『うちの猫が実は世界征服を企む悪の組織の首領だった件』

漣 

第1話 通信機と衝撃の真実

僕の名前は田中翔太。どこにでもいる平凡な大学生だ。アパートで一人暮らしをしていて、相棒といえば茶トラの猫「タマ」だけ。タマは拾ってきた時から名前も決まっていた。首輪についていた名札に「TAMA」と書いてあったのだ。

タマは典型的な猫で、一日の大半を寝て過ごし、たまに起きて餌を催促し、また寝る。そんな平和な日々が続いていた。あの日までは。

「あー、また宿題忘れた。明日提出なのに」

僕は慌ててカバンをひっくり返した。教科書やノート、ペンが床に散らばる中、見慣れない小さな機械が転がり出た。

「なんだこれ?」

それは手のひらサイズの黒い箱で、アンテナのようなものが付いている。どう見ても通信機だった。

「こんなの持ってたっけ?」

その時、機械からガリガリとノイズが聞こえた。そして信じられない声が響く。

『首領!緊急事態ニャ!計画Aの準備が完了したニャ!』

「え?」

僕は通信機を見つめた。今、確かに猫のような声が聞こえた気がする。しかも「首領」って何だ?

『分かったニャ。では作戦会議を始めるニャ』

振り返ると、ソファの上でタマが起き上がっていた。しかし、いつものぼんやりした表情ではない。その瞳には、鋭い知性の光が宿っていた。

「タマ?」

タマがゆっくりと僕を振り返る。

「あー、バレちゃったニャ」

僕の思考が停止した。タマが、しゃべった。

「え、ちょっと待って。今、タマが」

「そうニャ。僕がしゃべったニャ。驚くのも無理はないニャ」

タマは優雅にソファから降り、僕の前に座った。

「正式に自己紹介するニャ。僕の本当の名前はタマ・ザ・テリブル。秘密組織『ニャルキティ団』の総首領ニャ」

「ニャルキティ団って何?」

「世界征服を目指す猫たちの組織ニャ。人間どもに支配されっぱなしの現状を打破し、この星を猫の楽園にするのが目的ニャ」

僕は床にへたり込んだ。愛猫が世界征服を企む悪の組織の首領だなんて。

「でも、いつもゴロゴロ寝てばかりじゃない」

「それは偽装ニャ。人間に警戒されないよう、平凡な猫を演じていたニャ。まあ、本当によく寝るのは事実ニャけど」

タマは通信機に向かって話しかけた。

「ニャンバー2、聞こえるかニャ?」

『はい、首領!こちらミケ・ザ・シャドウニャ!』

「計画Aの詳細を報告するニャ」

『今夜0時より、全国の猫が一斉に人間の冷蔵庫を襲撃する作戦ニャ!人間どもの食料を奪い、降参させるニャ!』

僕は慌てて口を挟んだ。

「ちょっと待って!それって単なる食い荒らしじゃない?」

タマが振り返る。

「違うニャ。これは心理戦ニャ。人間は食べ物がないと不安になるニャ。そこを突くのが狙いニャ」

「でも、そんなことしたら猫が嫌われるだけだよ」

「む。それは考えてなかったニャ」

タマは前脚で頭をかいた。通信機の向こうからミケの声が聞こえる。

『あの、首領?どうするニャ?』

「うーん、計画Aは中止ニャ。新しい作戦を考えるニャ」

『了解ニャ!』

僕はため息をついた。世界征服どころか、最初の一歩から躓いている。

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