第21話 謎の手紙

基月きづきくん、今日もご飯食べようよ!」


 昼休みのチャイムが鳴るなり、美悠みゆがこちらにやってくる。

 断る理由もないので了承すると、必然的にファイヴスの面々とも一緒だ。


 五人で学食へ行き、同じテーブルで食べながら好奇の目に晒される状況にも慣れてくる。

 誰がどう見ても僕が五つ星ギャルたちに話しかけられる頻度が増えた。


 玻璃はりにとっては男子との会話の練習台。

 ひなわにとっては暇つぶしの遊び相手。

 美悠にとっては他の男子に対する壁役。


 休み時間になる度、誰かに話しかけられて、さらに他のファイヴスの子が合流してくる。そして結果的に彼女ら四人と僕が一緒にいることが増えていく。


「無自覚に沼らせているな、この色男」


 この不可思議な状況を他人事のように眺めているのが金剛寺白金だった。

 ギャルに囲まれている僕がどうもおかしいようだ。


「その理屈なら、一緒にいる金剛寺こんごうじも含まれるぞ」


 僕なりの精一杯の皮肉だった。


「ふふ、やめておきたまえ。ささやかなモテ期を邪魔するほど私も野暮じゃない」

「見当違いだよ。むしろフォローしてくれ」

「おや、私に助け舟を求めるなんて君も焼きが回ったね」

「溺れる者は藁をもつかむ、って言うだろ」

「藁のように貧相な身体はしていないよ」


 白金プラチナは両手を合わせて上に向かってストレッチをした。背中を伸ばして姿勢を正すと、思っていたより大きな胸がアロハシャツの下から存在感を発揮する。


「大きいと肩が凝ってね」とこれ見よがしに言ってきた。

「…………ッ」

「一部に熱い視線を感じるんだが」


 からかう口元には余裕の笑みが浮かぶ。


「以後は気をつけるよ」

「目が泳ぐと、かえって意識しているのがバレバレだ。君らしくもない」


 慣れているとばかりに嘲笑う。

 僕がムキになって睨むと、その反応がおかしいようだ。


「生憎と女性の顔を見つめるのには慣れていないんでね」

「贅沢な弱音だな。まぁ、基月氏のそういうところが我々にはちょうどいいんだろうな」

「? なんだよ、ちょうどいいって」


 スクールカーストのトップにいる女子に好まれる要素がどこにあろうか?


「私たちのようなタイプが四人も固まっていると無邪気に好意を寄せられることもあれば、一方的な妬み嫉みを向けられる、軽く見られる、妄想を押しつけられる、偏見に基づいて接せられる、と面倒なこともあるんだよ」


 見目麗しく華やかなギャルならではの苦労を僕は想像するしかない。

 楽しそうな笑顔の裏で日々ストレスを溜めていることもあろう。

 そのはけ口として僕のような相手で解消するのかもしれない。酷い。


「だから我慢しろって?」

「──、本当に参っているようだね」

「当たり前だろう。僕が女性を手玉にとれる男に見えるか?」

「自覚的には、無理だろうな」


 半笑いで、どこか奥歯に物が挟まるような言い方だった。


「言いたいことがあるならハッキリ言え」

「では、言おう。私にはむしろ基月氏が無自覚に翻弄しているように見える」


 僕はいつもギャルパワーに振り回されているだけである。


「ただし、君を除いてだろう?」

「私まで頭数に入ると君はますます悪い男になるよ」


 白金はいつも通り掴みどころのない、意味深な表情をする。

 だが、今だけは少し違って感じられた。


「──金剛寺、なんで怒っている?」

「どうしてこういう時に限って鋭いんだ」


 白金は顔を背けて舌打ちする。


「理由がわからない」

「男なら女の不機嫌な理由くらい察したまえ」

「難易度が高すぎるぞ」

「君にハーレムは築けない。素直で、人が良すぎる。だからこそ問題なんだ」


 白金は見切りをつけるように、僕から離れていった。


 ☆☆☆☆☆


「なんだ、これ?」


 朝。登校して自分の下駄箱を開けると、中に手紙が入っていた。


 恐る恐る手に取ると可愛らしい便箋には、基月きづきいこいさまへ、と書いてある。


「入れ間違い、というわけではなさそうだな」


 いくら宛名が自分とはいえ、この手の中身を見るのにはいささか躊躇ちゅうちょする。

 手紙というものに慣れていない人間にとっては、色めき立つより単純に恐かった。


 誰かの悪戯いたずらだろうか。


 最近はファイヴスと一緒にいることが多いため、熱心なファンから不幸の手紙や脅迫状でも書かれたのかもしれない。


「今どきこんな手間をかけて?」


 ただの嫌がらせだったら、僕の靴はとっくに悪戯されているだろう。

 やはり開けて中身を確かめるしかあるまい。


 僕は思い切って封を切る。

 手紙の内容は実に簡潔だった。


 今日の放課後に会いたい、というものだ。


 送り主の名前は残念ながらない。


「これをラブレターと判断するのは早計だな」


 あくまで呼び出しの内容であり、恋愛感情を吐露する文面ではない。

 果し合いや罠に嵌められる可能性が消えたわけではない。


 ただし、とても綺麗な文字だった。大層な達筆で惚れ惚れするほど品があった。それだけで好感度が上がる美文字である。

 文字の美しさが悪意を希釈するのに一役買っているのだから困りものだ。

 世の中には美しい文字を書く悪人だっている。


 それでもこの美しい文字の主が気になってしまう。


 たおやかな文字から想像される相手の人格に、つい想像を馳せてしまう。

 我ながら前時代的な感性だ。まるで平安時代の貴族ではないか。

 そのやって自嘲しながら、この手紙の意図について考える。


「さて、どうしたものか」


 いじめや嫌がらせと確定したわけではないから、相談したところで解決しようもない。

 この呼び出しに僕が応じるか。

 それが問題だ。


 ふいにファイヴスの誰かに相談することも考えてみたが、すぐに却下した。


「あまり良くないだろうな」


 悪手であると直感する。なぜかよくわからないが悪寒が走る。

 もしも相談したら今以上の大荒れになるような気がした。


「ひとりで解決するか」


 手紙を封筒に入れ直して、この件は僕の胸の中にしまっておくしかなさそうだ。


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