第18話 レイス実食

 体が戻ったスピアのリハビリをしつつ、鐘楼にたまる怨嗟をカインは吸い上げていた。


 一つだけ強い反応があった。

 台座の中央にいた教皇だった。


 戦いになると構えたが、何事もなく、剣へと収まった。

 その際に一言だけ伝えられた。


「スピアをよろしくお願いします」

 カインはうなずき「任せてください」と言った。


 静かな人だ。

 彼の声は、ゆっくりとして落ち着いていた。


 けれど芯が取っていたからなのか、重く受け止めねばという気にもさせられた。

 あのレイスも幾度となく、この教皇に挑んだことだろう。


 近くに自分たちを脅かす存在がいるのに、それを黙って見逃すほどレイスもバカではあるまい。


 彼の杖には何度も底を叩いたような跡があった。

 おそらく戦ったのか、それとも守るために

 力を使ったかは定かではない。


 けれど、彼女を守り抜いたことには変わりはない。

 その彼を信じることにしよう。

 カインは、剣を撫で、皆の元に戻った。


「どうだ?」

「良い感じ」


 イーヴァーに背を押されながら、柔軟をしていたスピアは、伸びをしながら返事をする。


「この子すごい曲がるのよ。ほら」

 縦横無尽にスピアは、折れ曲がって見せた。


「人間技ではないようだな」

 イーヴァーの反応から見なくてもわかる。

「霊だからこそなせる技ね」


(ブラックジョークだな。)


「えい」

 イーヴァーが頬に両手が触れた。

「なんだ?」

「いや見てほしくて」


 凄い方向に曲がるスピアに驚きあきれた。

「元気になったのはいいが、元気出しすぎて疲れるなよ」

「はーい」


 気の抜けた返事が笑いを誘った。


 カインもイーヴァーもそれにミルダもスピアの今までにない元気そうな顔と、気の抜けた返事についつい笑ってしまった。


 笑ったら、お腹が減った。

 ミルダのお腹からも「ぐるるるー」とお腹の虫が鳴いていた。

「ご飯にしよっか」


 イーヴァーは、慣れた手つきでそこら辺に伸びてるレイスを解体した。

「えっ。それ食べられるのか?」

「食べられるっしょ」


 レイスのフードを剥ぎ取り、身体中の武器を取った。


「めちゃくちゃ武器持ってんじゃん。剣に鎌、薙刀に鉄球。持ちすぎじゃん」

 イーヴァーは、剥ぎ取りながら鼻歌を歌う。


「あいつ食べる気満々だけど、食べれるのか?」

「レイスは物によるらしいけど、一応食べれるらしい」

「なんでそんな事知ってるんだ?」


 レイスって人が執念とかで霊体化したものだろう。食べたら共食いじゃないか。

 一人でカインは震えていた。


 それを横目にまず胴体と頭を切り離す。


 体は思った以上に筋肉質。

 繊維に沿って刃を入れる。

 体はというと、人間というより蛇に近い。


 皮を剥ぎ、身をさらに細かく切る。

 油を引いて、さっと焼く。

「完成!レイスの鱗焼き」


 断面にはちょっとレイスの皮がついていた。

 じゃがいもとか魚とかとは、わけが違うんだぞ。


「うんまー!」

「鶏もも肉の筋肉が詰まってる感じ」

 カインも意を決して歯を立てる。


 歯と歯で噛みちぎると、思った以上にすんなり食べれる。

 中から出る肉汁の多さに、二口目をそそられる。匂いが食欲をそそる。一口一口噛みしめてるとあっという間に食べ終わってしまった。


「何だこれは?」

「今回は当たりだったみたいね」

 次はそこら辺の鐘を砕き棒状にして、2つ目を焼く。


「当たりとかあるのか?」

「あるよ。レイスは動物が霊体化することもあるの。今回は蛇だったみたいね」


「ならよかった」

(一瞬共食いかと思ったしな。)


 それにしても二人の暴食ぷりには目を見張る。

 焼いては食べ、茹でては食べ、カインもその匂いに負け、レイスをたらふく食べた。

「普段腹なんて減らないのに、めちゃくちゃ美味しかった」

 スピアはミルダにもたれかかる。


 あんな、もこもこの枕があってずるい。

 イーヴァーも欲しくなり、横になってるカインのお腹を枕にする。


「ずるい」

「ダー」

 それを見てなのか二人もやってくる。


「おいお前ら暑苦しい」

 いつの間にか四方八方から、のしかかられる。

 顔にはミルダの尻、腹にはイーヴァー、右腕にはスピア。


 重い。

 そう思いつつ笑みをカインもこぼす。


 まあこれもいいかとカインは諦め、目を閉じた。

 ついつい寝入ってしまったらしい。


 夜風の寒さが教会の割れたガラスから吹いてくる。

 隙間風の寒さに身もだえそうなり、ミルダを抱きしめた。


「キューン」

 抱きしめられたことに気づかれたか。

 そう心配したが、寝言だったらしい。

(お騒がせ犬め。)


 ただ可愛くて憎めないところもあるので、

 カインは撫でるだけにとどめた。


 普段は、黒と赤の瘴気を身にまとっているので、本当のいろはわからなかったが、白と水色の毛並みは、柔らかくいい匂いもする。

 顔をうずめてもいいくらいだ。


 風が止まった。

 禁忌の地の風はどこからきているかわからない。


 だがもし、風に干渉できる存在がいるとすれば、彼らしかいない。


「神か……」

 外の様子を見るため、ミルダをどかす。

「どうしたの?カイン」

 腹の上のイーヴァーが目をこする。


「イーヴァー。お前は二人を起こせ。敵襲かもしれない」

 声色を変えた彼に反応し「分かったわ」と返す。


「二人とも起きて」

「何?」「むにゃ」

 三人が、体を慣らすまでにカインは様子を見ておこうと、外に向かった。



 綺麗な青く深い夜に一本の光が差し込んでいた。

 まるで空に切り傷をつけたかのように、そこにあった。


「この音。審判神オルディウス」

 精神世界で聞いた音は、今も忘れない。


 錫杖を天からゆっくり地におろし、カインに向き直る。


 割れた仮面はすでに修復され、その場に

 審判神は、夜の静寂を割り、現れた。

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