会社帰りに事故った俺。貴族転生したので今世はのんびり暮らしたい~一難去ってまた一難。いずれ領地開拓に関わりそう~

刀根光太郎

第一章 異世界転生

第1話 木島 異世界へいく

 終電が迫りくる夜。30代後半の男がビルから走って現れた。そのまま駅に直行する。息切れしつつ安心した顔をのぞかせる。電車に乗ることが出来たからだ。


 彼の名は木島きじま悠人ゆうと。久しぶりの帰宅である。この数日間は会社の周辺にカプセルホテルで泊まっていたようだ。


 電車の座席に座ると睡魔が襲う。疲れ切った表情。彼はいわゆるブラック企業に勤めていた。四十分程度で家の最寄り駅に到着する。


 駅を出て夜空を見上げた。空の静かさにしばし見惚れる。彼は家でのんびりと過ごす事を想像し歩き始める。帰宅途中、見渡しの悪く信号がない横断歩道が見えた。道路は車のライトが照らされていた。しかし、疲労もありトラックのライトに気が付かなかった。そして……彼はゆっくりと目を閉じた。



☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡




―――ここはどこだろう?



 気が付くと真っ白い空間にいた。見渡す限り地平線が続く。そんな時、背後から声をかけられた。


「残念ながらお主は死んでしまったのじゃ」


 背後には奇妙な老人がいた。着物姿の清潔な男であった。


「まさか。神様とかそんな感じですか?」

「いかにも。理解が早くて助かる。その様子だと分かっておると思うが、お主はトラップにはねられて死んだ」

「そ、そんな。いきなり皆とお別れってことですか……っそんなことってッ。残酷すぎるッ!!!」


「……はて、みんなとは? 天涯孤独。恋愛経験なし。同僚や上司との仲も険悪。そして25歳以降友人なしとも記載されておるが?」

「…………」


 俺は残酷な事実を突き付けられた。神様はなにか資料のようなもの持ち。頁をペラペラとめくっていた。


(人のプライバシーを。なんて奴だ)


 しかし、悪くはないと思った。これはあれだ。手違いとかで次の人生はイージーモード展開だ。神様のありがたいお言葉を待つとしよう。


――――――


(こやつ。ろくなこと考えてないのぉ。はぁ最近の地球人は……ん? なんじゃとっ、前世からの記憶保持は良いとして。インベントリの所持で転生……あの世界では禁忌魔法のはずじゃが。このような者がなぜッ)


 神と名乗る者はその疑問を解消すべく、資料に隅々まで目を通す。すると涙目になった。


(前世……前々世……もっと前も。無いっ。幸運な人生が一度もッ。なんと……なんと哀れな人間か……)


 神と名乗る者は納得する。それなら仕方ないと。いつの間にか慈悲深い顔になっていた。そうとも知らない木島きじまは間抜けな表情でこちらを見つめていた。


 しかし、それはそれとして悪戯心が芽生える。というよりかはストレス解消である。彼の担当は転生者の対応。何人なんにんもの地球人を様々な異世界に送った。そこで傲慢な人間に幾度いくど遭遇そうぐうしていた。



――――――



 神と名乗る者は何食わぬ顔で言う。


「特典はなしか。まあ妥当じゃな!! それでは異世界に転生させるぞい。今度は魔法が存在する世界。嬉しいじゃろ~」


 このささやかな冗談により、「転生後に実は特典ありました!!」となるだろう。能力の効果などは特に説明義務はないため、教えるかはどうかは担当の気分次第でいい。


「え? なしって? ……無しって意味ですか?」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃ。なぁに。よくあることじゃよ~~。運がなかったと諦めるんじゃな。ふぉっふぉっふぉ」

「なに言ってんですかぁぁ!!!!! 俺みたいな凡人が異世界で生きていけるわけないでしょ!!! なにか良いものくださいよ!!!」


 俺は全身全霊で誠心誠意をみせた。アクロバティック土下座だ。凄まじい精神パワーで地面に顔をめり込ませた。


「潔ぎよいのぅお主……」

「なんでもしますから!!」

「じゃがだめじゃな。お主が清い女性……じゃなかった。清い魂の持ち主なら考えてやっても良かったんじゃがな~。ふぉっふぉっふぉ」


「……!!!?」

(くそっ。ふぉっふぉっふぉじゃないんだよっ。こっちは死活問題だぞ!!)


