第2話 目覚めの森

──風の音がする。


遠く、鳥のさえずりのような高周波が混じり、それに続いて虫の羽音のような音が微かに耳を撫でていた。


ジョージはゆっくりと瞼を開いた。


目に飛び込んできたのは、見たことのない巨大な木々と、まるで人工的に配置されたかのように整った岩肌。


地面は柔らかく苔むしており、落ち葉がサクサクと乾いた音を立てていた。


「……夢、じゃないよな」


起き上がると、着ているものがスーツから見知らぬ中世の鎧に変わっていた。


黒と灰のツートンカラー、そして背中には大きな楯──彼のメイン装備となる“重装タンク用防御盾”が装着されていた。


「スキル……あるのか?」


自然と掌を開く。


[スキルウィンドウ起動]


すると、彼の前に透明なウィンドウが浮かび上がった。


クラス:タンク


スキル:


- ヘイトコントロール(周囲の敵のヘイトを自分に向ける)


- ガーディアンズ・シールド(味方が受けるダメージの一部を肩代わり)


- オートリジェネ(非戦闘時に徐々に回復)


- カウンター(回避直後の反撃でダメージ3倍)


- 正拳突き(ダメージ2倍。ただし素手のときのみ使用可)


[ステータスウィンドウ起動]


名前:瀬戸ジョージ


種族:Human(人間)


クラス:殴りタンク


年齢:42歳


称号:〇〇神の加護


HP:1350 / 1350


MP:120 / 120


攻撃力:200


防御力:300


体力:320


速度:280


魔力:40


運:35


装備:


- 《初期支給:スティールアーマー》


- 《初期支給:ビッグシールド》


「マジか……これは完全にゲームのUIじゃないか」


混乱しながらも、ジョージは冷静さを保っていた。


“こういう場面”に順応する能力──彼はすでに備えていた。


森の奥から、何かの気配がした。


「……何か来る」


気配は二つ。


小型で素早く、足音を殺している。


まるでステルス部隊のような動きだ。


──バサリッ!


突如、茂みの向こうから飛び出してきたのは、2人の男だった。


ひとりは軽装のスーツに身を包み、もう一人は肩に何か大きな装置を抱えている。


銃──いや、プラズマ銃のようだ。


「見ろ、いたぞ!見たことないタイプの装備だ。レア装着かもしれん!」


「捕らえるぞ、逃げられるな!」


その言葉に、ジョージの眉がわずかに動いた。


──密輸者か。


いや、それにしては武装が良すぎる。


不法採掘者か?


男たちは警告もなく発砲してきた。


鮮やかな青白い閃光が、一直線にジョージへと飛ぶ。


ジョージはとっさに盾を構えた。


──ジュウッ!


シールドの表面でプラズマ弾が拡散し、軽く焦げ目を残しただけだった。


「……耐えた、か」


驚いた様子の男たちは距離を取ろうとする。


だが、ジョージはすでに動き出していた。


(カウンター)


素早く距離を詰めて発射のタイミングを見切り、ジョージはシールドで攻撃を受け止めながら、最前の男に拳を叩き込む。


──ズガッ!


男は吹き飛び、背後の岩に叩きつけられて動かなくなった。


「てめぇっ……!」


もう一人が装置を構え直したが、その動作は遅かった。


ジョージは盾を脇に投げ捨て、渾身の正拳突きを放った。


振り下ろすような打撃が、男の胸部を正確に撃ち抜く──衝撃波のように空気が弾けた。


静寂。


二人とも、動かない。


「ふぅ……よし」


ジョージは荒い息を吐き、勝利を確認する。


「この体……やれるな」


浮かび上がるウィンドウ。 ――LEVEL UP:Lv5――


ステータスが防御力を中心に上昇する。


遠くの岩肌の向こうに、金属光沢のような何かが見えた。


人工物だ。


「建物……か?まさか、集落か何かか?」


迷わず彼はそちらへ向かう。


その小さな希望が、のちにこの世界が聞かされていたファンタジー世界ではないということを、ジョージはまだ知らない──

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