気づいたら特殊なスキルもステータスもない底辺奴隷⁈ 14年かけて1000万を貯める節約スローライフをしていたら、泣き虫な美少女拳奴に出会った! これは、現代人の知識で彼女の専属トレーナーになる話。

蒼一朗

第1話 気づいたら奴隷になってたけど、けっこう楽しく暮らしています

「うーん……やっぱりこのサンドイッチ、最高だなあ……」


 そんなことをつぶやきながら、俺は丘の上で昼飯を頬張っていた。

 パンの間にはトンカツ――いや、正確には“ビッグボア”っていう、この世界の巨大なイノシシみたいな生き物の肉を揚げたもの。外はカリカリ、中はジューシー。そこに酸味の効いた赤い実のソースがたっぷり。

 いまの俺にとってはとんでもないごちそうだ!


「ふー、やっと一週間ぶりの休日だ~……」


 この丘の上は“俺だけの特等席”だ。

 背丈の低い草が風にゆれて、空は青くてでかい。丘の上に一本だけある木の陰は涼しくて最高。遠くには、街の鐘の音が聞こえてきて、思わず「異世界~!」って叫びたくなるようなファンタジックな風景が広がっている。


 あ、言い忘れてたけど――俺、この異世界にやってきて、もうすぐ2年が経ちます。



 あの日のことは、今でもよ~く覚えてる。

 大学の講義が終わって、帰りにいつものコンビニに寄った。おにぎり2個とペットボトルのお茶を買って、自動ドアを出た――その瞬間!


「――え?」


 靴から伝わる地面の感触がアスファルトじゃなかった。

 土だった。なんか、生あたたかくて、フカフカしてた。そして鼻を突いたのは、土と、汗と、なんか獣の匂いが混ざった、“生きてる”空気。


 見上げると今まで見たことのない背の高い木々。そしてでっかい葉っぱ。そしてでっかい実。

 どう見ても、日本じゃなかった。


 そして、その木々のまわりには、筋肉ムキムキの作業員っぽい人がいっぱいいて、俺を見てあからさまに驚いた顔をしている。てか、見た目も普通の人間とちょっと違う。耳が長い人とか、ちょっと肌が青い人とかいる。え、コスプレイベント?違うよね?え、え??


 そして耳に飛び込んできたのは、「グワシュバラ!」「ドムアカパ!」とかいう意味不明な叫び声。

 向こうもびっくりしてるのは伝わってきた。そりゃそうだ。突然、ジャージ姿の大学生が現れたんだから。


 ……これ、もしかして異世界転移ってやつじゃないか?


 気づくまで、実はけっこう時間かかった。

 だって普通、異世界に来たらさ、まず最初に美少女が降臨して、「あなたは選ばれし勇者です♡」とか言ってくれるじゃん?


 それがないんだよ。女神もいないし、スキルの付与もないし、ステータスも見れない。あと、言葉すら通じない!

 異世界転移テンプレ、全無視!! 

 でもまあ……人間ってのは、案外たくましいもので。

 こんな俺でも、なんとかこの世界で生活できるようになれた。

 というか、作業員のみんなが、言葉も通じない得体の知れない俺に、とても優しくしてくれたんだ。


「遠い世界から訳も分からず連れてこられた可哀想なヤツ」と思ってくれたらしく、俺に食事と寝床、そして――仕事をくれた。


 こうして、俺の異世界スローライフ(筋肉痛・腰痛つき)が始まった。

 言葉は、死ぬ気で覚えたよ。最初はジェスチャーで会話してたけど、半年もすればなんとなく分かるようになって、1年経つころには日常会話はほぼオーケー。

 英語すらロクに喋れなかった俺が、いまでは異世界語をしゃべってる。人間、やればできる。


 そして言葉を理解できるようになったから分かったことがある。

 まず、俺が転移してきたここは農場だった。ヤークっていう木の実を育てて収穫する農場。

 そして、作業員のみんな――実は、“奴隷”だった。

“農奴”ってやつ。この世界の身分制度でいうと、もちろん最底辺。


 俺が毎日一緒に汗を流してたあの優しいおじさんや、面倒見のいいおばちゃんたちも、みんな農奴だった。

 そして、俺も、なんか気づかないうちに農奴になってた。

 ……え? いつの間に?

 知らないうちに労働契約書っぽいのにサインしてってこと? いやいやいや、そんな記憶ありませんけど??


 ……というわけで、気づけば俺は、この世界で一番下の身分になっていたのでした。

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