第10話 『第665層・鏡張り自己嫌悪系迷宮──探索者、己を語らず斬る』

第665階層、《鏡面螺旋域》。

全面鏡張りの空間。天井も床も壁も──視界のすべてが、自分自身を映していた。


迷宮としては異常な静寂。

語ろうとする者の姿が、何層にもわたって跳ね返される構造。

一歩踏み出せば、366の反射。

語りに遅れれば、語りの遅滞すら映り込む。


配信カメラも苦戦中。

反射干渉により視点が暴れ、コメント欄は逆に盛り上がる。


コメント欄:

「鏡迷宮っていうか語り手侵食構造で草」

「スカートだったらやばいやつじゃんww」

「てかカラって……男?スカート履いてないよね?」


カラは呟く。


「そもそも俺男だし他に人いないから関係なくね?」


語り手特有の構造反射が、自身の存在に語る余地を与えない。

彼はさらに言い放つ。


「見られてもモンスターだし、嫌なら目潰しして倒していけばいい。」


コメント欄、地響きのような草:


「鱗滝もびっくりな対応の速さww」

「語られる前に目潰しする系主人公w」

「迷宮倫理とか語ってる暇ないやつww」


――そして、現れる敵。


《ドッペルミラーゲンガー》。

探索者自身の分身──666体。

同じ語りの癖、同じ寝癖、同じ“語られない空気”。


だが、それだけではなかった。


配信カメラ、AI反射フィルターを突破。

カラ自身の姿が、初めて、視聴者に映る。


コメント欄、絶叫:


「イケメン!?!?」

「いやまて、顔面勝ってるのに情緒負けてるw」

「残念なイケメン確定したww」


タグ更新:#顔だけ勝ってる実況者/#美形トラウマ製造機/#情緒が残念すぎる件


そして、語られる価値のない敵に、カラは“語らない処理”を発動。


――まず、目玉を潰す。

――次に、腕をへし折る。

――脚は逆関節で粉砕。

――首を《クトゥルフソード》で両断。

――最後に胴体、構造単位でバラバラに。


コメント欄、悲鳴と爆笑の融合:


「え? いま自分殺してるよね??」

「処理方法に愛も語りもないww」

「何のジャンルだよこの迷宮wwww」


そして、視聴者に届いたのは──ひとつの寝言めいた呟き。


「自分が一番嫌いだから……。」


コメント欄:

「重ッ!!!!!」

「自分語り、刃物にして語ってるやつw」

「語り手史上最も言葉を使わずに語った回だろこれ」


タグ更新:#自分嫌い系迷宮処理実況者/#語り手、鏡にて感情ゼロ斬撃

レシピ出現せず。供物化不可。語り拒否対象。


討伐完了:666体。

鏡、粉砕。反射、消失。

語りの余地も、コメントの想像も、すべて断ち切られた。


階層の壁に、薄いひび。

語られた自己像は、語りの暴力で自壊した。


 カラは、静かに、静かにその仮面を拾い上げた。

 《マスクドミラー》。あまりにもダサい。いや、ダサいを超えて、語り手としての人格を否定しかねないデザイン。歪んだ反射面。くすんだ黒鉄。中央には語りの邪念を象徴するような“ねじれた縦傷”が刻まれていた。


 コメント欄、大炎上。

「顔面SSRなのに装備URじゃないwww」

「いやマジでこの仮面、トラウマ製造機でしかない」

「そんなの付けるくらいなら語るなよw」


 それでも、カラは何も言わず、それを顔に被った。

 被った瞬間──空間が“反射干渉”から回復。

 あれほど映らなかった彼の姿が、画面いっぱいに鮮明に現れる。


 そしてその背には──《クトゥルフソード》。

 深淵の海より伸びし影の刃。語ることを拒絶した者を飲み込む、形容不能の剣。


 コメント欄、絶叫。

「!?!?!?!?」

「え、ダサ仮面からのクトゥルフソードってバランス壊れてるww」

「顔が見えるようになった代わりに、心の闇見せすぎwww」


 それでも、カラは呟いた。

 「使える物は使う。命懸けてるから。」


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──《第666階層:悪魔の錯乱域》


 辺り一面は霧。視界を遮るのは“語られなかった記憶”たち。

 カラが一歩踏み入れる度、過去に語ることを放棄した“もうひとりの自分”が振り返る。


 出現──《語り拒否の亡霊×666体》。

 その一体一体が、仮面姿の“カラ”であった。

 語られることを拒み、語られなかった過去の象徴。

 その顔には、どれも《マスクドミラー》。

 胸には、かつて語ろうとして語り切れなかった記憶の傷。


 カラは剣を抜く。

 《クトゥルフソード》――それは語られなかった者たちの集合知から生まれた、“語らない暴力”。


---


処理開始──【語り拒絶型処理式】


- 頭部の仮面を斬る。一閃。反射面が断たれ、“見せかけの自我”が消える。

- 膝を逆断。動きが止まり、“語り逃げ”の機動力を封じる。

- 右手の“語り癖”に絡みつく幻影を剣で刺し、虚構の詩を沈黙へ。

- 胸部、感情の断層を貫き、語られぬまま腐った真実を両断。


 そして、最後に首。

 《クトゥルフソード》を逆手に持ち、

 斜め下から、真横へ。

 語るべきだった過去が、語られぬまま“粛清”された。


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コメント欄、悲鳴と哲学が交差:

「自分斬るって概念、哲学の暴力すぎww」

「語り手じゃなくて語り処理者www」

「クトゥルフソード、感情ゼロで語り補完してくるヤバ剣」


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討伐完了:666体

 周囲の霧が晴れる。語られなかった者たちは“語らない処理”によって完全崩壊。


 画面にはカラ。

 ダサ仮面を被りながらも、語られた自我の奥で燃える静かな衝動。


 そして、呟き。

 「……俺の語り、足りてないから。」


 タグ更新:


ダサ仮面で深淵処理/#語り拒否の深海斬撃実況/#残念イケメンとクトゥルフ語り剣


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