新作VRMMOに遅れて参加することになった俺は、1番人気のない『召喚士』をやってみることに――「意外と召喚士強いなぁ……え、こんなに強いの俺の召喚獣だけ?」

水の入ったペットボトル

第1話

『ごめんな、じゃあ先に俺達は遊んでるよ』

「あぁ、俺の分まで楽しんでくれ」

『いや、れんも1週間後に届くんだろ? 皆で遊んで待ってるからさ』


 俺は今日から始まる新作VRMMOのため、ゲームが快適に遊べるよう昨日の夜ヘッドギアの設定をイジっていた。

 俺が使っているヘッドギアは結構古いもので、新しいゲームを遊ぶのは今回が最後の機会かなと思いながら設定を確認していると、いきなり何も動かなくなり、自分で電源を消そうとした次の瞬間には勝手に電源が落ちた。

 その後何度も電源を入れようとしたが何の反応もなく、今日の朝慌てて修理に出したのだが、お店の人から、『もう修理したところで今のゲームの負荷には耐えられないし、買い替える方が良いよ』と言われ、その場で泣き崩れそうになるのを堪えながら家まで帰り、今友達の伊藤にその話をしていたのだ。

 

 伊藤は俺なんかよりも全然昔から色んなゲームを遊んでて、一緒にゲームしようぜと俺を誘ってくれたのも、中古のヘッドギアを一緒に選んでくれたのも、面白いゲームの情報を教えてくれたのも全部伊藤だった。

 そんな伊藤は色んなゲームが上手で、ゲームで知り合った友達も多く、今回の新作VRMMOをそのゲーム仲間達と伊藤と俺で一緒に遊ばないかと誘ってくれていたのだ。


 俺は何かのゲーム発売初日から遊べるのは今回が初めてだったので、スタートダッシュを切れることが嬉しく、いくつものβテストの動画を見漁っていたのだが、今はその全てが無駄になった気分だ。


「1週間も待たせるのは流石に俺の気持ち的にもキツいし、他の人入れて遊んでてよ。俺もVRマシンが届いたら適当に遊ぶし」

『良いのか? れんが1番楽しみにしてたのに』

「1週間も1人欠けたパーティーで遊ばせるのはなぁ」

『それこそ誰かフレンド呼んだらいいし、適当に1週間くらい遊んでるぞ?』

「いや、現実での1週間はゲーム内の時間だと3週間分だぞ。絶対に固定パーティー組んで、いつもみたいに攻略クラン作って、スタートダッシュする方が楽しいって」

『……まぁな。でもそしたられんが来る頃には……もう一緒に遊べない可能性だってあるぞ?』


 以前伊藤に教えてもらったのだが、『VRMMOを最初から遊べるのは、本当に面白くて、滅茶苦茶楽しくて……地獄だぞ』とのこと。

 

 最初の2つの意味はほぼ同じだし分かるのだが、最後の地獄という部分がどういうことか聞いてみると、主に自分の体へのダメージの話らしい。

 ゲームがしたくて睡眠時間が減り、食事も取らず、家事もほとんどしなくなる。部屋は荒れ、今が昼なのか夜なのかも分からなくなる。

 それくらい生活の全てをゲームに費やしてしまうから、新作VRMMOを始める時は気を付けろと何度も言われていた。


 そしてこれが何故伊藤と一緒に遊べなくなることに繋がるのかと言うと、単純に伊藤はゲーム好きなら誰でも知ってる程有名な、ゲームセンスがずば抜けて高い天才ゲーマーだからだ。

 どんなゲームでも毎回活躍して、配信や動画投稿をしてるわけでもないのに、一部の者から崇拝される程の実力を持っている。


 そんな伊藤と伊藤のゲーム仲間達が固定パーティーを組んで普通にプレイすれば、ほぼ確実に俺が伊藤達に追いつける日は来ない。

 ゲームの上手い伊藤は俺がゲーム下手だと言う気はないのだろうが、自分達が本気で遊んだら俺とはもう遊べなくなるぞと伝えたかったのだろう。


 今回俺はいつものメンバーが1人居ないからという理由で伊藤のパーティーに誘われていたため、どれくらい凄いんだろうという期待と、ゲームのトップ層のパーティーに入れることのワクワクと緊張を感じながら楽しみにしていたのだが……ゲーム機が壊れたんだから、残念だけど諦めるしかない。


「まぁまた他の機会にしよう。今回は1人で頑張るよ。伊藤もいつも通り攻略組として暴れ回ってくれ」

『……分かった。じゃあ俺から皆には言っとくよ』

「俺と一緒に遊んでくれようとしてた人達には感謝と謝罪だけ伝えておいて」

『確かにれんがドタキャンしたみたいになったけど、たぶんあいつらは気にしないって。これくらいのハプニングがあって他の奴らに良いハンデだとか言いそうだし。というかれんの代わりに俺らのパーティーに入る奴はれんに滅茶苦茶感謝すると思うぞ』

