第10話 アライアンス最高司令官
実技試験会場の興奮が収まらない中ジョージは静かに結果をベンチで座って待っていた。
すると会場アナウンスが鳴り響く。
「……セト・ジョージ様。特別面談対象者として確認。当人は中央塔上層に移動して下さい」
案内された場所に移動した先にAIホログラムと共に、
ジョージはひとり、無人のリフトに乗せられていた。
目的地はセントラルの中枢――アライアンス本部の中でも、最上層の機密区域だ。
外の光景が、都市の喧騒から雲を突き抜け、やがて人工衛星すら見渡せる高度に切り替わっていく。
視界を遮るものはなく、どこまでも果てしない空間に浮かぶような錯覚に陥る。
(……まるで空の王国に運ばれていくみたいだな)
やがてリフトが停止し、光の軌跡が走る無機質なドアが音もなく開いた。
ジョージの前に広がったのは、都市の最上部に位置する展望式の広大なオフィスだった。
床と壁は高分子クリスタルで構成され、天井には自然光を模した空中演算照明が淡く揺らめいている。
都市全体が一望できる全面ガラスのパノラマビューは、まるで神の目線だ。
そして、その中心――ひとりの女が立っていた。
背筋を伸ばし、背中で手を組み、静かに都市を見下ろすその姿は、
孤高の戦士にも、絶対的支配者にも見えた。
女はゆっくりと振り返った。
「ようこそ、セト・ジョージ」
金色の髪が光を帯びて揺れる。
高く結い上げられたその髪型は、古代女神の冠を思わせる威厳と華やかさを併せ持っていた。
青い瞳は、冷たい氷と燃える星光を混ぜたように鋭く、理知的で、
それでいて一瞬たりとも心を許さない緊張感を秘めていた。
服装は黒スーツのハイデザインタイトスタイル。
ボタンは胸元まで開かれており、曲線を強調するラインと相まって極めて官能的だった。
それでも卑猥にならないのは、その佇まいがまるで武装のような威厳を帯びているからだ。
「私はアンジェラ・バルキリー。銀河連邦アライアンス――最高司令責任者よ」
その一言で、室内の空気が変わった。
ジョージの目がわずかに見開かれる。
(アライアンスの……トップ?)
一瞬、自分の全てを見透かされているような錯覚を覚えた。
政治、軍事、行政すべてを統括する、銀河最大勢力の頂点。
その絶対的な存在が、今――目の前にいる。
アンジェラは軽く手を振ると、後方にあったシンプルなグラスチェアを勧めた。
「遠慮なく座って。今日は“面談”というより、“確認”をしたいの」
「確認?」
「ええ。今日の模擬戦闘、あなたの行動ログは全て上層部に共有されたわ。
その中で、明らかに“説明不可能”な現象が複数確認されている」
ジョージは言葉を選ぶように、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
背もたれの感触が、妙にしなやかで柔らかい。
だが、気を抜いてはいけない――そう思わせるだけの空気が、室内には張り詰めていた。
「まず一つ目、あなたの“出身”。どこの惑星?どの国籍?どの育成機関にいたのかしら」
(来たな……)
「……答えようがない。記憶がないんだ。目が覚めたら、森の中だった。それ以上は……覚えていない」
「覚えていないね~。わかったわ、記憶喪失ということにしておくわ。
――ただ、それにしては、あなたの動きは“洗練されすぎてる”」
彼女は机に肘をつき、顔をジョージへ近づけた。
「模擬戦闘での“回避後の反撃”。
肘、拳、体幹の使い方。まるで格闘術のデモンストレーションだった。どこで学んだの?」
「さあな。気づいたら体が勝手に動いていた。それだけだ」
「……ほんとに口が堅いのね」
アンジェラはわずかに目を細め、モニターをスライドさせた。
映し出されたのは、ドローン模擬戦闘の記録映像。
「じゃあこれは?すべてのドローンが、通常プロトコルを無視してあなたをターゲット指定。
操作は一切されていない。それなのに、彼らはまるで“意志を奪われたように”動いた。
どう説明するの?」
ジョージはその映像を見ながら、答えを返さなかった。
「偶然だと言う?」
「……俺にもわからない。急に攻撃が集中してきただけだ。
俺が何をしたのか、俺自身も“明確には”わからない」
アンジェラの蒼い瞳が、鋭くジョージの横顔を射抜いた。
「ただの偶然にしては、あまりに完璧。まるで、あなたが敵意を操作しているように見えた」
「なら、そう見えたんだろう。けど、そうだと証明はできないだろ」
沈黙が落ちる。
だがその沈黙は、やがてアンジェラのため息に破られた。
「……分かったわ。”言葉”での答えは、これ以上引き出せないわね。
なら――身体で語ってもらうしかないわね」
彼女は静かに立ち上がり、背後のパネルに指をかざす。
即座にホログラムが展開され、“戦闘訓練環境シミュレーター”の起動コードが点灯した。
「私と戦って。“あなた”という存在を、“体感”させてもらう」
ジョージは一瞬、肩をすくめるように息を吐いた。
「……戦えば分かるってのか?」
「少なくとも、あなたが“信じられる相手”かどうかは、戦えば肌で分かる」
そして彼女は、ふと思い出したように振り返る。
「装備、必要なら取ってきてもいいわよ。今すぐ。私に遠慮はいらない。武器でも、防具でも。
――何を隠していても、それを使ってくれた方が私は嬉しい」
ジョージは立ち上がり、ゆっくりと首を横に振った。
「……いや、いい。このまま戦う」
「本当に?“そのままのあなた”で、私に?」
「……信じられるかどうかは、そっちも同じだろ。今の俺をそのまま見て、判断してくれ」
アンジェラの唇がわずかに緩む。
「いいわ、気に入った。あなた、謎ばかりだけど、態度だけは筋が通ってる」
そして彼女は、エレベーターの扉へと歩を進める。
ジョージもその後に続いた。
向かうは、“環境シミュレーター”。
惑星のあらゆる環境を再現可能な、アライアンス最高機密の訓練施設。
そこには、誰にも知られず、誰にも見られずに行われる
――異常な存在と銀河連合の頂点の女による、命のやりとりが待っていた。
(……俺の力が、どこまで通じるのか。あの女が、どこまで見抜いてくるのか。それを、確かめる)
ジョージは拳を握った。
熾烈な戦いがこれから行われるとジョージは直観でわかっていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます