実際に、何百万という金を払って、本を出す人がいるという。
しかも、その大半は、
「借金をしてでも」
という人であり、
「尋常では考えられない」
といってもいいだろう。
だから、作者も必死で、
「知り合いに頼んで。本屋に並んでいるかどうか調べてもらった」
という人が、
「結局どこにもなかった」
として、訴え出たのだ。
そうすると、他にもたくさんの作者が、相談に来ていたようで、それを見た弁護士が、
「訴えましょう」
ということになったのだ。
すると、出るわ出るわ。
たくさんの人が、
「訴える」
ということになり、その会社は、数人から訴えられるということになった。
そうなると、他の出版社も訴える人が出てきて、その2年前には、
「新しいやり方」
ということで、
「マスゴミやメディア」
に取り上げられ、トレンド入りしていたくらいの脚光が、今度は、
「詐欺商法」
ということで、騒がれるようになるというのは、実に皮肉なことであった。
いや、
「こういう企業こそ、最初から怪しかった」
ということかも知れない。
「甘い言葉には裏がある」
というのは、まさにこのことで、
「これが、出版業界の限界だ」
ということになったのだ。
だから、せっかく、
「お金がかからない趣味」
ということで、バブル崩壊後に、あれだけ脚光を浴び、
「アマチュア作家」
という人たちが、うようよと増えてきたということだったが、この時の事件で、あっという間に、本を書く人が減ってしまった。
つまりは、
「にわかファン」
と同じだということである。
そして、このことと、
「紙媒体の限界」
という時代が同時に起こったことで、
「小説界だけではなく、音楽業界」
などからも、
「媒体による販売」
というのが、徐々に減ってきた。
つまりは、
「ネット配信」
が主流になってきたからだ。
だから、街では、
「本屋」
であったり、
「CD屋」
というものがどんどん減っていく。
そのかわり、ネット配信にての販売が主流になってくるのだ。
ネット配信にて、
「月額いくら」
ということで、
「見放題」
「聞き放題」
ということでの配信が主流となる。
それが、スマホの普及ということに、一役買うということであった。
そんな時代に出てきたのが、
「投稿サイト」
というものであった。
もちろん、有料先もあれば、無料のところもある。
さすがに、
「自費出版業界」
で懲りた人は、
「もう、金がかかる」
ということに手を出す気はない。
という人が多く、
「無料投稿サイト」
というところに流れるのであった。
ここでは、
「作品を読むのも、作品を発表するのもすべてただ」
ということで、サービスとしては、SNS機能をつけ、レビューや感想などを書いたりして、コミュニケーションが図れるということである。
作者とすれば、
「これを利用すれば、優良出版社などが発見してくれて、契約してくれるかも知れない」
という期待もある。
もちろん、一度懲りているので、淡い期待ということは分かっているが、それでも、無料でできるのだからと考えれば、
「無料投稿サイト」
というものを
「利用しない手はない」
と考えるのは当たり前だということになるだろう。
それを考えると、
「このあたりが大きな時代の転換点」
ということもいえるだろう。
さらには、
「詐欺には気を付けなければいけない」
ということで、最初から、
「お金が発生する」
というリスクには手を出すのは怖いということになる。
ということで、
「無料投稿サイト」
というのは、実にタイムリーであった。
しかも、無料ということで、
「大きくは望まないが、しょせん無料」
ということだ。
さらにいえることとして、
「時代が大きく変わった」
ということが大きいといえるのではないだろうか?
なぜなら、それまでは、
「紙媒体が主流で、ネットでの本の販売というのはあったが、ネットにての配信というのはなかったことで、まだまだ紙媒体は健在」
ということであったが、それまでのネットでの販売によって、街での紙媒体を販売する本屋自体がなくなっていった時点で、
「下り坂だ」
ということになる。
ちょうど、その頃が、
「自費出版社系」
というものが流行った時期だった。
それこそ、
「最後の悪あがき」
というものだったといえるのではないだろうか?
そんなことを考えると、未了投稿サイトが出てきたのは、時代の流れを考えると、必然だったといえるのではないだろうか?
そうなると、そんな無料投稿サイトへ登録する人も増えてきた。
以前の
「自費出版社系」
というものとの一番の違いは、
「会員が書いている作品を、他の人が見れる」
ということであった。
それによって、
「今、どんなジャンルが流行っているのか?」
であったり、
「作家の年齢層としては、いくつくらいの人が多いのか?」
などということが分かる。
もちろん、年齢を非公開にしている人もいるが、内容を読んだり、ジャンルによって、
「大体の年齢層」
というものが分かってくるというものであった。
だから、以前のような、
「閉ざされた世界」
ということではない。
そもそも、それまでは、
「本を出して、なるべくたくさんの人に見てもらいたい」
というのが目標であっただけに、
「たくさんの人に見てもらえる」
というところでは、ありがたい。
しかも、そこでレビューを書いてもらったり、感想ももらえる可能性があるとなると、がぜんやる気が出てくるというものであろう。
しかも、たくさんの人の目に留まるということは、
「作家になるという夢を捨てなくてもいい」
ということでもあり、それを無料でできるというのは、実に魅力的なことだといえるのではないだろうか?
それを考えると、
「無料投稿サイト」
というのは、悪いことはない。
少なくとも、投稿サイトで活動している間は、お金がかからないので、その時点で、
「詐欺ではない」
ということだ。
だから、一時期、会員も増えて、若い人たちが中心になって、サイトを盛り上げていたのだろう。
若い人たちだという理由は、ジャンルが、
「異世界ファンタジー」
というものに特化したサイトが、最大の会員数を誇っていて、なんと作品数の8割近くが、
「異世界ファンタジー」
と呼ばれるジャンルの作品だったのだ。
もちろん、
「そのジャンルを書いているからと言って、若い人だとは限らないし」
かといって
「他のジャンルを書いているからと言って、若い人ではない」
とも言えないだろう。
ただ、異世界ファンタジーというジャンルは特殊で、特に、
「アニメやゲームの原作」
ということで、若い人たちが好んでやっていることの延長と考えれば、確かに、その傾向にあるといっても過言ではない。
さらに、
「アニメやゲームの原作」
ということで、当時言われていたジャンルの中でも、さらに大きなくくりとして、
「ライトノベル」
というものがあった。
これは、ほぼ、若者と言ってもいいもので、ジャンルとしては、もちろん、ほとんどのジャンルが当てはまるのだが、その中でも多いのが、
「学園もの」
であったり、
「純愛もの」
であったり、
「ファンタジー系」
と呼ばれるものであろう。
そう考えると、どうしても、若い人たちが書いている作品が多いといえるのであって、逆に、ある程度の年齢に達すれば、
「無料投稿サイト」
というものへのハードルは高いと考える年配の人も少なくないだろう。
そういう意味で、カフェにおいてパソコンを使って書いている老人も、最初は、
「異世界ファンタジーなんて、邪道だ」
と思っていたのだ。
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