真実の愛を探した旅人の記録
@Yume023588
愛を探す研究者
「あー…?馬鹿みたい…」
無駄に厚くて重たい本をベッドの上でぶっきらぼうにとじた。
エメラルドの海、サファイアの空、ルビーの夕日。息を呑むほど美しいこの国には、大層耳障りの良い美しい伝説がある。
それは「真実の愛伝説」。
昔々に生きた、とある姫君と軍人のラブストーリーだ。
二人は恋仲であった。しかしある日クーデターが起きてしまう。軍人は愛しい恋人を殺さなければならなくなった。軍人はどうしても嫌だったらしく、姫君を逃がそうとした。だが、叶わなかった。二人は永遠の愛を誓い、抱き合いながら海に沈んだのだ。
あーあ、なんて素敵。なんて思わない。たかが伝説、きっと作り話である。
「ねえ、アンナ〜?もうすぐ朝礼よ?何してるの?」
時計をみるとすでに朝。ノックもなく扉が開く。きゃんきゃんと子犬のような高い声、銀髪、薄い青色の瞳、発光する肌は徹夜の自分にはきつい。
「あぁ、ミレーユ……」
「本読んでたの?そんなに分厚い本、読むのに5時間はかかるんじゃない。徹夜した?」
「うん。」
軽く返事を返した。
「おバカ!!今日も仕事なのに!」
私の仕事は王立研究室の研究者。面倒だけどこの仕事がすきだ。
わからないものはとことん追求してきた。そうじゃないと気がすまないから。私にとってはまさに天職だった。
「何ぼさっとしてるの?早く来なきゃ!」
時計を見れば朝礼まで残り5分。ほぼ詰みの時間ではあるが取り敢えず
準備を始めた…
間に合いませんでした。十分遅刻です。
「あらー、十分遅刻。君のことだから珍しくはないけどぉ。一応理由聞いておくね。」
所長は軽い世間話のように問うた。
「本を読みふけっていたら、いつの間にか朝でした。」
素直ほどよいことはない。私は知っている。
「何の本?」
「…テレタ王国の、真実の愛伝説……です…」
柄にもないものを読んでいる自覚しかない。所長は明らかにニヤニヤし始めた。
「ほぉーーーーーん???????どうだった???どう思った????」
素直は、いいこと。
「馬鹿らしいと。思いました。」
そう言ったら所長は少し悲しそうな顔をした。
「はは、馬鹿らしいか…素敵な話なんだけどね。君の色恋沙汰、一度も聞いたことないし。そう思うのも無理はないかもねぇ。」
所長はずっと悲しそうな顔をしている。彼は、私が幼い頃孤児院から私を引き取った。幼い頃から今までの私を知っている。学生時代、全く色恋沙汰もなく勉強ばかりしてきた私をよく労ってくれた。
彼は、少し決断したような顔をして。笑顔を作った。
「君は、愛を知っているかな。」
愛。愛とは、形のないもの。
「はは、感情について考えたことなかったでしょ。愛ってとても曖昧で大きな言葉だよね。家族愛。友愛。恋愛。全て、少しづつ違うような気がしない?」
………。
「気になるよねぇ…君、愛を学んできてよ。」
「え?私は、もう、愛を知っています…よ、きっと…」
所長もミレーユも私のことを愛してくれている。私も2人のことが好きだ。
「世界には色んな人がいるよね。みんな、同じものを愛と呼んでいるのかな。その人になりかわれない以上、同じものかの判別はできないが。まあ、旅に出てみてくれ。渡航費もあげるから。世界を回って、様々な人の愛の形を見つけて。何が愛なのか。君なりに定義してみなさい。」
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