第38話 五つ星のお墨付き
「基月くん、わたしと付き合ってくれませんか?」
梅雨の気配が六月下旬。
放課後の教室で、僕はいきなりクラスメイトの女子から告白をされた。
彼女の名前こそ辛うじて知っている。
二年D組になって初めて同じクラスになったが、特に親しく交流した自覚はない。会話らしい会話を数えるほどしかしたことがなく、その内容あやふやなだ。
少なくとも僕──
「まずはありがとう。突然のことに正直すごく驚いています」
「そうだよね」
「どうして僕に告白を? なんかの罰ゲーム?」
カースト無関心男子と周りから言われるような俺が、クラスでも賑やかなグループの女子から興味を持たれる理由に心当たりがない。
なにかの罰ゲームのダシにされている方がよっぽどしっくりくる。
「そんなわけないよ‼」
彼女は本気で目を丸くしていた。どうやら本物の告白らしい。
「それならそれで緊張するな……」
「え、そんな風に思ってたの?」
「前に手紙で呼び出されてとんでもないことになった経験もあるからさ」
思い出して苦笑いを浮かべてしまう。
そんな風に都合よく好意を向けられるような状況が自分にはあまりリアリティーがない。
「やっぱり基月くんってモテるんだね」
「なんだよ。やっぱりって、当の本人が初耳なんだけど」
「ほら、基月くんって最近ファイヴスの子たちと一緒に行動しているでしょう。それで二年生の男子の中でも、すごく目立っているんだよ」
彼女の言う通り、僕にもいわゆる友達という存在ができた。
クール系女王様ギャルの
元気系王道ギャルの
小動物系癒しギャルの
無気力系不思議ギャルの
学内ではファイヴスと呼ばれてアイドル扱いされるギャルたち四人とひょんなことから親しくなり、紆余曲折を経て今では同じ友達グループとして行動していた。
「美少女四人組の中に、男が混ざれば嫌でも目を引くって。変な誤解はしないで」
「
「他の四人が最初から人気者で特別であっても、僕自身は変わっていないし関係ないよ」
謙遜ではなく、実感として答える。
これまで単独行動の多かった人間がいきなりグループに混ざれば物珍しいだろう。
ただしスクールカーストのトップ・オブ・トップに君臨する五つ星ギャルたちと同列に見られるのは、あまりにも荷が重い。
ただでさえ集団における評価や順位に無頓着な人間としては、変な注目をされるのは正直しんどい。
「ほらぁ、基月くんのそういうブレないところがカッコよくていいなって思って告白したの」
彼女は熱っぽい眼差しでこちらを見てきた。
なにやら過大評価されている。
要するに学内評価五つ星ギャルと唯一親しい男という付加価値が今の僕にはついているようだ。
さながら芸能人とコラボして一時的に再生数が爆上がりしたYouTuberみたいなものだろう。
そんな旬な男を彼氏にできれば、彼女としても周りに自慢できる。
うーん、ノリが軽い。
「いやいや。マジでどうでもいいだけだから」
「そういうクラスの男子よりも大人っぽくて落ち着いているところも素敵」
困った。
こちらの言い分を正しく受け止めてくれない。
「それでどう? 基月くん、わたしと付き合わない?」
「今はちょっと恋愛は無理かな」
僕は正直に答える。
「恋人になれば馴染んで楽しくなるよ」
「そうじゃなかった時には失礼になるから」
「恋愛でメンタルがジェットコースターになるなんて当たり前だし、それが楽しいわけだし。ドキドキできない相手に告白なんかしないってば」
なかなかの強メンタルだ。粘る。
「えーっと、たぶん君と僕では恋愛観が根本的に違う気がすると思うよ」
「……断ろうとする理由ってもしかして恋人がいるとか? なら、内緒でお試し期間で付き合ってみない? わたしの方が楽しかったら乗り換えればいいし」
この子は、あっさりと男に都合のいいことを言うなぁ。
下手な男なら靡いてしまいそうだ。
「あ、もしかして恋人ってファイヴスの誰か? まさかの全員でハーレム的な?」
「そんなわけあるか!!」
「よかった。さすがにあの四人だと勝ち目ないからさぁ」
「どこをどう見たら、僕が彼女らと付き合えると思うわけ?」
どうしてそんな盛大な誤解としたのか、逆に質問してしまう。
「そりゃ誰が見たって──」
彼女の言葉はふいに途切れる。
その視線は僕の背後に向けられ、楽しげだった表情はみるみるうちに緊張して固くなっていた。
「どうしたの? 後ろになにかあった?」
「きっ、基月くん! わたし用事を思い出したから帰るね! さっきのことは冗談だからぜんぶ忘れて! あくまでクラスメイトとして今後ともよろしくね!」
彼女は声を上ずらせ、慌ただしく教室を出ていった。
一体なんだったんだろうか?
最後は肉食獣に睨まれた獲物のようだった。
僕は首を傾げながら、
「こいちゃん、待たせすぎ!」
「憩、早く!」
「基月くん、そろそろ一緒に帰ろうよ」
「基月氏、油を売るのもいい加減にしろ」
振り返ると僕の友人である五つ星ギャルの四人が立っていた。
「どうも終わったみたいだから帰れるよ」
こうして僕はいつものように友達と下校する。
男女比1:4のグループ。
今のところ恋愛の気配はない──少なくともこの時の僕はそう思っていた。
☆☆☆☆☆
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