第2話 クラスメイト

 ティナがかばんを置いて自分の席に座る。

 ティナの席は教室の真ん中の一番後ろ。

 左側が校庭に面した窓側席で、いつもこの瞬間に目がいくのが左の一番前の席に座るあの子の後ろ姿。

 クラスカーストの枠組みから外れたもうひとりの存在。


 長い黒髪で絹のようなストレートヘア。

 肌は白く、色素が薄いのかその瞳は光の加減によっては茶色だったり赤っぽくも見える。


(あの瞳はまるで宝石だよ。それにあれだけ綺麗な黒髪なのに、その他だけ色素が薄いとかもう美術品だね…神様のいたずらとしか思えない…)

 ティナが毎日思っていることを今日も繰り返してしまったことに後悔…はしていない。

 なんなら、容姿端麗なティナをしても毎日のこの瞬間が目の保養になっていると考えるほどである。


(あれで成績優秀でなんか難しい論文も書いてて…大学からも色々推薦の話が来てるって…まだ2年生なのに。…綺麗なだけじゃなくて頭もいいとか、信じてはないけど神様も偏ったことするよね)

 そう考えるティナ自身も他人からそう思われても不思議ではない容姿なのだが、自分ではなかなか気が付きにくいものなのだ。


 余談だが、この国では一柱の神を信じる者は少ない。

 ありとあらゆるもの全てに神が宿ると考える者の方が多い国である。



 ティナの視線に気が付いたのか、彼女はティナの方へ向いて笑顔をくれる。

 そう、彼女もとても優しいのだ。

 そしてティナは彼女のことを親友と思っている。

(向こうもそう思ってくれてたらいいな)


 彼女は北頼 凛夢きたより りむ

 ティナと同じで皆に分け隔てなく優しいのだが、話しかけてきた人にしか関わろうとしない。

 自分から話しかける性格ではないみたいで、自ら話しかける勇気がないオタクくんたちと話しているところは見たことがない。

 一方ギャルたちはお構いなしに彼女にも話しかけるので、そういった相手には気を許すらしい。

 男子たちは北頼きたよりのことを当然気にしているが、その醸し出すミステリアスな雰囲気というか、近寄りがたい美貌というのか、要するに高嶺の花すぎて話しかける者は案外少なかった。



 午前中の授業が終わり、帰り支度を始める。

 今はテスト前期間の短縮授業中で、午前中しか授業はない。

 ティナはバスケ部だが、今日は部活もない。


 ティナが鞄に教科書を突っ込んでいると、カースト上位のギャルたちから声を掛けられる。

「ねぇティナ~。このあと勉強教えてよ~、数学がマジヤバ…」

 いつもギャルの中心にいるリサのお願いに、ティナは

「いいよ~じゃあどこでする?」

「マ?いいの?!じゃあうちで~♪」

 リサが嬉しそうにしていると、ティナの視線が自然と凛夢りむの方へいく。


 ティナの視線に気が付いたのか凛夢がこちらを向いていた。

 するとティナが立ち上がり、

「凛夢もいく?私もわからないところ教えてほしいな~」

 と凛夢に向かって話しかける。


 その様子をちょっと緊張した様子でリサが見守っている。

 まさか凛夢も誘うとは思ってなかったのだろう。

 すると凛夢は

「いいよ。私がわかるとこなら教えてあげるよ」

 と素敵な笑顔。


 すると見ていたリサが立ち上がり、

「マ?!!凛夢も来てくれんの?!」

 と大げさに嬉しそうにしている。


「…私の時とリアクション違いすぎない?」

 なんかちょっと引っかかりを覚えるティナに、リサは

「あっ、いや…なんだかんだティナはうちらの面倒見てくれるじゃん?でも凛夢はレアじゃん?激レアじゃん?」

 と言い訳する。


「むー、まあ確かにリサたちと外で遊んでるところは見ないね」

 とティナが納得しかけるが、

「まって!私リサたちから遊びに誘われたことがないだけで、断ったことないと思うんだけど…。確かに忙しい時は忙しいけど、全く遊べない程じゃないよ」

 と言いながら少し困った顔で見上げてくる凛夢のその美しい瞳はリサの心を撃ちぬいたらしく、

「そうだったわ…ゴメン凛夢。全部私が悪かった…」

 とリサが懺悔するように凛夢の目の前に膝をついて抱きつく。

 椅子に座る凛夢の脚の間にリサが入って胸に顔をうずめている状態だった。


 その様子を見ていたクラスの男子たちは、

「てえてえ」

「もっとやれ」

「あ~場所代わってほしい」

 と言い出したので、リサと同じギャルグループの玲音レオ

「あ~男子うっとおしい。散れ!」

 といって周りの男子を蹴散らす。


 そして、

「当然アタシも行くから」

 というと、リサが

「え?玲音レオって勉強すんの?いつも来ねえのに」

 と茶化すと、

「ウルサイな!アタシもそろそろ(勉強)ヤベーと思ってたんだよ」

 と言いながらその視線は凛夢を見ていた。


「…凛夢狙いか」

 とリサが呟くと、

「いや違うしっ!いや違わねーけど違うしっ!」

 とちょっと顔が赤い。


 また男子が「てぇてぇてぇてぇ」言いながら集まってきたのでそれを蹴散らし、教室から出る四人。


 四人が校舎入口の下駄箱のところで、靴を履き替えていると、凛夢の視線が下駄箱の奥に注がれている。

 ティナが凛夢の視線を追うと、そこには奏斗かなとが靴を履き替えていた。


「今から勉強するんだけど、奏斗くんも一緒に勉強する?」

 ティナの声に、リサと玲音レオが顔を見合わせている。


 すると奏斗は凛夢に目を向けて数秒顔を見つめた後、リサと玲音レオを横目で見て、

「いや、やめとくよ」

 と断った。


 ティナが残念そうに

「そう…じゃあまた誘うね」

 と校舎から出ていく奏斗の後ろから声をかけるが、一瞬立ち止まっただけで返事もせずに帰ってしまった。


 すると、玲音レオとリサが騒ぎ出す。

「いや吉秋アイツ、アタシとリサ見て断っただろアレ?」

「失礼すぎるんですけどー!」


 ひととおり騒ぐ二人に凛夢とティナは苦笑い。

 でもすぐにリサがティナの顔を見て、

「…せつないねぇ」

 と優し気な顔をしてくる。


「いや…そんなんじゃないし。…ただ勉強苦手みたいだから…」

 とちょっと俯くティナ。


 そんなティナを見て玲音レオがちっちゃく「はわわ~」と言いながらティナを抱きしめようとすると、それよりも先に凛夢がティナを後ろから抱きしめる。

「大丈夫だよ…大丈夫」

 とまるで母親が子どもをあやす様に抱きしめながらティナの頭を撫でる凛夢。


 ティナは何故かとても安心したような、凛夢に言われたなら大丈夫なんだろうと何故か納得してしまう。

 その様子を間近で見ていた玲音レオは、

「…と、尊い……」

 と目を見開きながら身体が震えている。


「あんたも腐ってんなー」

 とリサはジト目だった。





 ――――――――――――――――――――――


 凛夢

 https://kakuyomu.jp/users/Jinkamy/news/16818792439618750498

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