閑話3 記録屋②
ふぅ、報告書はこんなもんで良いか。
俺はジョッキを掴み、残りの酒を流し込む。
「読み返しても意味分かんねぇな」
手元の報告書を表紙から見返す。
この街リュメルナで、行方不明事件が発生していると聞いてやって来た頃からの記録が残っている。
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
日付:⚪︎月△日
煙霧の街リュメルナに到着。調査を開始。
現在の行方不明者は2名。
一人目
氏名:⚪︎⚪︎⚪︎
年齢:16歳
性別:女
被害状況:自宅に帰る途中、突如として姿を消す。場所は大通り。
二人目
氏名:⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎
年齢:5歳
性別:男
被害状況:母親とはぐれた後に失踪。場所は◯◯店近くの路地と推定。
被害時刻は共通して夜。
被害場所が違うため候補は絞れず。
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
日付:⚪︎月◻︎日
10人目の被害者が出る。
十人目
氏名:⚪︎⚪︎⚪︎
年齢:24歳
性別:男
被害状況:仕事帰り、帰路の路地にて失踪。
煙霧の街リュメルナに潜伏から約一ヶ月が経過。失踪後には数日何も起こらない以外手がかりはあまり掴めず。
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
日付:△月⚪︎日
調査を進めた結果、血の痕があった事から恐らく襲撃されたと推察。
我々では手が出せないため、見張りに移行する。
追記
銃を携帯した少女と—————が接触。異能持ちと判断し、情報を提供。(2p〜28pまでの被害者情報)
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
日付:△月⭐︎日
11人目の被害者が出る。
被害者は—————と柳色髪の少女に助けられたと供述。昨夜接触した二人組と推定。
十一人目
氏名:⚪︎⚪︎
年齢:18歳
性別:女
被害状況:大通り横の路地にて襲撃、肩に刃物を刺される大怪我。異能持ちの二人に救出される。
午前未明、地震が発生。後に霧の向こうに巨影を観測。確認の為に近づく。
10分後、遠目に古びた教会を発見。
また、上空に魚群と一際巨大な青魚、同程度の巨体を持つ鯨、数人分の体躯を持つ鮫と鯆を観測。
多量の銃弾により魚群の大部分が壊滅。
————抜け落ちている
柳色髪の少女が鯨を討伐。
————抜け落ちている
日没後、調査を終え街へと帰還。
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
なんだ、これは。
俺は混乱か、それともアルコールかわからない手の震えを堪えながら報告書を再度確認する。確かに俺は見た事を全て書いた…はずなのだが、大事な部分がごっそりと抜け落ちてしまっている。
「これは…夢か?」
抜け落ちた部分を確認すると、あの錆色髪の少女の関係する事が対象となっている様だ。俺は急いで紙を取り出し、この事象を記録しようとする。
——だが、ペンを手にした瞬間、手が硬直して動かなくなってしまった。震える手を押さえ、何とか文字を書く。しかし、その文字も崩れ落ち、記録に残す事が出来ない。
「くそっ!なんなんだこれはっ!」
記憶はしっかり残っている。だが記録には残さないなんて——
「…あ?」
その時、俺の脳は既視感を覚えた。こんな話、昔どこかで聞いた様な……
「あ」
思い出した。焼鎖事件だ。
あの事件自体に関する事は記録出来ているがその犯人については一切の記録が残っていないと言う物で、罪人を鎖で縛って炭になるまで焼き殺すなんて残虐極まりないが…。
「壊れた建物の近くで見た炭になった肉片と鎖が焼き付いた地面…似てる。それにあの嬢ちゃんの異能は…はっ、なるほどな」
まさか俺が【鎖罰の少女】に出会うとは…人生何が起こるか分からねぇな。だがあの化け物を倒した事と言い、悪い奴では無さそうなんだよな。
俺は追加で酒を頼み、一気に飲み干す。
辺りを見渡せば、いつもと変わらない日常が写っていた。俺の勘だが、あの化け物と行方不明事件は繋がっている気がする。
霧の向こうに巨大な影が見えた時こそ街中パニックになっていたが、収まって数日経つ今では平和と言って差し支え無いだろう。
「ま、このまま提出するしか無いか。どうやって誤魔化すかねぇ」
平和な街並みを眺めながら、俺は更に追加の酒を注文した。
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