TCG

 その少年達希は帰宅し、リビングの扉を開いた。


「ただいまーノゾミン」

「おかえりなさい達希さん」

「うっ……推しにおかえりなさいと言われるのがこんなにも心に響くなんて!」

「はいはい慣れましょうねー、あたしも慣れようと苦心してるんですから」


 肩をすくめるノゾミンこと望に「それもそうだけどー」と達希は渋々うなずく。


「ところで達希さん、その袋はなんでしょう。暑いのでアイスとか?」

「あぁこれね。はいこれ」

「……探索者TCG」


 達希がポリ袋から取り出したのはポーズを決めた男性や女性などが描かれた長方形の紙箱。いわゆるTCGのボックスだ。


「そうそう。ノゾミンのカードがあるとかで、試しに買ってみたんだ」

「あたしの? あ、そういえばカードゲームのお仕事受けましたね」

「そうそう。僕も一緒のシリーズ? 新弾? に出たかったけどまた今度って言われた……ぐっ、ノゾミンと一緒に出たかった……!」

「それはあたしもですよ。でも向こうだって商売ですし。ほ、ほら! 開けるんでしょう、見ててもいいですか?」

「あーうん、そうだね。一緒に開けてみる?」


 達希が尋ねると望は「それならば」とうなずく。

 二人はローテーブルの前に座ると、早速パックの封を開けていった…………


「出なかったかぁ」

「まぁそんなものですよ。なんでもあたしのカードは有用な汎用タイプ、それゆえ封入率が低くされているらしいので」

「うーん、商売だなぁ」


 色々なカードが出てきたものの、達希は愛する望のカードを引き当てられなかった。


「ま、いいか。ところでこのカードはどうしようか……ノゾミン?」

「いえ。達希さんのことですから『ノゾミンをパックという鳥のかごから救うまで剥き続ける!』なんて言うものだと思いまして」

「目の前に本物がいるからいいかなって」


 ――ボンッ!


「ふ、ふえぇ……もっもう! いつもいつも不意打ちしないでくだしゃい!!」

「ごめんごめん。加えて言うなら、配信のネタに取っとこうかなって」

「あー……やってみます? ノゾミンのカードを引くまでヤメマセンって」

「いいね! よぉし、ノゾミンを剥いていくか!」

「…………」

「あ、ごめん、今の言い間違いで」

「エッチ」


 ノゾミンの赤面しながらの言葉に、達希はボンッ! と爆発するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る