第5話-2 湿気
おじさんの奥さんがすすり泣く様子が、読経が終わった静かな会場に響き渡った。
聞くところによると、どうも癌か肝臓を患っていたらしく、何度も入退院を繰り返していたという。小春の耳には、そのような話は少しも届いていなかった。
悲しい、という感情が、小春には湧いてこなかった。悲しみを実感できない、という事実の方がよほど小春のことを揺さぶった。
小春のことに目をやる血縁者からの視線が重たく感じられた。
それでも、小春には、彼らとの距離感が分からなかった。家族の距離感すら、分からないのだ。近づきすぎれば軋んで壊れてしまい、遠すぎると、きっと風が吹けばすぐに切れてしまいそうな、頼りない糸のような繋がりでしかない。はとこなど、なおさらだ。
ましてや、母方のいとこは、幼い頃に一度か二度会ったきりで、その後は離婚されてしまい、会うことはなかった。
戸籍が外れてしまえば、血の繋がりなど、なんて頼りないものだろうか。もう連絡先すらわからない。
小春は、いつの間にか親族の控室に戻っていた。ぼんやりとしていたせいで、通夜のことがほとんど思い出せない。
親戚の長男の乗っている新幹線は、人身事故だか、線路の火事だか、とにかく何かが起きて立ち往生しているらしかった。詳細は分からず、とにかく帰りが何時になるのか分からない、と大人たちが話していた。
一度、従兄が自宅に戻り、簡単に身支度をしてから長男と連絡を取り合って、迎えに行くという。
先ほどから、体力の有り余った子供たちは、その母親の周りをぐるぐると回っていた。しばらくすると、子供たちは母親に叱られ、小さく縮こまり、大人しくなった。
小春は、おばさんの家ではなく、従兄の父であるニカおじさんの家に世話になることになったらしい。ありがたい話である、と小春はただぼんやりと考えていた。そして、コンビニにでも寄って、何か買い物がしたい、とも考えていた。
誰かが欠けても、何を失っても、人間の体は生きようとする。全く、皮肉な話だ、と小春は唾液を飲み込んだ。
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