第十二話 仲間 (後編)

リクトとアルドの居る場所に向かって2人は暗い森を駆ける。


「……悪いな、カイ。お前の仲間を……ケンを置いて行く事になって」


「……いいですよ。僕がフォルスさんに仮を返す為です」


フォルスの言葉に、カイはぎこちない笑みを浮かべる。


「……お前は、自分の仲間を置いて、リクトやアルドを助けに行く事が不満か?」


それで察したのか、フォルスが尋ねる。


「…………」


カイは押し黙る。


「……別に俺はお前が間違ってると言いたい訳じゃない。ただ、お前の本当の気持ちが知りたい」


フォルスのいつにもなく真剣な表情に気圧され、カイは口を開く。


「……はい、あの2人よりもケンは大事な仲間です。だから、少し不満には思っています」


「……カイの気持ちは分かった。だから、俺も言わせてくれ」


フォルスは一拍置くと再び口を開く。


「俺にとって大切な仲間はケンよりも、お前とアルドとリクトだ。だから、あの2人を助けに行く」


フォルスは続ける。


「死んだ仲間を弔いたいのは分かる。けどそれ以上に、俺は生きている仲間を助ける事が大事だと思う」


カイはその言葉を聞いて、口を開く。


「……フォルスさんは、リクトさんを仲間と思えますか?」


「ああ。思える。人はどれだけ貶されようが、差別されようが、いつか分かり合える。俺はそう信じてる。……けど、それは生きていなければ意味はない」


フォルスはカイの方を見つめる。


「だから、力を貸してくれ。俺への借りの為じゃなく、あの2人を、アルドとリクトを助ける為に」


フォルスの力強い瞳に、カイは心を揺さぶられる。


(……決めたんだろ。僕は全て受け止めるって。それでも進むって。何を悩んでる)


