第14話

 ハイベル冒険者協会。

 数ある協会の中でも比較的多くの冒険者が活動拠点として選択するハイベル。街周辺の移動可能な範囲には複数のダンジョンが点在することから、攻略目当てのパーティが集まるのだ。


「見ろよZ最底辺だ」


「死体拾いしかやらせて貰えないZランク冒険者」


「クハハ、何だよそれ。ランクのスタートはFからだろ。あいつは冒険者ですらないんだよ」


 多くの冒険者が依頼の確認や情報交換、冒険者協会との打ち合わせを目的に集まっていた。ひいてはシュヴァルツが注目を集めることに繋がる。


「結局ハーフエルフのパーティは助かったんだよな?」


「あぁ、馬鹿した冒険者が逆にやられたと」


「ハーフエルフなんかほっとけばいいのによ」


 ダンジョンで命を失った冒険者が何を考えて『幽鬼の間』に向かったのかは分からない。事情を知らない冒険者達からすれば勝手に自滅した間抜けな者達がいたという認識である。


「感じ悪いわね。……気にする必要ないからね」


「有象無象の戯言に興味はないな」


 多くの悪意を向けられるがシュヴァルツからすれば日常である。寧ろ手を出してきてくれた方がやりやすいと考えていた。


「女に困ってハーフエルフに手を出したのか?」


「……多少見た目が良くても所詮は反逆者ってことか。穢れた黒い血が」


「Zとハーフエルフか。お似合いだな」


「⁉︎ だ、誰が誰の女ですって⁉︎ ぶっ飛ばすわよッ!」


 歩きながらキャンキャン吠えるエミリア。連れ立って歩く少女はエミリアを真似ているのか拳をブンブン振り回している。


「煩い黙れ。発情するな」


「⁉︎ アンタはどっちの味方なのよ!」


 そうこうしている内に受付へと到着する。

 とりあえずシュヴァルツに着いて来たエミリアだが今日の目的は聞いていない。何か依頼を受けに来たと一瞬考えたがそれはないと考えを改める。正式な冒険者でないシュヴァルツは依頼を受注することは出来ない。


「そろそろ来る頃だと思っていたよシュヴァルツ」


「態々支部長が出迎えか?」


「君相手だと職員が萎縮してしまうからね」


 ラークが受付嬢と同じようにブースに入っている光景は場違い感が強い。引退したとはいえ元Sランクの筋骨隆々壮年男性が若い女性スタッフと肩を並べるのは異色に映る。


「まぁ、いいだろう。竜の買取はどうした? まだ時間がかかると抜かすなら闇ギルドの連中に回すぞ?」


「お得意様の依頼だからね。もう査定は終わっている」


 手渡される紙切れ。今回の買取に関する明細である。竜丸々一体分の素材が丁寧に記載されている。通常なら異常な額での取引となるがシュヴァルツは普通ではなかった。


「……ふん、中抜きで得た金は美味いのか?」


「耳の痛い話だが、これは協会の規則だからね」


 冒険者以外の取引となれば金額の半分が手数料として徴収される。それが分かっているから冒険者登録をするし、協会も推奨している。――だがシュヴァルツにはその資格はなかった。


「時間の無駄だ。それでいい。金を寄越せ」


 貨幣入りの大きな袋がラークから手渡されシュヴァルツが強引に受け取る。その場で中身を確認するのか一枚一枚取り出して検品を始めてしまう。


「ちょっと、アンタねえ……。何もここで確かめなくてもいいでしょ」


「ぬるいな。連中ならちょろまかす可能性がある」


「支部長がそんなことするわけないでしょ」


 どうだかなと吐き捨て確認を進めるシュヴァルツ。

 積み上げられていくのは沢山の金貨。一枚一枚丁寧に数えているようにも見えるが、感じた視線からそれは間違いかもしれないとエミリアは思う。振り返れば冒険者達が複雑そうに妬んだ目をシュヴァルツと金貨に向けていた。――悪い笑みを浮かべたシュヴァルツ。完全にわざとやっている。


「確認は構わないが受付でそれをやられてしまうとブースが一つ潰れてしまうな。部屋を貸そう。そちらで確認したまえ」


「……いいだろう。案内しろ」


 確認した金貨を別の袋へ移し替えるシュヴァルツ。三人はラークの案内で協会の奥へ移動する。




****




 案内された部屋は協会の要人を迎えて話をするような綺麗さがあった。ソファの前に置かれた高そうな机。そこに金貨を広げ確認を継続するシュヴァルツ。その姿が珍しいのか少女は指を差しながらエミリアの顔を覗き込む。


「これは食べ物じゃないわよ。金貨って言う……まぁお金ね」


 平常心を保っているかのように振る舞うエミリアだが、彼女自身金貨を目にすることはほとんどない。上位ランクの冒険者や名のある商人、貴族くらいしか金貨は扱わない。つまりは金持ちである。若干エミリアも悔しく思う。


