3
桜の蕾が開花しようとしている頃、全寮制の桜河学園の門を潜った。
大伯父に許可を貰ってから決めた学校で、1つ上には従兄弟が通っている。
生徒会に属しているという優秀な従兄弟なので、
「なんで俺がお前の子守りをしなきゃいけないんだよ」
再会した第一声がこれって、どこが安心できるんですかね?
舘端
今日だって大伯父が煩いから会いに来ただけで、嫌々なのは明らかだった。
「そんなに嫌なら断ればいいのに」
「不本意だが、
小さい頃は誉もハクのことは見えていたけど、10歳くらいから見えなくなったという。認識出来なくなった存在であろうと、あの家で育まれた信仰心に揺らぎはないらしい。
態度は悪くても、根が真面目な性格っていうのもあるんだろうけど……。
「最低限の世話はするけど、人前で俺に話しかけるなよ? 面倒だから」
「はいはい」
顔立ちは悪くないのに目付きが悪いので、誉は絡まれやすい。喧嘩を売られたら買うという好戦的な質でもあるため、トラブルは付き物だった。
でも、それを大人には悟られないように立ち回る猫かぶりでもあるので生徒会という生徒の見本になるべきポジションに収まっているし、親族から信頼されているのだ……。
「まだ入寮している生徒は少ない、入学式の3日前までに入ればいいからな。卒業式の次の日に来るとかどんだけ気が早いんだよ……」
「あの何もない町にいてもつまんないもん」
「その言い草は……、白遠様は拗ねてないか?」
今朝のハクの姿を思い出す。
普段通り、特別な声掛けもなく「いってらっしゃい」とだけ言って小さく手を振っていた。
こちらが拍子抜けするくらいあっさりしたもので、気分が楽になったくらいだ。
学校に慣れたら定期的に休日は帰る約束もしているし、大した問題ではないんだろう……。
「大丈夫、大丈夫!」
「……そんな聞き分け良かったか?」
「えっ! 不穏なこと呟かないで」
入寮初日に不安にさせてくるなんて意地が悪い。さっさと案内してもらって解散しよう。
「寮はどこにあるの?」
「正面にあるのが校舎で、左側が女子寮、右側が男子寮になっている」
それなりに歴史のある学校とは聞いていたが、煉瓦造りの建物には貫禄がある。小高い丘の上にぽつんとあるので勉学に集中できる静かな環境も売りらしい。
丘を下りてバスで15分ほど行けば市街地があるそうで、そこでたいていのものは揃うので買い物も困らないそうだ。
「外観はレトロでも、中は数年前にリフォームされていて設備も整っている。狭いが1人に1つ部屋も用意されている」
事前に学校の見学は出来ていないが、学校紹介のパンフレットの写真どおりらしい。
「校舎の地下に売店と食堂があって、寮の地下と繋がっている。利用時間とかは部屋に用意されている冊子を読め。1年が慣れるまでは館内放送も流してくれるからそれを聞いておけばいい。……校舎の中に入ってみるか?」
「入っていいの?」
「禁止はされていないし、
「本音がダダ漏れてる……」
校内は入学後に探索すれば良いだけなので遠慮しておくことにした。
女子寮の入り口付近まで案内してもらい、そこで別れることになったのだが……誉は「忘れていた」と言い出した。
「ん?」
「ここに来るまでの道中で何か見たか?」
「何かって?」
「……そうか、ならいい。お前は視えやすいようだから、この学校出るぞ?」
「……ユーレイ?」
いや、幽霊は見たことがない。
たまーに見るのなら、妖怪と呼べる不可思議なものだろう。明らかに人間や動物ではないものが目の前に現れることがある。
「そっち関係で訳ありの生徒が数人いるみたいで、引き寄せられてるようだ」
「ちょっと待って、なにそれ!」
踵を返して去ろうとしているけど、待って欲しい。腕を掴んだら嫌そうに舌打ちをされた。
見下ろしてくる目付きが……マジで悪いな。
「俺から紹介は出来ないが、困った時は3年の守矢聖良という女子生徒に相談するといい。妖怪に詳しい家系だという話だ」
「モリヤセイラ……」
「相談するとしても、白遠さまのことは伏せておけ。気安く話していいことではない」
そして、「面倒事には巻き込まれるなよ、俺が面倒くさいから」と言い残して誉は去って行った。
どうして入試前に教えてくれなかったのっ!?
……誉に志望校を教えていなかったからか。
日頃の仲の悪さを悔やむ。だからと言って、これからは仲良くしましょう!とはならないが……。
がっくりと肩を落としていると、砂利石を踏む音が聞こえた。
「どうされましたか?」
まだ若い男性の声に顔を上げると、20代半くらいの優しげな人が立っていた。
ベージュカラーのショートマッシュヘアとオフィスカジュアルはこざっぱりとした印象で初々しさを感じさせた。
「何かお困りですか?」
物腰柔らかい話し方をしているのに、なぜか胸がざわついた。……なんだか、怖い。
「えっと、だいじょうぶ……です。今日から入寮で緊張してるのかな。あはは……」
明るい声を作るが、笑顔を見ていると本能が警鐘を鳴らす。何でだろう?
奇妙なものと対峙しているような気持ち悪さを感じる。
「僕はここの教師なんですが、良かったらご一緒しましょうか?」
「先生優しいですね! いや、でも、もう寮の中に入ろうと思うので……大丈夫です。ほら、先生とはいえ、男性が女子寮に入るのは問題あるかもだし……」
「そうですか」
ふと見下ろした足元に違和感の正体に気付いた。声にならない悲鳴を上げ、思わず後退りしてしまう。
――この人、影がない。
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