第7話
鏡の中から伸びてきた無数の手は、私たちを掴もうと、まるで生き物のようにうごめいていた。健太と結衣の絶叫が、廊下に響き渡る。悠真は、恐怖に顔を引きつらせながらも、私たちに叫んだ。
「鏡から離れろ!早く!」
私たちは、悲鳴を上げながら鏡から後ずさった。すると、伸びてきた手は、まるで実体がないかのように、鏡の中に吸い込まれて消えていった。しかし、鏡の表面には、まるで手形のように、黒くべっとりとした痕跡が残されていた。
「な、なんだよ、あれ…」
健太が震える声でつぶやく。私たちは皆、言葉を失い、恐怖で立ち尽くしていた。その時、悠真が鏡に映る自分の姿を見て、ハッと息をのんだ。
「……あれは……」
悠真が指差す先を、私たちは見つめた。鏡の中の私たちとは別に、悠真の後ろに、ぼんやりと半透明な人影が立っていた。それは、悠真の兄に似ているようにも見えたが、その顔は苦痛に歪んでいた。
人影は、ゆっくりと鏡の中からこちらに向かって歩み寄り、鏡の縁を越えて、現実世界に現れた。
「ヒッ…!」
結衣が悲鳴を上げ、その場にへたり込んだ。私たちは、その人影から目を離せない。人影は、私たちをじっと見つめ、何かを伝えようとしているかのように口をパクパクさせていた。しかし、声は聞こえない。
悠真は、恐怖で固まりながらも、人影に近づいていこうとした。
「兄さん…?」
悠真の言葉に、人影は悲痛な表情を浮かべた。その時、陽菜が叫んだ。
「悠真くん、やめて!その人影、あなたを連れて行こうとしているわ!」
陽菜の言葉に、人影の表情が一変する。それは、悲しみや苦痛ではなく、まるで私たちを恨んでいるかのような、憎悪に満ちた表情だった。人影は、ゆっくりと悠真に手を伸ばした。
「悠真、逃げろ!」
私が叫ぶと、悠真はハッと我に返り、私たちと一緒に走り出した。私たちは、廊下の奥へと逃げていく。振り返ると、人影は私たちを追いかけるように、ゆっくりと廊下を漂っていた。
「くそっ、なんでだよ……!」
健太が走りながら叫ぶ。私たちの恐怖は、もう好奇心や遊び心ではなかった。これは、私たちにしか見えない、本物の恐怖だった。
放送室に逃げ込んだ私たちは、すぐにドアに鍵をかけた。息を切らしながら窓の外を見ると、人影はもういなかった。しかし、私たちは知っていた。あれは、もうそこにはいないが、私たちを狙っていることを。
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