「協力感謝する――とでも言うと思ったか?」


 金貨を数えながらラークへ鋭く言い放つシュヴァルツ。込められた殺意が部屋に広がる。


「注目を集めることを君は望まないのだろう? 私にしても都合が良かった」


 お互いの考えを理解した上で行動に移したシュヴァルツとラーク。世間話をする為に集まったわけではない。


「先日の事後報告だ。――調査隊による探索は終わった。君が言ったようにイレギュラーは確認出来なかった」


 話題になった仮面との接触はなかった。高度な索敵魔法を有する魔術師と高ランク冒険者の混成部隊で調査したのだ。取りこぼしはないだろう。


「証言にあった鎖鎌は見つかった。……そして死亡した三人の冒険者も」


 鋭利な武器で足を切り裂かれていた冒険者。致命死はその怪我と出血によるもの。最後は他の魔物にやらせて命を落としたと調査結果が出ていた。


「……気に病むことはない。協会の決まりを無視したのは彼らの方だ。冒険は自己責任である」


 シュヴァルツはフラットだが一瞬表情を変えたエミリアをラークはしっかりと認識していた。何かあったのだと判断するが特に言及はしない。言葉通り自己責任だからだ。


「不明点は多いが対象が討伐されたのなら当協会としても出来ることは限られる。近い内に『幽鬼の間』は開放されるだろう」


 加えて、ドロップ品と思われる鎖鎌はいらないかと尋ねられるが不要だと突っぱねるシュヴァルツ。……裏の事情としては馬車に乗り切らないとして廃棄していたのだが、トラブルに繋がるとも考え余計なことは口にしないエミリア。


「改めて礼を言わせてもらおう。君の存在がスピード解決に繋がったのは間違いない」


「どうでもいい」


 金貨を数え終えたのか袋へ仕舞うシュヴァルツ。こんなくだらない報告で引き留めたのかとバカにしたように溜息をつく。


「少し話をしたいと思ってね。エミリアは『止まり木』のメンバーだが、その少女はどちら様だい?」


「気になるなら調べればいい」


「そう警戒しなくてもいい。珍しいと思っただけだ」


 常に一人で行動するシュヴァルツ。度々冒険者達と衝突するが、どのような状況下でも一人だった。『幽鬼の間』での救出劇以降に何があったのか。裏表なくラークとしては単純に気になるのだ。


「人は孤独では生きられない。人間やエルフ、ハーフエルフにそれ以外でも……もちろん君もだ」


「聞き飽きたよそんなセリフは。だから群れろと言いたいんだろ?」


 シュヴァルツからしてみれば余計なお世話である。

 あの日から全てが終わり始まったのだ。今更生き方を変えるつもりはなく、変えたいとも思わない。――失敗してしまった彼らとは違うのだから。


「……この話はまた次の機会としよう。さて、話題を変えるがエミリア。しばらく『止まり木』は活動休止と聞いたが?」


「その予定……ですけど?」


 一介の冒険者でしかないエミリアと元Sランクで支部長のラーク。さすがにタメ口は失礼かとギリギリで慣れない敬語となるエミリア。


「君に少女、そしてシュヴァルツ。……どうだろう、三人で即席のパーティを組むのは?」


 本当に話題が百八十度変わる。特急過ぎて誰も口を挟めなさい。


「シュヴァルツ。君の言いたいことは分かる。だが何事にも例外はあるのだよ」


 冒険者協会の規則には臨時パーティという制度が存在する。『止まり木』のように怪我や病気などで一時的に活動を休止する場合、問題なく動けるメンバーまで活動が制限されてしまうのはナンセンスである。そこで策定されたルールが臨時パーティ制度。これを使えばソロでの活動が難しい冒険者が一時的に他のパーティに加わったり、別のパーティを結成することも出来るのだ。


「支部長……それでもシュヴァルツは」


「冒険者としては認められない。……あくまでもソロならということだ」


 パーティの代表者の身分が保証された冒険者ならメンバーまで制限が及ぶことはない。つまり、臨時パーティのリーダーがエミリアならシュヴァルツと少女も時限的に冒険者として活動出来るのだ。


「これは通常臨時関係のない制度となる」


 シュヴァルツに人望があり、立場関係なく受け入れる気概のある冒険者がいたなら今頃シュヴァルツはとっくに冒険者として活躍していただろうと溜息混じりに話すラーク。

 シュヴァルツ自身にも問題はあるが、色眼鏡で見てしまう冒険者にも問題がある。


「……そんな屁理屈でいいの?」


「協会が定めたルールだから問題はない。――シュヴァルツのことは君ならよく知っているのだろう?」


 確かに他よりは知っていれだろう。ハーフエルフを差別したりはしない。……自分以外の全てを見下すシュヴァルツのことならよく知っている。


「エミリアや『止まり木』からすれば恩を返せる。シュヴァルツは今よりも効率良く資金集めが可能となる。悪い話ではないだろう?」


 素材の売却で半分が手数料として徴収されることもなくなる。今まで受けることが出来なかった依頼も可能となる。

 リーダーによるパーティメンバーの保証人制度をシュヴァルツは知らなかった。そもそも把握していたところで誰も協力者はいない。有象無象に頭を下げるのも御免だった。


「…………俺の足を引っ張るなら擦り潰すからな」


「何でアンタが偉そうなのよ」


「……」


 異色の臨時パーティが結成された。

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