「確かに急に攻略組の伊藤の固定パーティーに入れるってなったら嬉しいよな」

『……ちょっとくらい否定しろよ。そんなに俺らのパーティーは凄くないって』

「そうだな。伊藤のパーティーじゃなくて、伊藤が凄いな」

『……おい、俺を褒め殺してあのバカ高いVRマシン買わせようとしてる?』

「バレた?」


 こんな話し合いをしていると、そろそろ新作VRMMOの開始時刻が迫ってきていた。


『じゃあそろそろ行くわ』

「おう、楽しんで来てくれ」

『いつも通り連絡とか全然返せなくなると思うけど』

「それは知ってる」

『クランとかもすぐ埋まってたぶん無理だろうし』

「それも分かってる」

『あと、やるなら最後まで全力でやりたいから、ラスボスまで進めないとたぶんれんとは遊べな「お前は俺の彼女か!」』


 行くと言ってからなかなか行かない伊藤にキレてしまった。

 帰ると言ってから何度も扉の前で話しかけてくる情景が頭の中に浮かぶのだが、彼女でもない伊藤と男同士こんなやりとりをするのは気持ち悪さしか残らない。


『早かったな。いつもならもうちょっと泳がせてくれるのに』

「昨日の夜ヘッドギアが壊れてなかったら、もっと余裕があったかもな」

『確かにそうだった。じゃあもう落ちるわ。ばいばー』 トゥルンッ


「なんでいつも声出してる途中で落ちるんだよ」


 伊藤の通話の落ち方に独りツッコミを入れながら、俺はパソコンの電源を落とす。


「はぁ……1週間も待ちたくないなぁ」


 現実での1秒は、ゲーム内時間での3秒、現実での1週間は、ゲーム内時間での3週間である。

 これは今でこそ当たり前だが、昔は考えられないことだったらしい。


 学校や仕事のようなストレスの溜まりやすい現場では健康への被害を考慮して、体感時間を操作するような装置の使用を禁止されているが、ゲームでは基本的に規制などされておらず、昔の人達よりも3倍の時間ゲームを楽しむことが出来る。

 そう考えると俺はいい時代に生まれてきたのだと思うが、ヘッドギアが壊れてしまった今、遊ぶことが出来ないこの時間が本当に苦痛で仕方がない。


「あぁ、もう寝ようかな」


 俺が壊れてしまったヘッドギアの代わりに頼んだのは、今流行りのカプセル型VRマシンで、最新の1番性能が良いものだ。

 これからもずっとゲームはするだろうし、伊藤にも相談して思い切って買ったは良いものの、届くまでに1週間かかるのは本当にキツい。


「いや、絶対寝れないしβテストの動画をもうちょっと見よ」


 俺はベッドに寝転がりながらスマホを両手で持ち、新作VRMMOのβテストの過去配信を動画サイトで検索する。


「『NFO βテスト』っと」


 名前は『Nexus Fantasy Onlineネクサスファンタジーオンライン』という、通称ネクファンと呼ばれていて、1カ月前に3日間βテストが行われたのだが、俺はβテストの抽選に外れてプレイできなかった。

 同じ会社が作っている他のゲームを長くプレイしている人は、βテストに当選する可能性が高いなどという迷信もあったが、本当かどうかは分からない。

 ただ、伊藤や伊藤のゲーム仲間はβテストをプレイ出来ていたので、今のところ俺の周りではその迷信通りにはなっている。


「あ、オススメ職業か」


 俺はβテストの動画を今日まで色々見てきたが、どの職業にするかはまだ決めていなかった。


 これがいいかもな、というのは幾つか見つけていて、後はその中のどれがお勧めか伊藤に聞こうとしていたんだけど、今となってはもう意味がなくなってしまった。

 そしてやろうとしていた職業も全部パーティーで行動する前提の職業だったので、1人になってしまった今、また考え直さないといけない。


「ゲーム内でフレンドを作ってパーティーを組む……ってのは出来ないよなぁ」


 俺はどうしてもゲーム内で知り合った人と固定のパーティーを組んだり、長い時間一緒に居たりするのが苦手だ。


 それは俺が初めてゲームをプレイした時、当たり前だが初心者の俺はゲームが下手くそだった。

 そんな状態で俺はゲーム内で知り合った人と運良く固定のパーティーを組めて、初心者の俺にパーティーメンバーが色々優しく教えてくれながら、その時は楽しく遊ぶことが出来ていた。

 

 それから少し時間が経って、イベント期間が訪れる。そのイベント報酬では、上級のボスを倒せば有料のアイテムが無料でもらえるという、プレイヤーにとって凄く嬉しいものだった。

