27.ご主人様

【修繕】の優しい光が、記憶喪失の少女の体を包み込む。

 すると、信じられないことが起こった。


 少女の体が、まるで溶けるように、その輪郭を失っていく。

 そして、一瞬だけ、ぷるん、とした可愛らしい青いスライムの姿へと変化した。


「「「ええっ!?」」」


 三人が驚く間もなく、スライムは再び形を変え、元の美しい少女の姿へと戻っていく。


 そうして、光が完全に収まっていく。


 少女はシューゼに向き直ると、深く、深く頭を下げた。


「あ、あの……助けていただき、ありがとうございます……。おかげさまで、記憶が戻ってまいりました……。プルリ……と申します」


(プルリ……?)


「はい。見ての通り……ええと、プルリの本体は、スライム……です」


 プルリは、少し恥ずかしそうに、自分の正体を明かした。


 シューゼが「どうして人の姿なの?」と尋ねると、プルリは、おずおずとノアの方をちらりと見る。


「そ、その……わけもわからずお湯に浸かっていた時、最初に、この方の姿が目に入り……そして、強く、目に焼き付いてしまって……。無意識に、真似てしまった……ようです……」


「えっ、私ですか!?」


 ノアは、驚きと、少しだけ複雑な表情を浮かべる。


「なるほどー。だから胸のサイズがそっくりなのですね!」


 マキナが無邪気にそんなことを言う。


(え……?)


「なっ、シューゼ様、確認しないでくださいっ!」


「あ、ごめん……」


「あ、あの……!」


 プルリは、改めてシューゼに向き直ると、その場に跪き、再び深く、深く頭を下げた。


「こ、このご恩は、一生忘れません……。どうか、この命、あなた様のために使わせてください……ご主人様」


「え、ご、ご主人様!?」


「はい。あなた様は、私の命の恩人です。今日から、プルリは、ご主人様にお仕えします」


 どうやら彼女は、シューゼを仕えるべき「主」と認識したようだ。


 こうして、思いがけず、四人目の仲間が加わったのだった。


 なお、その後、記憶の修繕をマキナに試してみたが、効果はなかった。

 どうやらマキナの場合は別のパーツに大事な記憶が詰まっているということのようだ。


 ◇


 プルリが仲間になった、その日の夜。


 もうすっかり遅い時間になっており、今からプルリのための新しいベッドを作る時間はない。


 二台のベッドが並ぶ寝室で、四人は少し困っていた。


 しかし、プルリはスライムの姿に戻ると、さっさと床でぷるんとし始める。


 そんなプルリの姿を見て、ノアが優しく声をかけた。


「プルリさん。それなら、私と一緒に寝ませんか? 少し狭くなってしまいますが、床よりはずっといいはずです」


 ノアが、自分のベッドへ来るように、優しく手を差し伸べる。

 しかし、その時だった。


「……皆様、おやすみなさいませ」


 プルリは、驚くべきスピードで床を滑るように移動していく。


 そして、その目的地は……、


 もぞもぞ。


 シューゼが、「え?」と声を上げる間もなく、プルリは、シューゼのベッドの布団の中へと、巧みに潜り込んでしまった。

 そして、シューゼの胸のあたりで、ぽこん、と布団が丸く盛り上がる。


「……むにゃむにゃ……ご主人様……あったかい……です……」


 布団の中から、幸せそうな、くぐもった声が聞こえてきた。


「「………………」」


 シューゼは固まる。


 ノアは、「なっ……!」と、自分の優しさが無に帰したことに、絶句している。


 そして、沈黙を破ったのは、もう一人の同衾どうきん者だった。


「ずるいです、プルリ! わたくしだけかと思っていたのに!」


 シューゼの腕の中にいたマキナが、ぷんぷんと怒っている。


「えぇ……」


(う……、でもこの感触……正直、悪くない……。プルリは、こっちの方が元の姿だから、マキナに比べると背徳感も少ないな……)


 シューゼはこっそりそんなことを思っていた。


 ◇


 新しい家での生活にも慣れてきた、追放十七日目の朝。


 四人は先日作ったばかりの畑の様子を見に来ていた。


「わぁ……!」


 シューゼは思わず声を上げた。

 数日前に植えたばかりの種から、可愛らしい双葉が、ちょこんと顔を出していたのだ。


「マスター! 芽が出てます!」


 マキナが嬉しそうに跳ねる。


「少し、鑑定してみましょうか」


 ノアは、その小さな双葉に、そっと手をかざした。


「――【鑑定】」


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