 俺は灰色になれなかった少ない脳細胞をフル回転させてどうするか考える。たしか神話では女神とかがいたような。もしかしたらいるのかもしれない、か? 俺は一か八か叫んだ。


「奥様!! 神様の奥様はいらっしゃいませんかぁぁぁ!! 浮気についてご相談がありまーす!!!」

「ちょ!! ちょ待お主!! しー!! しぃぃぃ!!!」


「……」

(いる、のか? しかも……してるの?)


 神様は無言で。しかし高速でうんうんと何度なんども頷いた。必死に俺を黙らせようとする。俺は笑う。神も笑う。まるで和解したかのように満面の笑みで。


「奥様ぁぁ!!! 神様がぁぁぁ!!! うわきをぉぉぉ」

「ええい!! やめんか!!」


 神様は一瞬で俺の背後に回り込むと、背中に思いっきり前蹴りを繰り出す。そして突然目の前に黒い穴が空いた。俺はそこに落とされた。


「ふぅ……恐ろしいやつじゃった……」


 神が安心したのも束の間。穴の奥からヌっと手が現れると黒い穴の淵をガシっと力強く掴んだ。その間にも凄まじい不思議な力で黒い穴に引き込まれる。しかし、全身全霊で穴の淵を掴み耐え凌ぐ。


「ひぃ!!」


「奥様!! 神様が浮気を!!!」

「なんという執念ッ。化け物か!! 分かったっ。分かったから静かにせい!!!」

「それでは!!」


「特別な最高最強能力。言語と文字理解をつけてやるわい!!」

「言語、文字理解ですか。あ、喋りながら指を一本一本がすのやめてください」

「そうじゃ。その国の言語は両親の遺伝にもよるが、いずれ話せるじゃろう。じゃが、その力があれば生まれてほやほやでも多言語を理解できるようになる。そして文字も然り。さらに意味が分からなくても問題なし!! 自動翻訳補正機能も搭載じゃ!!」


(本当はデフォルトでついておるがな。ふぉっふぉっふぉ)



「深いお心遣い、超誠にありがとうございます」

「よし。それではとっとと……気を付けて行くのじゃぞ。今世では幸せになるのじゃ~。君指の力つよない?」

「……ところで戦闘面はどうなんですかね? その世界、凶悪な盗賊とか魔物とかいます? 争いはどの頻度で起こりますか?」

「これだけで満足せぬとはなんという強欲……」


 長い説教がくるかもしれない。指が限界なので俺は大きく息を吸い、「お」の口の形を作る。神様は慌てて言う。


「インベントリじゃ!! インベントリをやろう!!」

「インベントリですか?」

「特殊な空間に色々な物を収納できる魔法じゃ。使用するにはまず両手を合わせインベントリと念じてみよ!!」

「はい!!」


 その時、俺は失敗に気が付いた。穴から手を離してしまう。凄まじい力で俺は穴に吸い込まれる。


「しまッ」

「ふぉっふぉっふぉ。その魔法は一般的な魔法よりもマナ消費が多いから気を付けて使うのじゃぞ~!!」

「うわああああああ!!!」



 騒がしい男が消えた事で空間に静寂が戻った。ほっと一息。しかし、神と名乗る男からは冷や汗がでていた。禍々しい気配を感じた。男の背後には美しい女神がいた。ただし激おこである。


「あなた……ちょっとお話が……」

「……さて、庭の手入れでも」


 頑なに背を向けたままで対応した。しかし。


「ちょっと大事なお話があります」

「オーワイゴット……」


―――




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