 そして勿論俺達もその報酬を手に入れるためにボスへと挑むのだが……なかなか倒せない。

 全員ゲームが上手いというわけでもないため、誰が悪いとかはなかったと思うのだが、少なくとも当時一番下手なのは俺だった。

 そしてそんな俺に、パーティーメンバーはボスを倒せないイライラや、ゲームなんて関係ない日頃のストレスまでぶつけて来て、その中のある1人にお前は邪魔だと言われた次の日、俺はそのパーティーを抜けた。


 そこから俺は1人で遊ぶようになった。

 

 長くパーティーを組んで遊んだのはそれが最初で最後だ。

 たまに臨時パーティーを組んで遊ぶことはあっても、固定のパーティーを組むとかは本当に出来ない。

 少しトラウマになってる部分もあるが、単純にゲームで嫌な思いをしたくないから、そういった状況にならないよう自分で避けている。


「思い切って鍛冶師とか錬金術師とか、生産職に行くのもあり、か?」


 戦闘職だと過去のようなことが起こる可能性もあるが、生産職ならメインが戦闘じゃなくて生産になるし、仮に生産職同士で固定パーティーを組んでも、かつてのようなことにはならないのではないか? なんて考える。


 ……でも、生産職よりも戦闘職の方が楽しいよなぁ。やってみないと分からないのはそうだけど、俺は戦闘とか探索とか、モンスターを倒した時に出るドロップアイテムのガチャ要素とか、そういうのが好きで遊んでるし。

 考えれば考えるほどやっぱり俺は万能そうな剣士とか戦士あたりの戦闘職を選ぶべきだな。……なんなら今まであんまり使ってこなかった、VRMMOのどの作品でも人気の魔法使いとかも意外とありか?


「どうしようかなぁ……ん? なんかメールが来てる」


 俺はこうしてどの職業にしようか動画を見たり、攻略サイトの評価等を見てたのだが、その途中でスマホに一通のメールが届く。


「えっと……商品欠品による注文のキャンセルって……えぇぇええええ!?」


 慌ててメールの内容を確認すると、さっき注文したVRマシンが在庫切れだったらしく、注文をキャンセルさせていただく、とのことだった。


「……まぁポイント勿体ないけど、他のサイトで買うか」


 普段利用しているサイトのポイントを出来れば貯めたかったのだが、在庫切れは仕方がない。


「さっき調べた時あっちのサイトには黒色って残ってたっけ?」


 この際もう最悪色は何だって良いかもな。黒は1つしか無かったけど、白だったら同じサイトで結構在庫あったし。


「ま、取り敢えず注文するか」


 こうして俺はもう一度VRマシンを購入するため、パソコンを立ち上げるのだが……


「……ない……ここもない……ここも売り切れ……ここも……」


 何故かどのサイトも売り切れており、数時間前と全く状況が違った。

 黒色にさえ拘らなければもっといっぱい在庫があった筈なのに、今は色など関係なくVRマシン自体がどこも売り切れている。


「……何でだ?」


 俺は何故いきなりこの数時間でVRマシンが売り切れになったのか気になりSNSで調べてみると、ネクファン発売を記念して公式の配信がゲーム開始直前までやっていたらしく、そこで紹介された最新型のVRマシンがその配信を見ていた人達の心を射止めたのだとか。


「いや、VRマシン買った殆どの人は絶対に今ゲーム出来てるだろ! 俺には今遊ぶためのものがないのに……」


 こんなことを言っても仕方がないが、そうこぼさずにはいられなかった。


「駄目だ、とにかく探さないと……」




 そして俺はいくつものサイトを血眼になって調べ、奇跡的にVRマシンを1つ売っているサイトを見つけたのだが……


「……怪しい」


 VRマシンを見つけたのは『売る神あれば買う神あり』という中古の商品を扱っているサイトで、値段は正規の値段と同じ金額だった。


「まぁ最新型のVRマシンだし、未使用だって書いてるし、経年劣化とかは考えなくて良いだろうけど……不良品っぽさもあるよなぁ」


 ただ、1週間以内なら返品可能とも書かれていて、怪しいけど怪しくない、不思議な感じだ。

 これで正規の値段より高かったりしたならやってることは許せないけど、出品者が儲けようとしてるだけなんだなとむしろ安心できたが、どうやらそういうわけでもないらしい。


「しかも明日の朝届くのか……」


 今の状況としては全く俺にとって悪いことはない。むしろ1週間先になるはずが、うまく行けば明日からゲームが出来るようになる。


「……買うか」


 俺は少し悩んだが購入をクリックし、お買い上げありがとうございますという文字と共に出てきた、このサイトの神様のキャラクターが頭を下げている姿をぼーっと眺める。


「これで不良品じゃないなら本当にありがたいけど……」


 俺は、『あなたは買う神!』と画面に大きく出た文字を見て、もしVRマシンを売ってくれた人が目の前に居るなら、『あなたが売る神!』と言ってあげたい気持ちになった。





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