第19話 マイノグラフの奇襲

アトラス艦がマイノグラフの軌道圏に入ったとの報告を受け、


ブリッジには緊張が走っていた。




半球状の天井には全面ホログラムディスプレイが展開され、艦の周囲を360度映し出す。


中心には艦長と副艦長席が据えられ、そこから放射状に広がるオペレーションデスクには各種族に対応したインターフェースが配置されている。


人間の手指では触れられないような感圧センサーや、


ルミエル人の魔力操作にも適応する設計がなされており、


ここがまさにアライアンスの技術を集めた指令中枢であることを如実に示していた。


マックス艦長は正面ディスプレイに映る惑星の表面を見つめていた。


「……地表はほとんど可視化できない。大気の揺らぎと重力波の干渉が強すぎるな」


「センサーも完全に機能していません。特に赤道直下のエリア


――例の座標ポイント周辺で、強いノイズがあります」副艦長のマリアが報告する。


「まるで、何かを“隠している”ようだな……」艦長は短く息を吐き、振り返って言った。


「現地への降下調査を開始する。調査隊メンバーを発表する」


艦内にアナウンスが響く。


『調査チーム選抜メンバーを通達する。


以下の6名は、速やかにブリーフィングルームへ集合せよ』


・調査部隊隊長 マリア ミレーヌ


・リン タオ


・アルノ コレット


・アリシア プリンセス


・キャシー クラム


そして......


