100の願い~兄と妹の秘密のリスト~

綿貫りりか

二人だけの朝

朝、目覚ましのベルが鳴る前に目を覚ました。


カーテンの隙間から朝の光が差し込んでくる。


お兄ちゃんと二人暮らし。今日から本当に始まるんだ。


私の名前は七原有紗ななはらありさ、高校1年生。お兄ちゃんは二歳年上で名前は七原智希ななはらともき


私がお兄ちゃんに兄妹以上の感情を抱いていることを、お兄ちゃんは知らない。


昨日、両親が海外赴任のために出発した。お兄ちゃんと二人きり。ずっと楽しみにしていたはずなのに、胸がドキドキしている。


私は思わず、枕を抱きしめた。


「よしっ!」


大きく息を吸って、ベッドから飛び起きた。制服に袖を通し、鏡を見ながらリボンを結ぶ。


今日は高校の入学式。お兄ちゃんと同じ高校に通う初日。


期待と緊張を胸に、私はリビングへ向かった。




「お兄ちゃん、おはよ」


「有紗、おはよう。朝ごはん、できてるぞ」


テーブルの上には、トーストとスクランブルエッグ、そしてミルクが並んでいる。


お兄ちゃんは昔から面倒見がよくて、料理も上手。


「うーん、お兄ちゃんの料理、おいしい!」


「これぐらいの簡単な料理、有紗も作れるようにならなきゃ」


「お兄ちゃんが私のために作ってくれるのが嬉しいの」


「ったく、甘えん坊だなぁ」


そうだよ。私、お兄ちゃんに甘えていたいの。


朝食を終えると、支度をして、二人で一緒に玄関を出た。




お兄ちゃんと二人で歩く通学路。


「お兄ちゃんと一緒に登校できるなんて、なんか、夢みたいだなぁ」


「そんなに嬉しいか?」


「うん。これから毎日、一緒に登校しようね」


「一年だけだけどな」


「まぁ、そうだけどさ。特別な一年になりそう」


そうだ。この一年を、お兄ちゃんと一緒に特別なものにしたい。


心地いい春の風が吹く中、私たちは校門をくぐった。


「じゃあ、俺はこっちだから」


「うん、またね!」


私は手を振りながら、1年生が集まる体育館へと向かった。




入学式は、思っていたよりもあっという間に終わった。


新しい制服に身を包んだ生徒たちが並び、校長先生の長い話を聞いたり、新入生代表の子の挨拶を聞いたり。


途中、ちょっと眠くなっちゃったけど……。


それでも、自分が高校生になったんだって実感が少しずつ湧いてきた。


式が終わった後、クラスごとに教室へ移動し、担任の先生の話を聞いたり、自己紹介をしたりした。


高校生活、これからどんなことが待っているんだろう。




入学式を終え帰宅すると、先に帰っていたお兄ちゃんが出迎えてくれた。


「おかえり」


「ただいま。ねぇお兄ちゃん、ちょっと話そ?」


「ん?」


二人でリビングに向かい、隣同士でソファーに座る。


「二人暮らし記念に、やりたいこと100個リスト作ろうよ!」


「なんだそれ?」


「二人で叶えることを書くの。せっかくだから、楽しいこといっぱいしなきゃ!」


私は鞄から新しいノートを取り出して、タイトルを大きく書いた。


『100の願い』


「例えばね……。お互いに、100回大好きって言う!」


「は?なんで?」


「言いたいし、言ってほしいの」


「それじゃまるで恋人同士じゃん」


お兄ちゃんの言葉にドキッとした。


「仲良しなんだから、いいじゃん……」


「それで?他には?」


「じゃあ、一緒にお風呂入ろ!」


「いやいや、却下でしょ」


「えぇー、昔は入ってたのに!」


「昔の話だろ」


「じゃあ、お揃いのパジャマ買う!」


「ふーん、まぁそれくらいはいいかな」


「やったぁ!」


私はノートにペンを走らせる。


「他にも色々やりたいんだよね……」


私がどんどんリストに書き足すのを、智希はあきれ顔で見ていた。


だけど「お兄ちゃんからも何か言って?」とお願いすると、少し考えて、ぽつりと言った。


「有紗がずっと笑ってること」


「え?」


「それが一番だろ」


「……」


そんなこと言われたら、嬉しすぎる。


「もう、お兄ちゃん、大好き!」


私は『100の願い』ノートを胸にギュッと抱きしめた。


「よしよし」


お兄ちゃんは私の頭を軽くぽんぽんと撫でてくれた。




このリストが、私たちの特別な物語の始まりになる──

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