第8話 偽りの夢
ブランコからは、夢を語られたことがある。
バーで色々な飲み物を作りながら、いろんなヤツと過ごしてェ。
主目的は主人である魔女の復活か何かで、バーをやるとしても人狼の里でこじんまりとやるものだ、とあの時は聞き流していたが。
本当に夢があったか。
ここは慎重に、魔女の生死を探っておくとしよう。
「魔女生きてんのにオマエ、人狼のフリまでしてたのか?」
「んー。主人とは方向性の違いで喧嘩別れしたんだ。今頃、招待された聖域で世界征服の手伝いでもしてんだろう。アタシは一から店を作る!」
呆れて声も出ない。
もうすぐ世界は、人類不在となった地上で、耐え忍ぶのを辞めた怪物種族同士が覇権を奪い合う。
魔女、カボチャ、ヴァンパイア、ゴースト。
その他全種族が、世界を我がものにせんと動き始めているだろう。
殺伐とした世のまま店をやる、だなんて罷り通りはしない。
最悪、火を放たれて経営は終わり、俺たちは店舗を置いた村で住人として数えられ、戦乱に加わることになる。
アルディの存在など気にも留めず、ブランコは壺の中身を探り始め、ワゴンを組み立て始めた。
「呆れるなよ? アタシはな、もう充分に材料を集めたんだ。近場の村に着いたら金稼いで、いざオープンだぜ!」
「スケルトン共の所で?」
「そう! 分かってんじゃん」
テキトーに答えたのが見え見えだ。
スケルトンの居場所は近いが村はないし、ヤツらは通貨も何も持っていない。
そもそも通貨など、核汚染された地上では意味を為さないだろう。
良くて道具や食糧との直接交換なのだが、スケルトンはそれさえできない相手だ。
勢い余って棒を自身の頭にぶつけ、イテッと尻尾から離すブランコ。
まだやる気なのか、アルディがそれを拾い上げブランコの後頭部目掛けて振り下ろす。
尻尾が伸びてその腕に絡み付き、寸前で棒は止まった。
「クッソッ。怪物め!」
「スケルトンは、魂のこもったモノから栄養を摂る。真心込めて作りゃあ喜ばれるんだ」
アルディの手から棒が取られ、ワゴンのパーツになる。
尻尾を引き剥がそうとするアルディは、やがて息を切らし、疲れた様子でその場に座り込んだ。
とにかく、今後の生存計画を練らねば。
「さっきから組み立ててっけど、その便利な壺がありゃあ、ワゴンは不要だろ」
「これはなア、雰囲気だよフンイキ! それにこの壺、保存は効くが中身に物詰まってる分重いんだ。全部出せば空になるし、こっちはもう使わねェ」
「なら俺にくれ。食糧入れにする」
うん! と叫び、こちらへ親指を立てるブランコ。
これはデカい。
スケルトンの居場所には、人間の死体などある訳もない。
シェルターでは気付かれないように殺したが、そのうち出入口の電源を落とされなんてすりゃあ、カードキーは使い物にならない。
壺で保存が効くのなら、シェルター内の全員を皆殺しにして、中に殺した人間を押し込め置いて行けば食糧庫の完成だ。
となると、上手くいった時は充分に暇だ。皆殺しにした後は付いていって、ブランコの手助けでもするか。
アルディはギリギリと歯を鳴らしながら、ブランコを睨み続けていた。
コイツのことは頭が冷めるまで待ち、俺に対する恐怖心でしばらくの間は縛る。
そうすりゃ逆らいはしないだろう。
バーの手伝いさせるなんてのは、二の次だ。
「アルディはやっぱ非常食にするわ。俺が餓死しそうになったら食う。逃げたら問答無用で殺す」
「フウン。心優しいコルタルが、交流のある相手をいざって時に殺せるかねェ?」
口元を緩ませ、ニヘラと笑うブランコからは、異様な程の余裕が見える。
喰った相手の過去が見える能力など知らないくせに、俺のことを見透かした風だ。
敵だらけの世界で、過度な信頼は自ら身を投げ捨てるのと同じだと、分かっているはずだろうに。
「まずはシェルター内の人間と吸血鬼共を皆殺しだ。そこで食糧を確保する」
「ンン!? 吸血鬼?」
ブランコは、血相を変えて叫んだ。
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