第15話 おかえり

 スピアが帰ってきたのは、あの戦いから三日後のことだった。

 カインとイーヴァーに、声だけは聞こえる。

 それが唯一の救いだった。


 毎日毎日うっすらと見えていた。

 その度にイーヴァーが言い、カインもイーヴァーの力で彼女の姿を見て安堵していた。


「ようやく戻れたのね」

 イーヴァーが抱き着く。


「ちょっと暑苦しい」

 スピアは、そういいながら、まんざらではなかった。



「おかえり」

「ただいま」

 二人の間に浮ついた空気が漂っていたので、イーヴァーが、かき消した。

「それで次はどこに行くの?」


「わたし行きたい場所があるの?」

 はじめてスピアが提案したことに、二人とも驚いた。


「それはどこなの?」

「わからない。でも行きたいの」


「行きたい場所はわからないの?」

「わからない。けど、怨嗟の剣があれば行けると思う」


 三人の間に沈黙が流れた。

 カインは話の流れから一つの切り口を見つけた。


「それは審判神が言ってたことと関係があるのか?」

「ある。私の力はまだ不十分で、その力のもう半分が、怨嗟に覆われてれる」


 なるほど。審判神の言っていた「半端もの」とはそういうことか。


 もし仮に『神殺しの矢』が本当なんだとしたら、打った時に奴は死ぬはず。


 だが戦ったときダメージは入っているようだったが、致命傷ではなかった。

 そういうことか。


 カインはひとりで納得していると。


「あーーーー」

「イーヴァーどうした?怪鳥みたいな声を出して。今日も快調だな」


「うっさい。誰がそんなボケしろって言ったのよ」

「何かありましたか?」


「ファー?」

 ミルダも一緒に首を傾けた。


「かつて使徒だった時に聞いたことがある。神殺しの矢について。

 その身は二分され、かの地に封印すると」


「それはどこなんだ?」

「一つが地縛霊の村、もう一つが忘却の鐘楼と呼ばれるところにある」


「なら、早くいこう」

 カインは、戦いの後の重い腰を軽く持ち上げて、前へと進む。

 だが、立ち止まるイーヴァー。


 後ろを振り返り、「どうした。イーヴァー」

「そこには絶対、神がいる」

 震える彼女の気配がした。


「怨嗟と神か。相容れぬものが、いるとは」


 これは大誤算。

 怨嗟を相手取りながら、神もいるとなると死ぬかもしれない。


 冷や汗が流れ出る。

「カイン大丈夫ですか」


 カインもまた、神そのものと闘うとなる、脚が震えた。

 それを仲間に気取られぬように、ゆっくり、その場に座った。


 すると何かが頬をかすめた。


 スピアの手の感触が頬を伝う。

 触れていないはずなのに、その温かさが横顔をしっかり受け止め、体に熱が戻った。


「あぁ、大丈夫だ。ありがとう」

「いえいえ。仲間がしんどそうにしているなら、助けるのは当然のことですよ」


「えっへん」とそんなポーズをしている彼女の姿を想像してしまう。


 彼女の温かさで、元の体を取り戻し、またそこに立ち上がることができた。


 そして、後ろで震えてるイーヴァーに力を与えるのは、今度は俺の番だった。

「イーヴァー。お前のことは俺が全力で守る。だから、一緒に戦ってほしい」


 彼女の右肩をカインの左手が、優しく添え、彼女の気持ちもまた、戻った。


 やはり神に挑むのは、怖いもの。

 でもこれが、自分たちの原点だったことを思い出し、次なる忘却の鐘楼に向けて足を進めるのであった。



 ***審判神視点***


 鋼の神殿にて、貫かれた頭を抱え、自室へと戻った。


「半端ものと侮っていた。このままあの半端ものが、力をつけては、我々の身も危ないかもな」


 欠けた仮面を作り直し、顔に再び付け直す。


「ふう。精神世界で戦わず、今度は現実で叩き、潰してやる」

 そう息巻いて、錫杖を地面にたたきつけた。


 その音は神殿中に広まった。


 ***かつての仲間視点***

「ふが」

 応接間で寝ていた二人が目を覚ます。


「ふー待っていたら眠くなってしまったわ」

 聖職者ライドが、体を起こす。


「それより今の揺れは?」

 盾王ライオスがびくついていた。

(野生の勘というやつか。)


 毛も一緒に震えていた。

 ライオンだな。はたから見ると。

 勇者のレオンは、ライオスの方を見て笑った。

「なんだよ」

「いや、獰猛な生き物も、強者の前ではかわいいものだと思って」

「何を?」


 殴りかかりそうなところで、もう一度地面が揺れる。

 ライオスは、また身震いした。


「ほらね」

「ふん」と言って、椅子に座りなおして、そっぽを向く。


「ベルナールはどこだい?」

「知らん」

「出ていかれましたわ」


「いつ?」

 レオンは血相を変えた。 


「私たちが寝ている間、意識の片隅で『レオンが心配だからやっぱり見に行く』と」

 それは、まずいと思いながら、入り口から出ようとすると、何かとぶつかった。

「「痛っ」」


 そこにはベルナールがいた。

「どこ行ってたんだ?」

 震える彼女は、言葉を発さない。

「どこに行ってたんだ」


 彼女の目にはしずくがたまっていた。

「ノクスが、ノクスが」


 そう言いながら、その場で泣き崩れた。

「どうした?」

 他の仲間も寄ってきた。


「ノクスが死ん・・・」

「その先を言うな。この神殿は神の領域、どこで聞いてるかわからないからな」


 そう口に人差し指を添えて、その先はまたあとで、と言わんばかりの顔をしていた。


「ノクスついては、あとで話がある。とりあえず外に出ないか」

 そう取り繕うように笑っていたが、目は笑っていなかった。


 こういう時のレオンは、一番怖いと誰もがおもっていたので、その申し出を黙って聞き入れ、灼熱の外に皆出ることにした。





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