第十四話 吐露

北の森から帰還し、魔力結晶を手渡した4人は10日分の汚れを落とすべく、大浴場に直行していた。

そしてカイ達は体を洗って汚れを落とし、大浴場の奥に鎮座する大きな湯船浸かっていた。


「この湯、炎で温めてる訳でも、温泉みたいに沸いてきた訳でもないんだなー!」


アルドが興味津々と言った表情で辺りをキョロキョロしている。


「ガスで温めているんだよ、アルド」


「へー、魔法の方が手っ取り早いのに何でそんな事するんだ?」


「全員が魔法使える訳じゃないからね……」


アルドの嫌味ではない、心の底から出た疑問にカイは苦笑いを浮かべる。


「……そうやって魔法にばかり頼っているからいつまで経ってもヴィアンティカは技術が発展せずリベルディアに遅れをとるんですよ」


隣で様子を見守っていたリクトが口を開く。


「ああ?リベルディアの技術なんて、魔法の真似事だろ。魔法が使えるなら技術なんて要らないと思うぞ?」


「……その言葉をリベルディアの技術者に言えば、鉛玉が飛んでくるでしょうね」


リクトは手で頭を抑えながら、これ以上話すのも馬鹿馬鹿しいと溜息を吐く。


「……俺はもう上がるぞ」


フォルスは立ち上がり、汗と湯の混じった液体が滴り落ちる。


「もう上がるのかフォルス!?まだ20分しか浸かってないぞ!?」


アルドが信じられない顔でフォルスを見上げる。


「私も上がります」


「僕も」


カイとリクトも立ち上がり、浴槽から出る。


「何だよ!貧弱だなお前ら!俺の親父は2時間は浸かってたぞ!」


「……因みに後どれくらい入るつもりです?」


「3時間だ!」


そのアルドの自信満々な言葉に、カイ達3人は溜息を吐く。


「フォルス、引っ張り出してください」


リクトはフォルスの方を向いて指示をする。


「分かった」


「ちょっ!俺はまだ絶対出ねぇぞ!親父を越えるんだ!」


アルドがフォルスに湯船から引き摺り出されるのを尻目にカイとリクトは先に脱衣所に向かう。


「……はぁ、何でアルドが馬鹿なのかわかりましたよ」


「親譲り、ですかね」


カイは苦笑いで返す。


「……まだ私に敬語を使うんですか?別にいいと言ったはずでは?」


リクトが大浴場の扉を開け、カイもそれに続いて脱衣所に出る。


「……流石にいきなり距離を詰めに行くのも難しいので」


カイはリクトの指摘にばつが悪そうに目を逸らす。


「……まぁ、そうですね。あまり魔銃を所持してる危険人物とは深く接さない方が身の為になるかもしれません」


リクトは体をタオルで拭きながら言う。


「はは……確かに」


リクトの冗談めかした言葉に、カイは笑う。


「……まったく、この班にまともな人はいないんですか?」


「それ、リクトも言えた事じゃないでしょ」


「……そうですね」


「だぁぁ!チクショォォォォ!!」


カイ達は軽装に着替え終わり、椅子に座って水を飲んでいると、大浴場と脱衣所を繋ぐ扉が勢いよく開け放たれてフォルスとアルドが出て来た。


少し不機嫌と言った様子でアルドは体を拭いていく。


「まさかフォルスに抱え上げられるとは思わなかったぜ!中々強いなフォルス!!リクトとカイも見習え!」


アルドはいつもの笑みに戻ってバシバシフォルスの背中を叩いた後、リクトとアルドの方を向く。


「これでも鍛えてはいるんだけどね」


カイはフォルスの体を見上げる。鍛え上げられた体は、幾度となく死線を潜って来たのか、傷だらけだ。


「だったらお前らはもっと肉を───」


「取り込み中済まない。カイ・シャーガリアはいるか?」


皆声のした方を向く。そこには、軍服に身を包み、青髪でポニーテールの女性が立っていた。


「……はい。此処に居ますけど」


カイは手を挙げる。


「私は、ドーラー・イレジスティ。北方警備隊隊長の補佐官をしている」


「えっ!?も、申し訳ありません!この様な格好で……」


カイは敬礼をしながら、3人の方を向く。


(まだアルド服着てないじゃん!)


「……いい。私は伝言をしに来ただけだ」


ドーラーは少し目を逸らしつつ言う。


「伝言?」


「ああ、隊長がお呼びだ。至急隊長室に向かえ。以上」


バタンと脱衣所の扉が閉められ、ドーラーは立ち去っていった。


「……アルドと同じヴィアンティカ人とは思えない立ち振る舞いですね」


「それどういう意味だよ!?」


リクトの物言いにアルドが噛み付く。


「うん、物腰よくて……って!そんな事言ってる場合じゃない!急がないと!」


カイは慌てて立ち上がり、荷物を抱えて、自室に向かって走り出す。


「おう!また後でな!」


アルド達の手を振る姿を尻目に、カイは脱衣所を後にした。





カイは自室の106号室を開ける。そこには当然誰もいない。


「……ケン」


ほんの1日だけとは言え、ここで過ごした友の姿がいない事にカイは寂しさを抱く。


(引き止める事も、手を掴む事さえ出来なかった自分が、嫌いだ。何も出来なかった、自分が……)


「……本当にごめん、ケン」


カイはケンの遺骨を静かにベッドの上に置くと、軍服をクローゼットから取り出して着替える。


「……ケン、また後でちゃんと埋めるから」


カイはベッドの方を向いて、ポツリと溢す。

当然、答える者は誰もいない。


カイは心から溢れ出した寂寥感を振り払って1前に向き直り、隊長室に向かった。



隊長室の前には、先程のドーラーが、前に立っていた。


「ユキオ隊長は既に居られる。入れ」


「はい、ありがとうございます」


カイはドーラーに礼をして隊長室の中に入る。

カイは部屋を見回す。


整えられた資料の乗った木製のデスクが奥にあり、少し手前には、向かい合う様に置かれたソファと、その間に設置されたテーブルが鎮座している。


(あのティーカップ、何処かで……)


「……来たか、カイ・シャーガリア」


ユキオ・キササは、カイに背を向けて窓の外を眺めていた。


「はい。何か御用でしょうか?」


「いや、個人的な話……いや、勿体振るのはやめよう」


ユキオはカイの方へと向き、口を開いた。


「君の両親の話だ」


「……え?」


思考が追いつかないカイをよそに、ユキオは少し俯いて悩んだ後、決心したのか顔を上げて、カイに向き直る。


「……私には、話す義務がある」


そのユキオの顔は後悔や罪悪感、自己嫌悪によって歪んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る