第121話 「……下も着てないみたいな言い方だな、それじゃあ」
「ほら、お前らも見ただろ! 今日もこんなラクガキをしている服を着て、学校に来ている。何も考えていないんだこいつは!」
大抵の教師が中学生の傷跡にショックを受け、誰も喋らなくなっていた中、沼田だけが騒いている。しかしそれに賛同する者は、もう誰もいなかった。
「……それは本当に……、本物、なのか……?」
誰かが恐る恐る言いながら、腕を伸ばした。それを見て篤飛露は一歩下がる
「急に掴もうとしたら、それなりの対応をします。だけど先に触りたいと言ってくれたら、ゆっくりなら触っていですし、本物だと確認もしていいですよ」
そう言われて触れようとした者も現れたが、それを植下が止める。
「いいでしょうもうこれで! あなたももういいから、早く服を着なさい!」
その声に反応したのか、何人かが慌てて篤飛露の前に近付き、他の教師との間に立った。
今更か。篤飛露はそう思ったが口にはしない。
期待していなかったが、こうやって行動をしてくれたのだ。なら余計な事をわざわざいって、敵を作る必要もない。
「な、な、何をやっているんですかあなた達は、大人が生徒を囲んで生徒を脱がして! 冗談かと思ってたのに、何を考えてたら生徒にこんな事をするんですか! こんなにたくさんの大人がいて、生徒に一体何をしようとしたんですか!」
シャツを着ようとした所で、職員室に入ってきた女性が大声を上げた。
牧聖愛。今まで保健室にいたので関わっていなかった、保健教師だ。
篤飛露が見ると、後ろにアサリの姿が見える。そして他には誰も入らなようにしている、夏志と国江の姿も。
「アサリが呼んだのか?」
多分だが追い出された夏志達は一旦教室に戻って話をして、アサリが味方になりそうな大人を連れて来たのだろう。
水曜日に保健室で改めて左肩に絆創膏を貼った際に、牧には一部だが体を見られている。篤飛露の体は一部を見られるだけで、異常とはハッキリとわかるはずだ。
ちなみにアサリは最初に担任を探したのだが、これは後から知ったのだが、ちょうど担当の授業がない空き時間ができたため、外出届を提出して銀行に行っており、学校内にいなかったらしい。
元々担任は、篤飛露は放課後に呼び出すつもりだったのだ。
「なんで篤飛露が裸なんですか! 先生達がむりやり脱がしたんですか! そんなにみんなで篤飛露の裸が見たいんですか! それは私のです、絶体に渡しませんし、見せません!」
アサリも叫んだ。そしてドアの近くで叫んだので、その声は廊下にいる人達にも聞こえているだろう。余計なセリフも含めて。
「……下も着てないみたいな言い方だな、それじゃあ」
そう篤飛露が言っていると予鈴のチャイムが鳴り始め、それを合図にして教師達は慌てて自分の席に戻り、準備をして教室に向かおうと散り始める。
全員がうやむやにしようとしている。篤飛露はそう思いながら制服を着終わると、アサリと牧が向かって来るのが見えた。
「ありがとうございます。……アサリもみんなも、ありがとう」
そう言うと、友美と紗月も姿を見せる。何故か紗月はサムズアップで答えて、友美からどつかれた。
「みんな無かった事のように動こうとして、生徒をなんだと思っているの!」
そう教師達に聞こえるように牧は言った。篤飛露からは露骨に視線を逸らして、誰も止まろうとしない。それに対してため息をついた篤飛露は、教師もただの職業だから、こんなものかと、わざと聞こえるように言う。
「関係ない生徒には授業をしないといけないからと、それを言い訳にしているんでしょう。何かがあった時の為にはもちろん、自分に対しても。そう言えば逃げられる、と。……それはそうと、俺達も教室に戻らないとな」
元々何も期待していなかった。そんな言い方をしていると牧は感じた。
それを自分は保健医とはいえ、生徒にとっては大人なのだ。大人として子供は守らなければいけない。
そう思い、どうしても謝らずにはいられなかった。
「助けるのが遅れてこんな事になって、本当にごめんなさい」
その横に植下も立ち、頭を下げる。
「ごめんなさい。本当にこんな事になって、止める事ができなかった……」
「頭を上げてください、二人にはそう言われる筋合いがありません。それに、もう行きますから」
そう言われて二人は頭を戻すと、もう篤飛露は背中を向けていた。他の生徒たちは少しだけ迷っていたようだが、予鈴がもう鳴っているのだ、本鈴が鳴るまで時間はもうない。
全員が背中をみせた。それに向かって植下は決意を込めて声をかける。
「今回の事はちゃんと校長に報告するから、絶対にうやむやにはしないから」
その言葉に何かを言おうとしたが、六人には教室に戻るため返事をする時間はなかった。
だが実際に報告はしたのだろう、翌日には腰をさすりながら教頭は登校し、理由は生徒にはわからないが臨時職員会議が行われ、全校で一時間目は自習になっている。
そして、それだけでは終わっていない。
その日の昼休みになって教頭は、紋常時大雅が大叔父として、そして弁護士としても含めて、その日の放課後に南城西中学校に訪問する事を伝えられた。
急な事だが、断る事などできるはずがない。言外でそう言っている口調だった
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