カイは頰をパンと叩く。


「分かりました。行きましょう。あの2人を助けに」


「……ありがとう、カイ」


「けど!あの人は気に食わない、言いたい事全部言ってからにします!」


フォルスはカイのその怒り顔を見て、フッと笑う。


「あぁ、それでいいじゃないか」







「プギィィィィ……!」


アルドは咆哮を上げて倒れ伏す豚の災厄獣を見据える。


「……中々しぶとい奴だったな」


アルドは豚の災厄獣から出た魔力結晶を拾い上げる。


「おいリクト、お前───」


「キィィィィィィ!!!」


アルドがリクトに振り向いた時、甲高い鳴き声が、森に響いた。


「……チッ、あの鳥野郎まで来やがった!」


アルドは前に向き直ると、鳴き声の主、鳥の災厄獣がこちらに急降下して来ていた。


「気を引き締めろよリクト!」


「言われなくとも!」


リクトは再度銃を構える。


「かかって来いや!鳥野───」


アルドの予想とは裏腹に、急降下してくる鳥の災厄獣は、アルドの上を過ぎて行く。


「キィィィェェェ!!」


「なにっ!?まずい!リクト!躱せぇぇぇ!!」


鳥の災厄獣の嘴は、リクトに向けられている。


「……くそっ」


リクトがそう小さくこぼす。


嘴が開かれ、そのままリクトを───


「カイ!右上だ!」


「了解です!」


リクトへと襲い掛かろうとしていた鳥の災厄獣が、リクトの背後から飛んできた雷光を帯びた弾丸によって感電する。


「ギィィィィィィィ!!?」


鳥の災厄獣は、地面に落ちるが、勢いは止まらず、リクトへと地面を擦りながら向かって行く。


「うおらぁ!」


しかし、リクトと災厄獣の間に差し込まれた大剣によって、災厄獣はギリギリの所で止められた。


「大丈夫か?」


リクトの見上げた視線の先には、カイとフォルスがいた。


「……何で、助けたんですか?」


そのリクトの言葉を聞いて、カイは少し嫌そうに、フォルスは何を今更、という顔で言った。


「仲間だから、助けに来た」


「仲間……」


リクトは黙り込む。


「……まだ僕は認めてませんかいてっ」


カイは頭を叩いてきたフォルスに顔を向ける。


「カイ、悪いがお喋りは後にしてくれ。災厄獣が動き出す」


「キィィィァァァァ!グェッッ!!??」


再び羽ばたこうとした鳥の災厄獣の背中をアルドか剣で突き刺して止めた。


「ナイスタイミングだぜフォルス!カイ!俺も混ぜてくれ!」


「キィィィィァァァ!!」


災厄獣が剣が突き刺された痛みに悶えて暴れ回る。


「うぉっ!?暴れるんじゃねぇ!」


アルドは流石に無理だと思ったのか、剣を災厄獣の背中から引っこ抜いて離れる。

災厄獣は、その隙に再び空へと飛び上がった。


「チッ!あの高さじゃ俺の魔法は届かないぞ!」


遥か高くまで飛び上がった災厄獣を見上げてアルドが言う。


「……だったら、お前達しか届かない」


フォルスがリクトとカイの方を向く。


「……分かりました」


カイは魔銃を構え、リクトも静かにスナイパーライフルを構える。


空は日が昇って来ており、僅かに顔を出した太陽が、災厄獣の黒い影を照らす。


「……言っておきますが、お膳立てなんてするつもりないですから」


カイは隣のリクトに言う。


「……言われなくとも、見れば分かりますよ」


リクトとカイは災厄獣に狙いを定める。


「キィァァァァ!!」


災厄獣の尾の方から何かが放たれる。



「ッ……!?あの野郎糞飛ばして来やがった!」


アルドはカイとリクトの前に立つ。


「アンテ・スクータム!」


アルドの手から魔法陣が現れ、糞を防ぐ。


「クソ野郎がァァァァ!!」


アルドは叫び、糞を災厄獣に向かって跳ね返した。


「キィァァ!?」


災厄獣に向かって糞は腹部に勢いよく命中し、災厄獣の羽毛の様な皮膚を形成している部分が崩れ落ち、核が顕になる。


「今だカイ!リクト!」


「「了解!」」


カイの魔力によって形成された雷を帯びた弾丸が、リクトによる正確な射撃によって放たれた弾丸が、災厄獣に迫る。


「ギィァァァァァァ!!」


災厄獣が手を生やしてリクトの弾丸をガードするが、カイの雷の弾丸には対応出来ず、雷光が核を貫いた。


災厄獣は地面へと大きな音を立てて落下し、力尽きた。


――――――


鳥の災厄獣の核をカイはしゃがんで拾い上げる。

カイは立ち上がり、息を整えて、リクトの方を向く。


「「…………」」


2人は互いに口を開かず、目を逸らしたままだ。

しかし、リクトは意を決したのか、カイの方を向いて頭を下げた。


「すみませんでした。私は自分の置かれた境遇に劣等感を抱いていて、それを貴方に当たってしまった。本当にすみません」


カイはそれを見て口を開く。


「……悪いのは、僕の方です。僕はこの魔銃の重みも、ヴィル・フォリティスの犯して来た罪も、僕は何も分かっていなかった。そんな事も分かっていない人間に怒るのも無理はないです。だから、ごめんなさい」


カイもリクトに向かって頭を下げる。


暫く2人が頭を下げたまま黙っていると、リクトが間に入り込んで頭を上げさせる。


「お前らちゃんと話せんじゃねぇか!!お前らこれ以上喧嘩するんじゃねぇぞ!!」


アルドは快活に笑って2人の背中をバンバン叩く。


カイのアルドによって揺らされる視界に、フォルスの顔が映る。


「……よかったな」


腕を組んで遠くから見守っていたフォルスも静かに笑みを浮かべた。


「……私からは2人にも謝らせてください。ずっと、酷い事を言ってましたから……」


「そんな事もう良いって事よ!」


「あぁ、別に俺も気にしていない」


アルドとフォルスは笑う。

その様子にリクトはホッと胸を撫で下ろし、3人を見る。


「ありがとうございます。カイ、フォルス、アルド。私を受け入れてくれて」


「はい。仲間として、僕からもお願いします」


カイはリクトに手を差し出す。リクトはその手を握り、笑みを浮かべた。


「はっはっは!今俺の名前呼んだよな?名前呼んだよな!?」


アルドがリクトの肩を組んで笑う。


「……うるさいです。ヴィアンティカ人」


リクトは目を逸らして小さく呟く。


「戻った!?何でだよ!?」


そのアルドのガーンとした表情にふっ、とリクトは笑う。


「冗談です。改めてよろしくお願いします。アルド。それに、フォルスも、カイも頼りにさせて貰います。仲間として」


リクトは3人に笑い掛ける。


「おう!!」


「はい!」


「ああ……」


笑い合う4人を、朝日が照らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る