・セト ジョージ


マリアがわずかに眉を上げたが、すぐに納得したように頷いた。


「艦長が地上の指揮を私に任せるとは……光栄です」


「君の冷静さと判断力に期待している。


そして君が抱いてる好奇心も無視できないからね。艦は私が守る」


メインディスプレイに表示しているジョージの名前を見ながら、


マックスはマリアに言った。


「アンジェラ司令官から言われた……異常さとやらを自分の目で確かめて来い!」


ブリーフィングルームに集まった6名の隊員たちは、各々の準備を進めていた。


ジョージはエネルギーシールドの調整を済ませた後、


隣で同じく装備を点検していたリンに声をかけた。


「同じ前衛同士よろしくな、リン。」リンは淡々と応じた。


「私は訓練された通りに動くだけ。だが、君は……期待しながらその妙な技を拝見させてもらう。」


「ああ、前は任せろ!」


その隣では、アルノ・コレットが肩を回しながらプラズマライフルのパーツを調整していた。


「今度は模擬戦じゃねえからな。お前の実力期待してるぞ」


「敵を全滅させても文句は言うなよ」ジョージが冗談めかして言うと、アルノは笑い返した。


アリシアとキャシーは、補助装置のエネルギー調整をしながら話し込んでいた。


「地表は不安定な魔力領域があるみたい。何が起こるか分からないから気をつけて」とアリシアがジョージに伝えるとキャシーも軽く頷いた。


「回復は任せてください。ただ、無茶だけはしないでくださいね」


最後に、マリアが部屋に入ってきた。


「――全員、10分後にシャトル発進デッキ集合。詳細は現地にて。以上」


彼女の口調は厳格だったが、どこか緊張と興奮が入り混じった色があった。


いよいよ、作戦が開始される。




都市型の着陸区画


――そこはまるで時間が止まったかのように静まり返っていた。


かつて文明が息づいていたことを物語る高層ビル群は、


いまや朽ちた鉄骨と瓦礫の山へと変わり果てている。


シャトルのランディングギアが静かに接地する音が、空気を震わせた。


「着陸完了。外気圧は基準内。ただし……


魔力濃度の揺らぎが予測値を大きく超えている」 キャシーが報告する。


マリアがヘルメット越しに辺りを見回す。


「全員、エネルギー装備は展開状態を維持。未知の魔力現象に警戒を怠らないで」


シャトルのハッチが開き、六人の調査チームは慎重に廃墟の都市へと足を踏み入れた。


「……まるで、何かに襲われた後みたいだな」


瓦礫を踏みしめながらアルノがつぶやいた。


壁には焼け焦げた痕、建物の一部は崩れ、


路地には爪痕の入った乗り物のような残骸が転がっている。


「生活の痕跡はある。でも……人の気配が一切ない。


これは“消えた”としか言いようがないわ」


アリシアが手にした感知装置を見つめながら言う。


「通信が遮断されたわ」 キャシーが落ち着いた声で端末を確認する。


「重力場の歪みが強くて、通常の通信帯域が干渉を受けてる。


艦との交信は当面できそうにないわね」


マリアが周囲を見渡しながら頷く。


「予測よりも大きい乱れね。しばらくは単独行動を想定した対応が必要かも」


「つまり、孤立状態ってことか……」アルノが肩をすくめる。


さらに町の億に進んだ先..........それは唐突に起こった。


―― 建物の奥から、濁った咆哮と共に黒い影が現れた。




ザーグ兵。




その巨体は2メートルを超え、全身を生きているかのような装甲で覆われ、腕部にはエネルギー射出式の戦術銃を装備していた。


アンジェラの言った通りHistory Museumで見たホログラムに比べておぞましい姿だった。


まるで昔見たホラー映画を思い出させる。


「前方に5体確認、いや……左右からも来るぞ!全部で20体以上ッ!」


「全員、建物の中へ!戦闘態勢!」


一同は廃墟の建物内に逃げ込むが――入口が、まるで何者かの操作されて、鉄の扉で塞がれる。


「閉じ込められた!?」


「完全に……囲まれてるわ」 マリアの声には焦りがあった。


ザーグ兵たちは、扉や壁をものともせず、四方から侵入してくる。


「完全に罠だったな。もう、やるしかないッ!」


ジョージが先頭に立ち、迫る敵の前まで距離を詰める。


「来いよ、化け物ども……!」


彼の右拳が一閃。


牙を剥くザーグの顔面に炸裂し、骨が砕ける音が響いた。


背後ではリンが二体を相手にし、気を練った掌底で一撃ずつ確実に当てる。


「前衛は抑えてる!アルノ、今だ!」


アルノは崩れた階段の上に陣取り、狙撃ポジションから正確に射抜く。


すぐさま異常なスピードでまた最適なポジションへ移動する。


「どいつもこいつもタフだな……だが当てれば沈む!」


アリシアの持っている杖のような装置から火球が放出され奥の敵を一掃する。


リンはザーグの一撃で胸元のアーマーごと骨にまで到達する裂傷を受け、


息が荒くなっていた。


「リン、大丈夫!」キャシーが重傷を負ったリンに駆け寄って膝をついた。


「いま回復するわ!」


彼女は目を閉じ、アリシアが持っていた杖に似た物を握りしめて短く詠唱を唱える。


「キュア・グランデ――」


杖の先端が淡く光を放ち、癒しの波動がリンの傷に染み渡っていく。


「……助かる……っ」


光の魔力がその皮膚と筋肉を再生し、徐々に血の気が戻っていった。


回復魔法と火球だけはファンタジー世界を思い出させる。


ジョージもまた、激しい接近戦の中で浅い裂傷を受け、荒い呼吸をしながらも拳を振るい続けていた。


ザーグ兵が一体、また一体と倒れていく。


しかし、その戦闘力は侮れず、全員が集中力を研ぎ澄まさねばならない。


やがて、最後の一体がジョージの正拳突きで壁ごと吹き飛ばされ、静寂が戻った。


「……これで全滅、か」マリアが警戒を解かずに呟いた。


ジョージの視界にステータスウィンドウが浮かぶ。


【Level Up!】


【LV32 到達】


【新スキル獲得】


・レッドゾーン:体力が30%以下になると攻撃と防御が2倍


・爆裂拳:通常攻撃をランダムで5回~10回(素手のときのみ使用可)


ジョージはその効果を目にし、静かに息を吐いた。


(このタイミングで来るか……レベルも32、さすがザーグ兵は経験値が高いな)


ジョージがレベルアップウィンドウを確認した直後


――ドゥン……ドゥン…… 空気が震え、地面が微かに揺れる。




建物の奥から、異様なプレッシャーが押し寄せてくる。


「な、なんだこの気配……」


「くそっ……もう一波来るってのかよ……!」


次の瞬間、廃墟の影から2体の巨影が現れた。


その姿に、ジョージは目を見開いた。


(……あの赤い目……まさか……あの時の)


誘拐事件で見た、あの異常な光景が脳裏に蘇る。


背筋が凍るような威圧感と、空間そのものをねじ曲げるようなマナの奔流。


――彼らは一体何者だ。


ついに敵が姿を現した。

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