第17話 最高の盃を

 グラシアはぬいぐるみを抱き抱えながら、レオッサの隣に座っていた。

 俺とブランコは諦め、胴体や手足を磁石のように首の下へと戻すレオッサを、ただ眺める。


「それじゃあ気を取り直して。創造するは無精の器、果てゆく肉体、いつの日にか宿し魂に祝福を。白き魔力よ、形作れ。クリエイト!」


 レオッサはそう言い、構えた両腕から白い光を放つ。

 だが、辺りを覆う光が止んで現れたのは、完成済みの巨大な白い船であった。


「そんで、俺らに何を手伝えと?」

「このぬいぐるみに籠った想いを、魔力に変換したら作れちゃった。でもまだ燃料は不充分。今度こそ手伝っておくれよ。魂の込もったものをくれ」


 黒い尻尾が、嬉々として揺らめき始める。

 ブランコはワゴン内へまた入り、紫色の液体が入ったボトルを取り出す。


「アタシの最高傑作だ、まごころ込めて作った! 絶対効果あるぞ、飲め!」


 投げられたボトルが、レオッサの顔面に直撃し、砕け散る。

 レオッサは、俺たちからの横暴な態度に慣れたのか。

 液体を地面に垂らしながら、うーんと唸る。


「想いは確かに込もってるけど、美味しくないなあ。というか味がしない」

「ふーん。アタシのじゃ、スケルトンの口に合わなかったか。そうだ、コルタルも何か作って飲ませないか? 魔法で作れば簡単だし、魔力少ないんなら幾らか渡すぞ。魔法使えないんなら、教えたっていいッ」


 黒猫が抱き付いてきて、呆然と眺めていた俺の体を揺らす。

 ブランコも骨も平然と魔法を使うが、習得するには魔女かその弟子の手を借り、正気を失うほどの体感時間を経なければならない。

 下手すりゃ廃人になる。


 くだらない理由で失敗のリスクを負うなんぞ、バカげてる。

 それに俺は、作法には従う主義だ。


「ブランコ、シェイカーはあるか?」

「おっ、やる気になってくれたか! ちょっと待ってろ、ワゴンにはないから主人のとこまで取ってくる!」


 嫌な予感を覚え、ブランコの腕を掴む。

 ブランコは不思議そうにこちらを見つめていた。

 一人で向かわせ、もしブランコと魔女が和解し地上へは二度と戻って来なくなれば。


 俺は死にゆくアルディの世話をし、グラシアと旅を始めることになりかねない。

 念のため、聖域にいる奴等の目的を探りたいのもある。

 ここはコイツについて行かねえと。


「俺も行く」

「いいけどよ、主人は面倒くさい性格してんだよな。すぐに追い返されても文句言うなよ?」


 ブランコが指を鳴らすと、目の前に分厚い鋼鉄の扉が現れた。

 その重たいドアノブに、ブランコは迷いなく手を掛ける。

 扉の先から、黒い光が差し込む。

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