第3話

「存在しない部屋」の噂を深く掘り下げることに決めた私たちは、文化祭の作品制作を本格的に開始した。撮影担当の健太は、自分のドローンを持ち出してきて、意気揚々と準備を進めている。


「ドローンがあれば、足を踏み入れられない場所も撮影できるし、上空からの映像も撮れるぜ!これぞハイテク技術の力!」


健太はそう言って笑っていたが、陽菜の表情は硬いままだった。陽菜は、古い文献や資料を調べているうちに、噂の信憑性を確信しているようだった。


「この噂……昔から、本当にあったみたい」


陽菜が静かに口を開いた。私たちは皆、陽菜の言葉に注目する。


「この高校が、昔は別の学校だった時代の記録に、不自然な『空白』がある。特定の期間だけ、生徒や教師の記録が途切れてるの」


陽菜はそう言って、古びた資料を広げた。その資料には、ある年の卒業生名簿に、数人の名前が不自然に消されているページがあった。


「これは、何かの事件があったってこと?」


健太が尋ねると、陽菜はゆっくりと首を振った。


「事件ではなく、『失踪』。記録には、彼らが夜中に学校で何かを探していた、とだけ書かれてる」


陽菜の言葉に、放送室の空気が一気に重くなる。悠真は、神妙な面持ちで資料を眺めていた。


「この話、本当なら、かなりやばいんじゃないのか?」


悠真は不安を隠せない様子で、私たちを真っ直ぐ見つめた。


「りお、これはただの噂じゃない。もし、本当に彼らが『存在しない部屋』に入って消えたんだとしたら、私たちも同じ目に遭うかもしれない」


悠真の警告は、私たちの心に深く響いた。結衣は、もうやめるべきだと訴えた。しかし、私たちの好奇心は、恐怖を上回っていた。


「大丈夫だよ。私たちは、ただのドキュメンタリーを作るだけ。彼らのように、噂を信じ込みすぎたりしない」


私がそう言うと、悠真は諦めたようにため息をついた。


「……わかった。ただし、もう一度言う。絶対に、無理はしないこと。何かあったら、すぐに引き返すんだ」


私たちは皆、悠真の忠告を真剣に聞き入れた。


そして、その夜。

私たちは、噂の場所とされる旧校舎の周辺を撮影するため、こっそりと夜の学校に忍び込んだ。懐中電灯の光が、静まり返った校舎を不気味に照らし出す。


「うわ……なんか、昼間と全然違うな……」


健太が震える声でつぶやく。


「早く撮影して、早く帰ろう……」


結衣は、そう言って私の服の裾を強く握った。


私たちは、知らないうちに、後戻りのできない一歩を踏み出してしまったのだ。

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