第29話 無気力系不思議ギャルとのデート

「漫画喫茶か」


 案内された雑居ビルのワンフロアに、その場所があった。


美悠みゆとの定番デートに、ひなわとアクティブデートと二連チャンで疲れただろう。ここなら休むにちょうどいい」


 もしかして僕に気を遣ってくれたのか。

 いや、白金プラチナに限ってそれはないだろう。彼女はあくまでも自分ありき。それにファイヴスから追い出そうとしている男にわざわざ配慮する理由もない。


「助かるよ」

「あぁ、私も無闇に動き回るのは嫌いなんだ」


 ほれ、見たことか。

 ある意味では、金剛寺こんごうじ白金プラチナとのデートが今日一番に緊張している。


 手紙で呼び出されて、彼女たちから離れろと通告されたばかりだ。それが今日に限っては、ひなわの無茶ぶりを否定することなく参加している。


 なにか思惑があるのでは、と身構えるのが当然だった。

 下手なことを言って藪蛇やぶへびになるのも嫌なので、僕は慎重に様子を見ながら白金に従う。


 彼女は慣れた様子で受付を済ませ、割り当てられたブースに入っていく。

 そこはやや手狭ながらも足を伸ばせるフラットシートタイプの個室。


「ここに、ふたりで入るのか?」


 僕は思わず確認する。


「デートだからな、一応」


 今さら何を言っているんだ、という顔をされた。


 好きな漫画と飲み物を持って、ブースに戻ると彼女は既にくつろぎモードだった。

 上着と靴を脱いで、クッションを敷きながらリラックス。

 白金が大人っぽい恰好をしているせいで、漫画喫茶内だというのに妙に優雅な雰囲気だ。


「先に始めているぞ」

「何を読んでいるんだ?」

「こち亀。全巻読破が目標なんだ」


 白金は一瞥もくれずに読み続けている。


「200巻越えはなかなかに挑戦し甲斐があるな」

「基月氏は何を読むんだ?」

「今度アニメ化するって作品の予習」

「娯楽に予習なんて真面目だな」

「もともと気になっていた作品ってだけだ」

「君はデートの下調べをするタイプか?」

「漫画喫茶とは予想外だけどな」


「こんな可愛い同級生と狭い密室でふたりきりでいいじゃないか」

「自分で言うかよ」

「緊張しているのか?」

「そりゃな」

「何故?」


 白金は初めて顔を上げた。


「自分の胸に聞いてみろ」

「もしもーし、おっぱいさーん。基月きづき氏が緊張しているのは、私の恰好のせいかな?」


 白金は雑に鷲掴みした自分の両胸を話しかけていた。


「わかっているなら訊くな! それセクハラになるぞ」

「ただのサービスじゃないか。今なら特別に視姦し放題だ」

「するか!」


 わかりやすいお膳立てが罠であることは、先日の手紙の件で凝りている。

 僕はできるだけ白金から距離を置いて、腰を下ろす。


「そんな隅っこで縮こまらなくていい。それとも狭い方が落ち着くタイプか?」

「その長い脚が邪魔なだけだ」

「私は楽な恰好で漫画は読みたい派なんだ。この主義は曲げられない」

「おかげで窮屈きゅうくつ極まりないんだよ」


 白金が広々と空間を占有するから、僕は範囲が隅しかないのだ。


「足を伸ばしたいなら、そうすればいい。私がその上に乗るから」


 あくまで自分は譲歩する気はないらしい。

 それならばそうかと僕も開き直って足を伸ばす。

 白金はそれに合わせて、本当に俺の脚の上に自分の脚を重ねてきた。

 僕はできるだけ意識しないように漫画のストーリーに集中することにした。


「こういうの平気なんだな。彼氏とよく来るのか?」


「──彼氏などいない」


「は?」

「だから、嘘だ」

「いい加減にしろよ」


 身体だけでなく気分までぐったりしてしまう。

 本日三度目の同じ噓を打ち明けられて、さすがの僕も限界だ。


「その反応は、美悠とひなわから彼氏がいないことを告げられたな」

「おまえ、気づいていたのか」

「ふたりの発言には拙いところが特に多かったからな」


 まぁ僕が疑うレベルなのだから、白金が気づいているのも当然と言えば当然か。


「さっさと指摘してやれば、全員が噓のつじつま合わせに四苦八苦する必要もないのに。そもそも最初に言い出したのは誰なんだ?」

「…………」


 奇妙な沈黙が訪れる。初めて白金は言葉に詰まった。


「金剛寺?」


「まぁ、私だな」


「おまえのせいかよッ!」


 思わず大きな声が出てしまう。

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