第十話 仲間 (前編)
「ケン……?ケ……ン……?」
カイはケンの吹き飛ばされた方へと走ろうとする。
「待てカイ!あの人は、もう死んでる!」
「そんな筈ない!!ケンはまだ生きてる!!」
牛の災厄獣の方に向かおうとするカイを必死にフォルスは止める。
「昼に見ただろ!あの災厄獣の突進を!あんな突進をまともに喰らって生きてる筈がない!」
カイは牛の災厄獣が突進によって、木が粉砕していた事を思い出す。
「いやだよ……何で……」
「モォォォォ……!」
牛の災厄獣がカイとフォルスの方を向く。
その角には、何かが引っ掛かっていた。
牛の災厄獣は頭を振ってその邪魔な何かを振り落とした。
ベチャッという鈍い音を立てて、その何か……ケンの体はカイの隣にある木に当たってずり落ちる。
右腕は無く、腹部は角に貫かれたせいでポッカリ空いてカイと同じ迷彩の戦闘服は赤く染まっている。
カイはその何も映していないケンのオッドアイの目と目が合う。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
カイは泣き叫びながらケンに寄る。
「起きろよ!!ケン!!起きろってば!!!」
体を揺すっても、頬を叩いても動く気配はない。
「何で……起きないんだよ……!?」
「モォォォォォォ!!!」
カイに向かって牛の災厄獣が突進する。
ガギィィン!と金属質な音を響かせて、フォルスの大剣と、災厄獣の角が衝突する。
「立て、カイ!このままじゃ、俺たちも死ぬ!!」
必死に災厄獣を押し込みながら振り向いたフォルスの鋭い瞳が、カイを射抜く。
カイはただケンを抱えて、フォルスの姿を見上げる事しか出来なかった。
一方その頃───
アルドとリクトは、焚き火を囲んで、カイとフォルスを待っていた。
「あいつら遅いなー」
アルドはリクトの方を見ながら言う。リクトが返事をする様子が無いのに溜息を吐き、リクトの側による。
そのままアルドは尻餅をついたままのリクトにしゃがんで手を伸ばす。
「いつまでそこで座ってんだよ。立てよ」
その手をリクトは振り払う。
「……黙れ、ヴィアンティカ人。今私に話しかけないでほしい」
その様子にアルドは溜息を吐き、立ち上がる。
「……お前がどんな経験して来たのか知らねぇし、カイが悪人かも分かんねぇけどよ、あれは言い過ぎじゃねぇのか?」
「……フン、貴方には一生分かりませんよ」
「ああ、お前の事も、カイの事も俺は何も知らないし、何も分からない。だから、俺の話を聞け」
「は?」
「俺は見ての通り、ヴィアンティカ王国出身の……結構いい位の貴族だ!親父、兄貴、俺の順番で、母親は物心着いた時に、親父と離婚して居なかった」
「……何ですかいきな───」
「黙って聞け!俺は魔法の才能が認められて、よく分からないが、それなりに高い位に就いてた。けどある日、兄貴からこの北方警備隊っていうのに入らないかって勧められた」
「…………」
リクトはアルドの話を言葉を発する事なく静かに聞いている。
「普段、あまり話す事のない兄貴からの提案って事で嬉しくなって即受けて、この北に来た。けど、こんなに北の地や、北方警備隊が危険だって事は、誰も教えてくれなかった」
アルドは一拍置いて続ける。
「俺は分かんねぇんだ。兄貴が何でこんな事をしたのか。なぁ、教えてくれよ」
「……想像してたよりも、貴方は馬鹿だったみたいですね、ヴィアンティカ人。そんな事も分からないんですか?」
「なっ!?お前何で兄貴がこんな事したのか分かるのか!?」
「……はぁ、ヴィアンティカ人は4人に1人が馬鹿だと言うのは本当みたいですね。貴方はその兄に殺されそうになってるんですよ」
「はぁ!?」
アルドは思いもよらなかったという表情を浮かべている。
「……貴方が高い位に就いているのが気に食わない兄が、魔法しか使えない馬鹿の貴方を口車に乗せてこの危険な北の地で合法的に殺そうとしたって事ですよ」
「馬鹿は余計だろ!俺はそんなに馬鹿じゃない!」
「……馬鹿じゃないなら、身分の高い貴方が、こんな所に来てないんですよ!貴方はその兄に嵌められたんです!」
アルドは暫く腕を組んで考え込んでいたが、ポンと手を叩いて納得した様子を見せる。
「だったら、お前と同じじゃねぇか」
「……は?」
「だって、お前は仲間とかに嵌められてここに来させられたんだろ?だったら、お前の気持ちも俺は分かる!」
「……そんな単純な話じゃないでしょ」
「俺が分かると言ったら分かるんだ!お前は苦しい思いをしたかもしれない。だが、カイにやったのはただの八つ当たりだ!カイに謝れ!そしてカイもお前に謝ったら解決だ!」
「……それだと───」
「……ああ!埒が明かねぇ!兎に角もう一度カイと話せ!それで何か見つかるだろ!カイを探しに行く!立てよ!」
アルドはもう一度手をリクトに差し出す。
「……分かりましたよ」
リクトはアルドの手を掴んで立ち上がり、2人は向き合う。
「これで俺たちは
「……まだ認めてませんから」
リクトは、プイっと顔を横に逸らす。
「何だよそれ!別にいいじゃ───」
「プギィィィィィ!!!」
アルドの声すら掻き消す程の鳴き声が、リクトとアルドの耳に響く。
鳴き声の方を見ると、昼間に見た、豚の災厄獣がノッシノッシと2人に接近して来ていた。
「……チッ、こんな時に限って。私と貴方だけじゃ、抑えきれないですよ」
「……へっ、仲間が必要って思えるようになって来たんじゃねぇか?」
「今そんな事言ってる場合じゃないんですよ!後衛しか居ない私達2人じゃ、食い止める事も難しいって言ってるんです!」
リクトは声を荒げる。その声には怒りの他の感情も混じっていた。
「前衛なら、俺が居るだろ!」
「何を言って……」
アルドが腰から剣を抜き放った事でリクトは口を閉ざす。
「俺は身体強化の魔法も使える!だから前衛は任せろ!」
「……だったら頼みますよ」
「おう!」
リクトは銃に手を掛ける。
アルドは剣先を災厄獣に向ける。刀身が、焚き火の炎によって輝く。
「プギィィィィ!!」
「《
ドコドコ走って突っ込んできた豚の災厄獣をアルドは全身を魔法によって強化し、剣で受け止める。
「……オラァァ!!」
そのまま剣を振り下ろして、災厄獣を後退させる。
「ハッハッハ!アルド様を舐めるなぁ!!」
闇夜の北の大森林で、2つに別れた12班の命を懸けた戦いが始まる。
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