09.宝物

 シューゼは目の前の錆びた金属の塊に、全ての意識を集中させた。

 頭の中に流れ込んできた、二つの美しい輪っかのイメージ。

 それを完璧に再現するんだ、と。


 まずは、こびりついた錆を、スキルで丁寧に剥がしていく。

 すると、下から現れたのは、金と銀の二色の金属が、複雑に絡み合った土台だった。

 次に、歪んだ部分を理想接合で矯正し、滑らかな円形へと戻していく。

 そして、最後に……。


(宝石だ……)


 イメージの中では、二つの輪っかには、それぞれ青と緑の宝石がはめ込まれていた。

 しかし、この金属の塊には、小さな石しか残っていなかった。

 シューゼは小さな石に触れ、強くイメージした。

 青色の、深い宝石を。

 緑色の、澄んだ宝石を。


 すると、シューゼの指先から溢れ出した魔力が、台座の上で形を結び始める。

 光の粒子が集まり、少しずつ、少しずつ、美しい宝石へと姿を変えていった。


 そして、ついに。


《――二つの腕輪の修復が完了しました》

《リペアポイントを 8,000 RP 獲得しました》

《現在の保有RP: 53,800》

《理想接合がLv.2にレベルアップしました》


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 スキル:【修繕士】


 保有RP: 53,800


 能力一覧:

 思考加速 Lv.2

 (主観時間が2倍に引き伸ばされる)

 

 理想接合 Lv.2 [Lv↑↑]

 (欠損した小部品をイメージから生成・補完できる)

 

 設計図想起 Lv.1

 (対象物の構造情報が、断片的な映像として流入します)

 ============


 シューゼの手元には、完成した二つの腕輪が、まばゆい輝きを放っていた。

 一つは、金の腕輪にサファイアのような青の宝石。

 もう一つは、銀の腕輪にエメラルドのような緑の宝石。


「わぁ……綺麗です、マスター!」


「ありがとう。なんとか、うまくいったみたいだ……」


 シューゼがその美しさに感心していると、隣で見ていたノアが、真剣な眼差しで口を開いた。


「シューゼ様。よろしければ、その腕輪を、私に鑑定させていただけないでしょうか?」


「うん、お願いするよ」


 ノアは、まず金と青の腕輪を手に取り、【鑑定】を発動させる。


 ============

 名称: 守護の腕輪


 等級: B+


 効果:

 装備者に害意ある攻撃が向けられた際、弱い攻撃であれば魔力障壁で防ぐことができる。

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「こ、これは……! 持ち主を危険から守ってくれる守護の腕輪……! 等級もB+……! そう簡単には入手できない代物ですよ!」


 次に、銀と緑の腕輪を鑑定する。


 ============

 名称: 妖精の腕輪


 等級:B+


 効果:

 装備者の体力を、常に微量ずつ回復させる。

 疲労の蓄積を大幅に軽減する。

 ============


「こちらも……! 常に装備者の体力を回復させる、魔法の腕輪です! どうしてこんなものがここに!?」


 ノアは興奮を隠しきれない様子で鑑定結果を告げた。


「よかった。じゃあ、マキナとノアさんで、一つずつ持ってて」


「「えっ!?」」


 シューゼはマキナに守護の腕輪を、ノアに妖精の腕輪を手渡した。


「わー! ありがとうございます、マスター! 宝物にしますね!」

「そ、そんな! こんな貴重なものを、私がいただいてよろしいのでしょうか……?」


 素直に喜ぶマキナと、恐縮するノアであった。


「さて、と。プレゼントも渡せたことだし、次こそ、ベッドを作ろうか」


 シューゼは気持ちを切り替えると、ベッドの材料に向き合う。


 シューゼはノアが分類してくれた素材の山に向き合った。

 しかし、今回は【修繕】スキルには頼れない。

 これは、壊れたものを直すのではなく、素材から新しいものを作る「工作」であった。


「マキナ、手伝ってもらってもいいかな?」

「はい、マスター! お任せください!」

「シューゼ様、私も精一杯、手伝わせていただきます」

「ありがとう、ノア」


 そうして三人の工作が始まる。

 シューゼは、まず丈夫そうな鉄板を土台にし、その四隅に金属の棒を立ててフレームを作る。

 釘もネジもないので、近くに生えていた金属質の丈夫なツタで、ぎちぎちに固く縛り上げていく。

 次に、乗り物のバネをフレームの間に渡し、その上に破れた帆布を何重にも張って、寝床の土台とした。

 最後に、クッションの残骸から取り出したフカフカの詰め物を、布袋に詰めてマットレス代わりにする。


 悪戦苦闘の末、見た目は少し不格好だが、温かみのある手作りのベッドが、なんとか二台完成した。


「ふぅ……できた……」

「マスター、すごいです!」


 三人は自分たちの力で作り上げた達成感に、満ち足りた表情を浮かべる。

 ノアは、その手作りベッドを、興味深そうに見つめていた。


「シューゼ様……その……鑑定してもよろしいでしょうか」

「え……? まぁ、大丈夫だけど……」


(……なんでわざわざ手作りベッドを鑑定するんだろう?)


 ノアがベッドに手を触れ、【鑑定】を発動させる。

 そして、その結果を見た瞬間、彼女は信じられないというように、目を見開いた。


「……そ、そんな……」


 ============

 名称: 安らぎの寝台


 等級: B


 効果:

 この寝台で睡眠をとった者は、魔力が微量上昇する。

 ============


「ど、どうしたの、ノアさん?」

「シューゼ様……! このベッド……等級Bがついております……!」

「ん……?」


(ほほう。ところで等級Bとは?)


 シューゼはそれがすごいのかどうかよくわからなかった。


「それってすごいの?」


「すごいなんてものじゃないですよ!」


 ノアは興奮している。


「きっとノアが集めてくれた素材がよかったんだよ」


「……! そ、そんな……滅相もございません!」


 ノアは少し頬を染め、恐縮している。


「とりあえず、一台はノアさんが使って。もう一台は僕が使うから」


「シューゼ様、ありがとうございます!」


「いえいえ、それじゃあ、お試しでちょっと横になってみようか」


 そうして、シューゼとノアはベッドで横になってみる。


「うわーーーー! すごく、すごく、最高の寝心地です!」


(……ノアはちょっと大袈裟だな…………うん、でも確かに悪くないな……)


 シューゼがそう思っていると、ぷかぷかと浮いていたマキナが、するりと寄ってきた。


「マスター、わたくしはどこで眠ればよろしいのでしょうか?」


「え? マキナは浮いてるから、ベッドは要らないんじゃ……」


(今までも空中で寝てたし……)


「その通りだけどー…………えいっ!」


「わっ!」


 マキナは突然、シューゼのベッドにダイブする。

 そして、丸い体をシューゼにすり寄せ、心地よさそうに目を細めている。


「ちょ……マキナ……」


「なんですかー? 恥ずかしいのですかー?」


「い、いや……別に……」


「であれば、わたくしは今夜からマスターと寝ることにしますよー」


「えぇっ!?」


「なんなら元の状態に戻って、枕にしていただいても……!」


「いえ、結構です……」


 その様子を、ノアは怪訝そうな顔で見ていた。


 あの生物は……一体、何なのだろうか……。元の状態とは……?


「まぁ、ただの変な生物なら……別に……いいのですが……」


「えっ? どうしたの? ノア」


「あ、いえいえ、なんでもございませんよーー」


(……?)

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