第6話 役に立つかわからない知識

 使えるようになった魔法は影分身……黒魔法だ。白と黒なんて極端すぎる! 厨二極まってるし、使えねえええ。

 基本的に黒魔法は魔物特有の属性で、魔物には効かないけど魔物以外には効くっていう、人間のおれが持ってても使いようのない魔法だ。例えばイベント等で人間相手の戦闘がある場合にはめちゃくちゃ強いが、同族への危害ペナルティとして命を削る。前々作に呪いで黒魔法使いになったキャラは最後に魔物化して死んだ。何回やり直しても助けられなかった苦く悲しい思い出だ。


「アピタル? 何か魔法を使ったのか?」


 エスクァーヴは諜報員なだけあって目敏い。グラールとの話に夢中みたいだったのに。


「ちょっと試したいことがあったんだけど、不発だった。残念」

「アピタルは不発も多いな」

「グラール、よく見てるね。そうなんだ……もうちょっと成功率が上げられるといいんだけど」


 成功率もレベルと一緒に上がるものだ。今のおれは、経験値もないのにスキルレベルばかり上がっているおかしな状態である。


「魔法を使う時に光るやつ、フライアのは強烈だけど、アピタルのは明るいのに優しい感じがするな。使う人間の精神が反映されるのか?」

「え! いや、たぶん、属性が違うからじゃないかな。へへ、そう言ってもらえるとなんか嬉しい」


 グラールはおれのことを優しい人間だと思ってくれているらしい。顔がにやけてしまっていたら、頭を撫でられた。グラールは歳の離れた弟妹がいるに違いない! 優しい!


「おい、グラール、アピタルはそんなに子どもじゃないだろう。失礼だ」

「え、嫌だったか?」

「グラールに撫でられるのは嫌じゃない!」

「フライアは?」

「フライアもいい」

「じゃあ、エスクァーヴは?」

「なんか怖い」


 髭面で目つきの悪いオッサンのキャラデザは好きだけど、目の前にいると怖い。現代日本では滅多に見ないタイプだから仕方ないと思う。

 おれは現実でもこの世界でもヒョロいチビだ。


「ステータスが見れたらいいのにな」

「すていたす?」

「人の能力値、魔法がどれだけ使えるかとか、適性とか」

「アピタルは一体どこから来たんだ……天界から落ちてきたのか?」


 グラールが嘆息しながら言うのに、閃いた!


「そう! たぶんおれ、似たような違う世界から来たんだ。だいたい五百年前のだけど」

「だから大陸、か」

「過去から来たにしても、どうやって生きていたか想像つかないけどな」


 グラールとエスクァーヴが肩をすくめている。

 でも、おれだって説明がつかない。この世界は誰かの創造した世界で、おれたちがキャラクターを作って世界を救う遊びをしていたなんて……この世界を現実として生きている人たちには納得できないだろう。

 フライアの絶望は本物だった。おれが子どもだと勘違いしたのと、生来の優しさから許してくれたけれど。


「過去から来たよりは天から落ちてきたほうがいい。いいな? グラール」

「俺はそういうの苦手だから、任せる」


 同意を求められたグラールが肩をすくめて流す。そんな仕草ひとつも格好いい。


「エスクァーヴ?」

「お前はどう贔屓目に見ても普通じゃないから、理由が必要なんだよ。異端扱いで殺されたくないだろ?」

「えっ、おれ、殺されちゃうの」

「俺たちも守るけど、どうなるかわからん。お前は神聖魔法は優秀だけど、戦闘向きな魔法も運動神経もなさそうだからな。何か扱える武器はあるのか?」

「武器……杖とか?」

「杖ぇ? 棒術でもないのか」


 魔法使いが一般的でないこの時代では、そもそも魔法使いが得物を持っていることがないらしい。

 てことは、おれが愛用していた白金木の杖もないのか。白金木の杖は軽くて敏捷性を上げてくれる。回避率アップや、魔法の発動速度も上げてくれる優れものだ。白く輝いていて、白魔法使いらしくて大好きだった。


「ないな……おれの杖」

「どんなのがいいんだ?」

「白金木って木の枝を使うんだけど」


 また二人が真顔になってしまった。


「白金木は皇帝の木だ。そもそも切れない木だぞ」

「切るにはコツがあるから」

「黙っとけ?」

「はい」


 だんだんエスクァーヴが雑になってきた。俺、チート白魔法使いなのに。

 あんまり大事にされるのも落ち着かないからいいんだけどさ……


「アピタル、お前はナイフも使えないのに、木は切れるのか?」


 グラールも遠慮がなくなってきた。仲良くなったみたいで嬉しい。いつまでも珍獣扱いされるのは寂しいし。


「グラール。白金木はすごくふざけた木なんだよ。白いもので切ればいいんだ。自分より白いものには負けたって思うから切れるんだ。折れるって感じかな」


 ふざけてる奴にはふざけてる材料か、じゃないよエスクァーヴ。おれはグラールと話してるんだから!


「白いもの……たとえば?」

「コカトリスの特殊個体の風切り羽とか」

「コカトリス」

「うん、コカトリス。そのへん歩いてたりしない?」

「伝説の魔物だな」

「どんな世界だ、コカトリスが歩いてるって」


 グラールが伝説と言い、エスクァーヴが乾いた笑い混じりにツッコミを入れる。特殊個体の条件については聞いてもくれない。コカトリスが出るフィールドの白いとこに10%の確率で出るからそんなにレアじゃないんだよーと魔物博士っぽくしたかったんだけどな。

 これは転生にありがちなチートマウントをかましてしまった感じかもしれない。現実は低レベルの汎用性低すぎな激弱魔法使いなんだけど。


「アピタルはまずナイフの使い方を覚えような」


 おれがしょんぼりしていたら、グラールがチュートリアルキャラらしさを発揮してくれた。フライアが癒しキャラじゃなかったから、グラールだけが心のオアシスだ。エスクァーヴは胡散草いから論外。


「ありがとう、グラール」


 渡されたのは、そのへんの死体からゲットしたナイフだった。リアルなら嫌なんだろうけど、最初にたくさん死体を見過ぎたせいか、全く気にならなかった。

 グラールが作ってくれた、丸太に枯れ草を巻きつけたやつを切りつけてみる。なんかちょっとずつ動きがマシになってる気がする。レベル上がってないかな!


「フライアが起きるまで練習してろ。起きたらディノの街に向かう」

「はい! 師匠!」

「師匠かよ」


 俺のノリに笑ったグラールは、すごく優しい顔だった。ずっと一緒に旅ができたらいいのに。


 でもおれは知ってるんだ、この作品のチュートリアルキャラは死ぬって。過去5作品、全部死んだ。みんないっぺん死んでるけど、それとは全く別の蘇生もかなわない死が襲う。

 主人公であるプレイヤーが成長するために必要なイベントとはいえ、わかっていても悲しみに暮れるプレイヤーが多い。

 いまのところ、この物語の主人公はおれだろう。地味だけど。だからグラールはどうやってかわからないけど、とてもドラマティックに死ぬ。


 なあおれ、それを回避することはできないのか?

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