第5話 662層へ続く道

第661階層――《雑談侵食海域・フカヒレ回延長戦》。

水圧、安定。海塩、記憶味。

猪頭鮫によるフカヒレ採集劇が終息しようとしていたその時――異形が到来した。

エイリアンヘッドシャーク。

夢に出てきそうな合成生物。鋭利な頭部は寄生型宇宙獣を模し、背ビレに脳波干渉機能を搭載。

サメの体躯に、エイリアンの意匠。そして――猪の突進DNAは、なぜかそのまま。

群れで現れ、音のない海底都市を乱してくる。


カラ、静かに呟く。


「……ミハマさん、エイリアン好きだったなあ……」


コメント欄爆裂:

「またトラウマ刺激ww」

「雑談侵食ってか“ミハマ侵食海域”じゃねーか!」

「猪狩り→フカヒレ→エイリアン、情緒がノンストップ」


カラはまた動く。

採取対象が変わっただけ。

今度は、エイリアンヘッドシャークの脳圧フカヒレを収穫する。

剣戟に迷いはない。

《クトゥルフソード》、すでに情念のこもった鞘から抜かれている。


狩り、始まる。


一体目:斬。

二体目:水流回避から貫手。

三体目以降:一振ごとに素材を切り分け、恋と執念で捌かれていく。


配信タグ更新:#フカヒレで未来を切り開く者


だが――またも現実が返す。

地上のミハマ。コメント書き込み。


> 「引きこもりニートが必死こいて狩りしてて草。ダンジョンから出なくていーよ。」


コメント欄、一斉に烈火。


「はあ!?ミハマ最低!!」

「言葉が氷属性の呪いすぎる」

「カラの情緒なめんな!!!!」

「義理チョコすらも献上品にしてる男だぞ!?!?」


その瞬間――カラは一言。


「ミハマさんのくれたバレンタインチョコ……義理でも嬉しかった……。」


海底が震える。

エイリアンヘッドシャーク群れ、沈黙。

実況、無音。


ただ、カラは剣を振る。

そして、エイリアンヘッドシャーク討伐数:666。


悪魔の数字。

だが、それはカラにとって“義理でももらえた愛”の対価だった。

素材化された恋心は、迷宮を貫いて、扉に触れる。


次の階層、開かれる。


コメント欄、静かに泣く。


「泣いた」

「カラ……一途って言葉じゃ足りない」

「迷宮じゃなくて、君の感情が伝説」

「義理でも嬉しかった……とか、俺たちも食らった……」


タグ更新:#義理でも世界を動かす男


そして、探索者カラは静かに歩き出す。

語りすぎた恋の供物を背負って――


第661階層雑談侵食海域


――波音だけが心を癒すリゾート迷宮のはずだった。

だがカラは、波音を背景BGMにしてこう言い放った。


「よし、今日は喋るか。」


配信タイトル更新:『雑談侵食海域──語られる者の2時間地獄語り開始』


第1部:鬼畜上司地獄エピソード(60分)


「まずな……あの上司。俺の名前、ずっと“カラ”じゃなくて“お前”で通してたんだよな。」

「しかも“お前”のイントネーションが“使えない在庫”って感じなの、わかる?伝わる??」


コメント欄:

「やめてwwwイントネーションで精神削られる型上司ww」

「1時間配信で名前未使用は爆笑」


「昼休みにさ、カップ麺食ってたら『お前それ湯温足りてるの?』って言われて。どんな管理職だよ!!湯温監視員かよ!!」


「あと俺がトイレ行くたびに『お腹弱いの?』って言ってくるの。いいだろうが腸の自由くらい!!!」


コメント欄:

「腸の自由www迷宮にも持ち込めww」

「だんだん迷宮が上司になってくる恐怖」

「上司語り、鬼滅の刃より長いって噂」


上司エピソードが進むにつれ、コメント欄の情緒ゲージが振り切れる。

タグは《#迷宮には上司連れ込むな》《#カラの湯温自由を守れ》など自然派タグへ派生。


第2部:ミハマ罵倒エピソード(さらに60分)


「そんでもってミハマな。」

「まず“カラくんってあれでしょ、寝ぐせをファッションって言っちゃう系でしょ?”って言ってきたんだよ。お前それどこのセリフ帳から盗んだんだよ!?」


「バレンタインに渡されたチョコ、包装紙が“業務用チョコバルク10kg”だったの見て、俺は『義理でもありがとう』って思ったのに!」

「その後のホワイトデー、俺が1人でスーパーのマシュマロ買って『これいる?』って言ったら、返事が『あ、使わないから大丈夫』だったの!使わないって何!?マシュマロを何に使う気だったの!?」


コメント欄:

「ミハマの“使わない”は万能すぎて草」

「義理のラッピングが業務用って最強のコストパフォーマンス」

「カラの恋路が迷宮より難解」


さらに追加されたエピソード:

・ミハマ、カラの配信初期コメント欄に「声、雑魚じゃね?」と書き込んだ履歴あり。

・文化祭、カラの出し物は「風船配り」で、ミハマが貰った瞬間「手汗、ついてる?」と聞いたことも判明。

・カラ、ミハマに向けて“バレンタインチョコお礼返詩”を書いたが、返事が「改行多すぎて読めなかった」だったことも暴露。


コメント欄、完全に情緒不安定。


「カラの恋、踏まれてるってレベルじゃないw」

「恋愛迷宮を探検しろカラ!」

「ミハマ、ダンジョンのラスボスよりラスボス」

「カラの語り、配信じゃなくて“祈り”なんじゃ…?」


そして、雑談終了宣言。


カラ:「……喋った。2時間。誰にも聞かれてなくても、俺は語った。語られる者は語る。」


コメント欄、泣きながら拍手。


タグ更新:#語られた地獄を語り続ける者

サムネ更新:カラの背中に浮かぶ、業務用チョコ袋と湯温管理票

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