36.ぞろぞろ
「【鑑定】!」
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名称:
魔物等級: A+
特性:
月の魔力をその身に宿す幻獣。
極めて誇り高く、人には懐かないとされる。
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「げ、月狼……!? 本当に、実在したなんて……!」
ノアは、鑑定結果に、鑑定士として、そして一人の人間として、戦慄していた。
そんな幻の生き物が、今、目の前で……。
「クゥン……」
月狼は、自分を助けてくれたシューゼに、感謝を示すように、シューゼの手を、ぺろぺろと舐め始めた。
「わっ……くすぐったいよ……」
四人と一匹。
森の奥に、穏やかで温かい時間が流れる。
だが、その空気に水を差す者達がいた。
「っ……! ……皆、警戒して。誰かいるよ」
シューゼが皆に警戒を促す。
ガサガサッ!
「「「っ……!?」」」
近くの茂みが大きく揺れる。
そして、中から、屈強な体つきをした、柄の悪い男たちが、ぞろぞろと姿を現した。
その数、およそ二十人。
全員が、剣や斧などの武器を、その手に握りしめていた。
先頭に立つ、一際態度の大きい傷顔の男がシューゼたちの足元にいる子狼の姿を認め、下品な笑みを浮かべる。
「おっとぉ、見つけたぜ。手間ぁかけさせやがって……。ん?」
傷顔の男は、そこで初めて、シューゼたちの存在に気づいたようだった。
「なんだぁ? ガキどもぉ……こんなとこで、お遊びかい?」
穏やかだった空気は、不快な緊張感に塗り替えられた。
子狼は、男たちの姿を見るなり、シューゼの後ろに隠れ、低い唸り声を上げている。
(こいつらがこの子に矢を……?)
シューゼは、ゆっくりと立ち上がると、傷ついた子狼を庇うように、その前に立った。
その小さな背中には、確かな覚悟が宿っていた。
シューゼが月狼を庇うように立ちはだかったのを見て、傷顔の男は、一度、意外そうに目を見開いた。
しかし、次の瞬間には、その口元に下卑た笑みが浮かんでいた。
「へっ……。なるほどな。お前……追放された、元第三王子のシューゼ様じゃねえか。こいつは、ついてるぜ。手間が省けたってもんだ」
その言葉に、シューゼとノアの顔に緊張が走る。
男は、ューゼの顔を知っていたのだ。
しかし、男の態度に、敬意など、ひとかけらもなかった。
自分たちが、武器を持った大人数の集団で、相手が、一人の子供と、二人の少女と謎の浮遊物体だけであること。
その圧倒的な優位性を確信しきっているようであった。
「元王子様よぉ。悪いが、そのでけえ犬っころは、俺たちが見つけた獲物なんだわ。さっさとどかねえと、痛い目見ることになるぜ?」
傷顔の男は勝ち誇ったようにペラペラと語り始める。
「俺たちゃあ、ちいとばかし野暮用で、このゴミ山に来たんだがよぉ……」
(野暮用……?)
「その途中で、こんないかにも高く売れそうな毛皮を見つけちまったんだ。こいつを売れば、王都で豪遊できるくらいにはなるだろうからなぁ」
男の言葉から、彼らが、この月狼を、ただの金儲けの道具としか見ていないことが、はっきりと伝わってきた。
シューゼは静かに告げる。
「ここは、まがりなりにも、僕に与えられた土地です。あなたたちは、不法侵入者にあたります。今すぐ立ち去ってください」
その言葉を聞いた瞬間、傷顔の男は、腹を抱えて大笑いし始めた。
「ひーっひっひ! 領地だぁ? ゴミ山の王様ごっこかよ! こりゃあ傑作だぜ!」
周りの部下たちも、一斉に、下品な嘲笑の声を上げる。
シューゼの警告など、全く意に介していない。
やがて、リーダーの笑みが、すっと消える。
その目は、蛇のように冷たい光を宿していた。
「ガキが……調子に乗りやがって。さっき言った『野暮用』ってのが、何だか教えてやろうか?」
男は、にやりと笑みを浮かべる。
「それはな……。お前が、このゴミ山で築いたもの、持っているもの……。その全てを、根こそぎ、ぶっ壊して、奪うことなんだよ!」
(……!)
その言葉に、シューゼとノアは、はっと息をのんだ。
ただの密猟者ではない。
明確な悪意を持って、自分たちを狙ってきた敵。
「お前ら! やっちまえ!」
リーダーが、叫んだ。
「その犬っころも、そこの女どもも、全部捕まえろ! 逆らうなら……好きにしてしまって構わねえ!」
その号令と共に、二十人近い部下たちが、一斉に武器を構え、シューゼたちに襲い掛かってきた。
「うおおおおおっ!」
雄叫びと共に、二十人近い傭兵たちがシューゼたちへと襲い掛かってきた。
しかし、シューゼたちは、全く動じていなかった。
まず、動いたのはプルリだった。
彼女の体が、淡い光と共に、ぷるん、とした青いスライムの姿へと戻る。
「な、なんだぁ!? あの女、消え……す、スライムになっただと!?」
傭兵たちが、そのありえない現象に、一瞬だけ、足を止めた。
しかし、先頭の男は、すぐに気を取り直し、小さいプルリ目掛けて、大剣を振り下ろした。
「まやかしだ! 死ねや、スライムぅ!」
ぷにん。
大剣はプルリの弾力のある体に、虚しく弾かれた。
その隙に、プルリの体から粘着質の触手が伸び、男の体に絡みつく。
「うわっ!? な、なんだこりゃあ!?」
男は、あっという間に身動きが取れなくなり、地面に転がされた。
次に、ノアと月狼を守るように位置取っていたマキナ。
マキナは、その場から一歩も動かなかった。
ただ、襲い掛かってくる傭兵たちを冷静に待ち受ける。
「遅いですよ」
マキナは戦闘モードに変形したブレードの腕を最小限の動きで振るう。
傭兵たちの剣や斧を、紙一重で見切り、その懐へと潜り込む。
そして、ブレードの「背」の部分を使い、的確に、急所である首筋やみぞおちを、トン、トン、と打ち据えていく。
「ぐはっ!」「がっ……!」
マキナの元へとたどり着けた傭兵は、誰一人として、その先のノアたちに触れることすらできず、次々と意識を失い、地面に倒れていった。
そして、最も多くの敵が殺到していた、シューゼ。
彼は、ガーディアン・アックスを、静かに、腰だめに構えていた。
「……お、おい……いけよ」
「お、お前が……」
あれだけ威勢のよかった傭兵たち。
しかし、シューゼの異様な威圧感に二の足を踏んでいた。
「何をビビってんだ? 相手は十歳のガキだぜ? 行け! それとも……行けないのか?」
「っ……!」
傷顔の男に煽られ、
「うぉおおおおおおおお!!」
先頭の男が意を決するように雄たけびをあげながらシューゼに突進し、そして、大上段から剣を振り下ろす。
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