よろずや稲荷、ご相談承ります!

小坂みかん(内間飛来)

ご相談1 きつねの御神酒、怪盗DJに狙われる(1)

「おーい、こんこちゃーん!」


 東雲しののめ依子よりこが大きく手を振ると、それに合わせて子犬のようなふわふわボブが跳ねて踊った。中身の詰まったランドセルの重さなどものともせず、依子は笑顔で石畳の階段を駆け上がっていく。

 一番上で待っているのは「こんこちゃん」と呼ばれた女の子。依子と同じ小学校五年生くらいの子だが、日の光にきらめく金色の長い髪と、大きな狐耳、もふもふの尻尾が生えている。……いわゆる「人ならざる者」である。依子は、そんな存在も視えるのであった。


「依子は今日も元気じゃのう」

「給食が大好きなカレーだったからねえ!」


 笑顔で出迎えたこんこに、依子はニカッと笑顔で返した。ふたりは手をつなぐと、赤い鳥居をくぐって神社の境内へと歩いて行った。


「さて、今日は何して遊ぶ?」

「今日はのう、依子にお願いがあるのじゃ」

「お願い?」


 ふたりが本殿に向かって歩きながらそう話していると、狛狐の目がきょろりと依子を捕えた。依子は狛狐たちに視線を移すと「ただいま」と言って小さく手を振った。

 お賽銭箱の前に到着すると、依子は背負っていたランドセルを降ろして座り込んだ。こんこも座りやすいように尻尾を捌くと、お賽銭箱にもたれかかって座った。

 こんこは依子を見つめると、先ほどの話の続きをした。


「お願いというのはだの……。依子に、うちと一緒に『よろずやさん』をしてほしいのじゃ」

「よろずやさん?」

「うむ。うちの母上がもうじき産休に入るのを、依子も知っているじゃろう?」


 依子は、うん、と言ってうなずいた。

 こんこの母親は、この八ツ広塚神社というお稲荷さんで神様をしているヤツヒロさまというお狐様だ。遠い昔はごく普通の狐だったそうで、この豊幸町ほうこうちょうの八ツ広塚で子だくさんに恵まれた。それをありがたがった町人たちが拝むようになり、お供え物もするようになってかいがいしく狐のお世話をしていたら、母はこの町一帯の神様となったのだそうだ。

 こんこは百八匹目の子で、母のお腹には今、百九匹目の子がいる。もうじき生まれるということで、母は神様業をお休みすることにしたのだとか。


「それで、母上がお休みしている間、うちが母上のお仕事のお手伝いをすることになったのじゃ」

「お仕事って、町のみんなのお願いを叶えるお仕事?」

「うむ。いろんなお願いを聞いて回るから、『よろずやさん』というわけじゃ!」

「なるほど……」


 依子は感心してうなずいたが、ふと、首をかしげた。依子はたしかにこんこたち神様などの「人ならざる者」が見えるが、だからといって、こんこたちのように特別な力は持っていない……と思う。だから、そんな自分に、こんこのお手伝いができるのだろうか?

 その疑問をこんこに伝えると、こんこはニヤリと笑って二回ぽんぽんと拍手してパッと手を開いた。すると手と手の間にポンッと神楽鈴と呼ばれる、持ち手の先が「鈴が木に実っている」かのような形をした道具が現れた。手の中にストンと収まった神楽鈴をこんこは依子に差し出した。


「これをの、シャンシャンと鳴らすと、不思議な力がみなぎってくるのじゃ。依子の悩みはそれで解決じゃよ」

「鳴らすだけでいいの?」


 依子は疑い深い視線で神楽鈴を手に取ると、一度シャンッと鳴らした。すると、依子の周りの空気が光を帯び、キラキラと輝いて舞った。


「わっ、何これ何これ。すごいキラキラしてる!」


 依子は好奇心で目を輝かせながら、鈴をさらにシャンシャンと鳴らした。すると、光が依子を包み込み、パアと明るく輝いた。


「何これー!?」


 光が収まってすぐ、依子は声をひっくり返していた。それもそうだ、依子は七分袖に長ジーンズという姿から、すっかりと別の姿へと変身してしまったのだから!

