7
誉に連絡を取ると、図書室に来いと返事があった。たぶんそこが人目につかないということだろう。
「……ねえ、なんで付いてくるの?」
当然のように同伴している白遠に尋ねる。
教師の姿のままだと違和感がありすぎる。知らない人みたいなんだよなぁ。
「一緒にいたら変に思わないかなー」
「誉には正体を明かす」
「えっ」
あっさりと言うけれど、その影響は大きなものになる。誉にとってはある日急に白遠のことが見えなくなって暫く悲しんでいた。
近くにはいるのに遠い存在になってしまった。今ではすっかり慣れてしまったかも知れないけど、他人みたいな姿でも白遠が目の前に現れるなんて衝撃的なことだと思う。
「必要と判断したからそうする」
「うーん? ハクが決めたら止めないけど……」
図書室の札が掛かった重厚なドアを発見する。
「失礼しまーす。わあ、すごい数の本だね」
学校の図書室とは思えない広さで、本の数にちょっと圧倒されてしまった。
「随分と古い本もあるようだ」
色褪せた背表紙を見て白遠が懐かしそうに目を細めた。タイトルを見ても何の本かさっぱりだ。
「ハクって文字は読めるの?」
読み書きしているイメージがない。
「人間の文字はそこそこだな」
「そうなんだ、知らなかった」
「特に必要がなかったものだから。茉百合が教えてくれるなら覚えて恋文を送ろうか?」
ニヤリと笑われる。
スマホなんて持たないから発想が古風だ。
恋文は置いといて、覚えておけば連絡手段として便利かもしれない。
――コンコン
ノックの音とともにドアが開かれる。
遅れてやって来た誉はこちらを一瞥し、私を手招きしてきた。
「おい、なんで1人じゃないんだよ」
小声だけどぶち切れている。笑顔なのに青筋が浮かんでいる誉に白遠は声を掛けた。
「誉、話がある」
「……?」
馴れ馴れしさに怪訝な様子だけど、相手が教師(変装中)なので突っかかる気はないらしい。猫かぶりめ。
「なんでしょう、先生?」
白遠だと気付いている様子は一切ないし、見知らぬ教師だろうけど違和感もないようだ。本当にどうなってるんだろう?
どんな説明をするのかと思えば、目の前に差し出した指をパチンと鳴らして見せた。
「え?……あれ? 誰だ? え?」
目を見開いたかと思えば、珍しく慌てふためいている。
「さっきまで教師と話していたはずなのに……誰だ、お前」
誉は私を庇うようにして間に入ってきた。そして、白遠のことを睨みつけたかと思えば、今にも掴みかかりそうな雰囲気だった。
「ちょっと、誉! 急にどうしたの!?」
一触即発かという空気にびっくりする。
アイコンタクトで白遠に説明を求めると、「かけていた暗示を解いただけだ」と返ってきた。
……やっぱりそういうのがかけられているんだ。知らない人間に化けたり、思考を操作されていたり、約16年側にいたのに知らない力だ。凄いというよりも何だか……
背筋に冷たいものが走るのを感じていたが、その空気を壊したのは誉の涙だった。
……あの誉が涙を零している!?
「白遠様の声だ……」
「ああ、理解したか?」
「本当に白遠様ですか?」
「久しぶりだな、誉」
理解するのが速い。
そして、態度がしおらしくて怖すぎる。
暗示を解いた時に声も切り替えたようだけど、何年も聞いていなかったのによく分かるものだ。別の暗示かけてない?と疑いたくなる。
「そのお姿は? どうしてここに?」
「嫁に会うためだ」
説明が雑すぎる。もっと何かないのか。
「なんでお前ばかり特別扱いされるんだ」と悔しそうに睨まれた。
「これからもこうして会いに来るが、私がいない間は茉百合のことを助けてやって欲しい」
「……」
うわーっ、不服そうな顔して黙り込んだ。
日頃の態度を考えれば嫌がっているのがよく分かる。超面倒くせぇと思っていそう。
しかし、そこは白遠のほうが上手で。
「お前にしか頼めない」
その一言で誉は落ちた。
「承知しました」と即答する。いいのかよ……。
慕っていたのは知っていたけど、ここまでとは思わなかった。あるはずのない尻尾がブンブン振られているのが見えそうだ。
「こうして会えることは大変嬉しいですが、白遠様にとってここは危険な場所かもしれません。日が暮れると物の怪の類が集まりやすく、それを敵対し退治しようとするものも存在します。ご用心ください」
「ああ」
「ちょっとこっちに来い」と誉が顎で示す。
白遠から離れたところで話したいらしい。
「なに?」
「お前、尾良川リョウと接触しただろう? ……面倒くせぇことになりやがって」
「そんな事言われても」
祓い屋を名乗る副委員長と遭遇したのはたまたまだもん。
「白遠様と尾良川を引き合わせたりするなよ。何かあったら許さないからな」
強火オタクかと言いたくなるくらいの圧を感じる。こんなに白遠への想いを拗らせているとは思わなかった。大伯父の血筋なだけある……。
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