第3話 スイーツで幸せを。
女将さんと、部屋を回って挨拶して、
一息いれようと、厨房へ戻ってきた時のこと。
スイーツのパティシエさん達が、
厳しい顔をして、言い合っている。
「俺たちだけじゃ無理だろ。」
「でも、穴開けるわけにはいかない。」
「そうだけれど!」
女将さんは、どうしようかと思案顔。
私は、そっと女将さんの方を向いた。
「女将さん。私。ちょっと抜けますけど
いいですか?」
「え?」
「私、お菓子ならなんとかなると思うんです。」
「どういうこと?」
かいつまんで、今までの事を話すと、
女将さんが頷いた。
「女将さん、パーティの規模は?」
「10人のスイーツパーティ。」
「客層はどんな方達で?」
「女性6人。男性4人。みんな、
スイーツが好きでたまらない人たち。」
「予約時間は。。。」
「15時よ。」
「わかりました。」
まだ言い合っている3人のパティシエさん達に
向かって、パンパン!と手をたたいて、
こちらを向かせた。
「なんですか?」
「私が、指示します。」
「君は、菓子作りは素人だろう?」
私は、ニヤリと笑う。
「こう見えても、大企業のカフェの
毎月の試作会議に駆り出されてるんですよ。
みなさんは、基本的なこと用意して。
それから、紙ありますか?
私、着替えてきますから、その間に、
皆さんのパティシエに許可を貰っていた
お菓子の名前と割り当てられていた、
仕事を書いておいて下さい。」
「女将さん。」
「はい。」
「私、こちらに5時間程かかりきりに
なります。」
「わかってるわ。」
「でも、仏国のお客様がみえられたら、
遠慮せずに呼んで下さい。」
「そうしてもらえると、助かります。」
「それから、バラとかすみ草。それから、
パステルカラーのお花を手に入れて下さい。
テーブルに飾り付けますので。」
「すぐに届けて貰います。」
「じゃ。ちょっと部屋に行ってきます。」
私は、部屋に戻り、着替えてから、
エプロンをして、髪の毛を整えて、
そしてバンダナを持って、厨房に戻る。
*******
戻って、一旦集まってもらう。
「皆さん、宜しくお願いします。」
紙をしばし見て、指示を出す。
「大谷さん。」
「はい。」
「チーズケーキとババロアお願いします。」
「佐藤さん。」
「はい。」
「ガレットとクッキー。それから、
ブールドネージュシュークリーム。
お願いします。」
「小宮山さん。」
「はい。」
「チョコレートケーキ。ロールケーキ。
それから、飲み物の準備をお願いします。」
「みなさん、オーブンに入れましたら、
ゼリー類を手分けしてお願いします。」
「私は、ケーキ数種。タルト類。
カップケーキも作りますので。
じゃ。みなさん、何かありましたら、
声をかけて下さい。」
「「「わかりました。」」」
私は、バンダナで髪を包み込み。
丁寧に、手を洗ってから、はじめる。
私が慣れた様子で、作っていくものだから、
一時、みんなの手が止まっていた。
振り返って、ニッコリ笑って言う。
「こっち見てないで、手を動かして?」
3人は、ワタワタして、作業に戻った。
スポンジケーキ7個分の材料を、
機械に入れて、混ぜあわせ型に入れていく。
オーブンに入れると、次は、
飾り付けのフルーツをカットしていく。
それから、生クリームも泡立てておく。
ちょうど、タルト生地が焼きあがった時、
女将さんからあと20分で、
フランス人のグループが到着しますとの、
連絡が入った。
「皆さん、すみません。
接客で30分。抜けます。
冷まして置いてるので、戻ったら続きします。
皆さんは、分担のモノをしっかり作って
下さい。あと、お願いします。」
そう言って私は、女将さんの支度部屋へ
飛び込んで、着物に着替えてきた。
*******
「ようこそ、おいで下さいました。」
まずは、日本式にお出迎えする。
しっかり顔を確認して、かえってくる
言葉を待つ。
情報通り、仏語が返って来た。
私の頭の中が、仏語に切り替わる。
自分でも、スラスラとでてくる仏語に驚きつつ
(もちろんおくびにも出さず)応対した。
「あなた、仏語上手ね。」
「留学していたの?」
「いえ。日本で習いました。」
「そうなの。とてもいいわ。」
「そして、何よりも助かりました。
ありがとう。」
「どういたしまして。」
ちょうど30分後。
私は、厨房に戻った。
スポンジケーキはタルト生地は、
ちょうど冷めて、私を待っている。
フルーツをカットしていく。
苺と季節の桃などの色々なフルーツ。
出来上がった順番に冷蔵庫へ。
最後に出来上がったのは、フルーツタルト
だった。良し!出来上がり。
類が好きな、フルーツタルト。
良く、作ったなぁ。
いつの間にやら、皆が拍手を送ってくれた。
「驚きました。」
「手際が良くて。」
「美味しそうで。」
「試食してみます?」
「是非、食べてみたいです。」
皆で試食をと思って、作っておいた、
ショートケーキをとりわけて、
そして、私が、紅茶を煎れる。
あ。ダージリンの一番茶。
ムシューは、ちゃんと紅茶を知ってる
んだなぁ。
じゃ。おつかれさま。
と言いあって、ケーキを口に運ぶ。
皆が顔をびっくりさせている。
「どうしたの?」
「「「この味って…。」」」
「バレますって!それから知ってますよ。」
「ま。そういうことだから、なんとか
なったでしょ。」
みんな、うなづくしかない。
「ま。そういうことなので、次は私は、
テーブルセッティングしに行ってきます。」
「お。お願いします。」
「あの、見せていただいても?」
「小宮山さん。手伝っていただけるなら、
もっと嬉しいです。」
「もちろんです。」
深雪の手によって、花が形をなし、
花が、仄かな香りを演出して、
テーブルセッティングされていく。
小宮山は、深雪の言うとおりに動いて、
手伝ってくれている。
20分ほどで、それは形ができ、あとは、
テーブルにお菓子が乗るばかり。
「よしっ。これで完成。」
「スイーツで、少しでもこの時間の間、
幸せになってもらえたらいいなぁ。」
「大丈夫だと思います。」
私はフッと微笑んだ。
「さて、厨房に戻りましょう。」
「はい。」
厨房に入ると、飲み物類の用意も
できていて、私はホッとした。
「あとはもう、皆さんに任せて、
大丈夫ですね。」
「はい。お任せ下さいませ。」
「じゃあ、私は、通常業務に戻ります。
何かありましたら、女将さんに連絡下さればと
思います。」
「わかりました。」
「「「ありがとうございました。」」」
「こちらこそ、ご苦労様でした。」
深雪はお辞儀して、厨房を後にした。
私は、小股ですたすたと歩く。
通常なお仕事に戻りつつ、考えていた。
今回、お手伝いできたのも、
夢子さんとお菓子作りしてたから。
私。。。ホント、皆に助けられているなぁ。
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