 巫女さんが着ているような白袖に、赤いキュロット。右足はオーバーニーソックス、左足はハイソックス、茶色のスニーカー。神楽鈴はそのまま、魔法のステッキのごとく手に持っている。……これはまるで、魔法少女の和風バージョンとでもいうかのような出で立ちだ。

 こんこは立ち上がってくるりとその場で身をひるがえすと、依子と同じ格好(けれど、ソックスは依子とは左右が逆)に変身した。


「『よろずやさん』の制服、かわいいじゃろう?」

「うん、いいかも! 何だか温かい力が胸の奥から湧いてくる感じもあるし、これなら私でもお手伝いできそう!」

「じゃあ、これで『よろずやさん』結成じゃな!」


 お互いの手と手を合わせて楽しそうに喜び合うこんこと依子だったが、依子がまたふと疑問で顔をくもらせた。


「でもさ、お店を開いても、お客さんがこなければ意味なくない?」

「お客さんは、神社に参拝しに来る人が主じゃの。あとは、うちが営業して回る!」

「うう~ん、上手くいくかなあ?」


 依子たちがクシャッと顔にしわを寄せて考えごとをしていると、社務所のほうから男の人が歩いてきた。


「それなら、最初の依頼は俺がしてやるよ」


 依子とこんこは声を揃えて「まさにぃ」と言いながら、男の人を見た。

 政にぃは今年二十歳はたちの大学生で、この八ツ広塚神社の息子さんだ。そして、依子のいとこでもある。彼は大学に通いながら、神社の跡取りとなるべく、お家のお仕事も手伝っている。長い髪が特徴の、イケメンのお兄さんだ。


「政にぃの依頼など、どうせどうでもよいものじゃろう? 神社のお仕事を代わってほしいとか……」

「お。こんこ、俺を疑うのか。ちゃんとした依頼だぞ」


 政にぃは依子とこんこにいっそう近寄ると、背中を丸めて、ふたりと耳打ちするかのように口元に手を添えてコソコソと話した。


「怪盗DJという怪しいヤツから、予告状が届いたんだ」

「怪盗でぃーじぇい??」


 依子とこんこはしかめた顔を合わせると、クスクスと笑い出した。


「政にぃ、アニメや漫画の見過ぎだよお! このご時世で、怪盗とか、そんなんいないって!」

「いるんだよ、それが」

「いるなら、うちらの出番ではうて、警察に通報じゃろうが」

「その怪盗が人間だったら、うちの父さんもそうしてるさ」

「!?」


 何でも、送られてきた予告状から、ほんのりと妖怪の気配がただよっていたらしい。そのため、警察に通報したらいいものかどうか、悩んでいるのだとか。

 しかも、聞くところによると、最近、この町近辺の神社仏閣関係でこの怪盗から被害を受けたというところがちらほらとあるそうで。警察を呼んだところももちろんあるのだそうだが、神通力のない警察の人たちにはその犯行を目視できなかったという。


「だけど、ちゃんと被害は出ているんだ。……な、困ったもんだろう?」

「それは、困ったね」

「ちなみに、うちが狙われているのは、こんこのお父さんが作っている『きつねの御神酒』なんだ」

「こんこのお父さん、お酒なんて作っているの?」


 依子がこんこに尋ねると、こんこは分からない、と首を横に振った。こんこの父は、こんこの母であり自身の妻である「八ツ広さま」の眷属として、様々なお仕事をしている。いつも忙しそうに飛び回っていて、いろんなお仕事をかけもちしているので、こんこも正確には把握していないのだそうだ。

 政にぃは「俺もまだ飲んだことがないんだけど」と言いながら話を続けた。


「今月末にあるお祭りのときに、八ツ広さまから神気を分けてもらうための儀式が執り行われるんだけど、そのときにうちの神社の大人たちが飲むことになっているお酒さ」

「……てことは、二週間後かあ。政にぃは今年初めて飲むんだね」

「そう、二十歳はたちになったからな。……きつねの御神酒ってどんな味がするか、楽しみにしてるんだ。普通のお酒と違うのかなあ?」


 話を聞いていたこんこが、しなりと尻尾を垂れた。


「母上からお力を分けてもらうための大事なお酒が盗まれるかも、だなんて、一大事じゃなあ」


 依子は目を輝かせると、両手で握りこぶしを作って気合いを入れた。


「ね、ね、こんこ。初仕事は、これにしようよ。お酒が盗まれないように下調べしてさ、ふたりで守ろうよ」

「そうじゃな! うちたちで守ろう!」


 やる気を出したふたりの頭をわしゃわしゃと撫でながら、政にぃは笑顔で「サンキュー」と言った。


「そうと決まれば、明日、もっと詳しい情報を教えてやるよ。というわけで、今日はもう帰りな。そろそろ暗くなるからさ」


 はあい、と返事をした依子だが、突然困ったように顔をくしゃくしゃにした。


「ところで、この魔法少女の恰好、どうしたら元に戻るの? 戻さないと帰れないよ……!」

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