第7話 蛇と蜂蜜

 私の名前はノエル、お嬢ちゃんが『文字司のレイラ』だね。


 私はどうも、自分のこれまでのこともこれからのことも書けそうにない。


 だから、代筆を頼むわ。



 ・・・私には、素敵な旦那とその間に息子がいるの。


 今、息子は六歳になる。


 それから現在、再婚して別の男がいるわ。



 私は、そいつを殺めようかと思うの。



 前の旦那は素敵なひとだった。


 非の打ちどころもない完璧な優れたひとだった。


 彼との間の息子も可愛くてしかたがない。



 前の旦那は、事故で死んだの。


 そして、事故だと・・・思っていた。



 車に仕掛けをして殺したと、数日前、今の旦那が酒に酔ってる時に言ったわ。


 彼、車の整備士なの。


 うちの車を診てくれてたりしていた。


 前の旦那と親友だった・・・そして、ストーカーってやつらしい。


 最近ではそのこと「ストーク」って言うんだっけ?


 まぁ、いいや。



 ・・・偶然、今の旦那の金庫の扉が開いていた。


 『前の旦那』を盗撮した写真をアルバムにして、ピンが両眼に刺してあった。



 それから、息子が「何か悩んでいるの?」って聞いてきたの。


 知らんふりをしようかと一瞬思った。


 でも、息子の顔が不安そうだったから、とっさに聞いたの。



「新しいパパに何かされたりした?」


「うん。変なことをされて、頭に別の僕たちがいる~」




 多重人格は、性的悪戯によってしか通常出現はしないらしい。


 

 息子は今の旦那に「変なこと」をされていた。


 息子言わく、大人のおもちゃにされていた、って言っていた。


 新しいパパが、いつかママに言えたらいいね、と笑ってるけど怖い顔をしていたらしい。



 ・・・私、頭が弱いの。


 ただ、数日前につまずいて壁に頭を打ってから、理解力が一時的に増したみたい。


 喋り方も少し変わった気がする。



 それから、警察は多分協力してくれないわ。


 前の旦那は、警察官だったの。


 内部で隠蔽があったから、車の仕掛けを黙っていたんだわ。



 そう思ったから、教会に行ったの。


 そこで天使と悪魔の話をされた。



 今の旦那は悪魔で、息子は天使だと思う。


 だから教会を経由して、協会にかけあってみた。


 前の旦那、協会員だったの。


 そのつてで。



 そして、『盗人蛇への蜂蜜』の話をされたわ。


 あなたがまだ成人していないことは協会から聞いている。


 気を使う分の頭が、今の私には少しだけあるわ。



 蛇が洞窟に入ったら、針で動けなくするツボを刺す。



 その時だけは、彼、無防備だから。



 それから頼んでおいた近所の不良たちに、小銭をにぎらせたわ。


 ・・・意味、分かるかしら?


 きっと、理由はいつか分かってもらえると思うの。



 私は、もう、生きていたくない。


 だから、『毒』を洞窟に塗ることにしたの。



 さっき、協会に息子をあずけてきた。


 そして決行は今晩よ。


 

 私は頭が弱いか頭が悪いけど、それでも、妻でありたかった。


 前の旦那が亡くなったあとの、親友としてのふるまいが今更、全部、許せない。


 全部、全部、許せない。


 だから、焼くの。


 毒で苦しみながら、不良たちの放つ火事で死ぬの。



 今の旦那には、今日息子が友人の家に泊まる、ってことになってる。



 ・・・帰って来たわ。


 これで、息子の人生が始まるの。



 私とあのひとの間に生まれた、私の天使。


 生前の彼の協会員活動を、頭から馬鹿にしていたから・・・きっと神様が怒ったの。


 天罰って、やつなのかしら?


 だとしたら、今の旦那に「天罰よ」って言ってやるんだわ。



 「じんちゅう」って協会に言われたけど、むずかしいこと分からないの。



 私は死んだらどこに行くとか、今、分からない。


 前は天国なんだと思ってた。


 今は、死ぬことでいっぱいいっぱいよ。



 死んだあと考える時間があればいいんだけど。


 ・・・何かがおかしいわ。


 また頭が弱くなりはじめてる気がする。




 早く、決行しなくちゃ。


 お話、聞いてくれてありがとうね。


 それから、代筆ありがとうね。



 大丈夫、おばちゃんはきっと今の旦那を地獄に落とすの。


 そのあとのことは、正直、分からない。


 そんなひとがいることを、書いておいて欲しかったの。



 お話はこれくらいにしておくわ。


 もし息子に会う機会があったら、よろしくね。



 ――

 ―――――・・・


 この記述は、レイラと魔法の羽根ペンがしたことをここに記す。



 それから、魔法の羽根ペン『ウィリー』から、追記したいって。




 盗人蛇は 蜂蜜に やがて焼かれて死ぬだろう


 盗人蛇は 蜂蜜に やがて焼かれて死ぬだろう

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