第18話 犯罪奴隷、組立式家具を見なかった事にする

 テーブルの上に薄いタイルを四つ敷きその上に鉄板。

 メイリーンが魔法で加熱。

 その上に軽く塩を振った馬肉をのせた。

 赤い肉がじゅわっと音をたててあぶらを弾かせる。

 肉を焼く音と匂いはどう我慢しようとしても口内に唾液をうみだす。

 美味いも不味いもわからない。ただ肉であるというだけでこみあげる食欲が刺激されるのだ。

 見たことのない美しい肉。

 じりじりと縮んできた肉を串を使ってひっくり返す。

 またジワっ! と美味しい音が響く。


「ねぇ、お嬢さまにもう食べていただきましょ」


 メイリーンがそわそわと俺の腕を揺する。

 肉はしっかり焼くんだよ。

 お嬢の方を見ると深皿にタレを注いでいる最中だった。


「まだだ。ゆするなよ。肉が焦げるぞ」


「え。やだ」


 パッと手をはなすメイリーン。

 おまえはそういう奴か。


「肉のあぶらがテーブルに流れ落ちるの嫌だからパンで囲もう」


 お嬢がそんなことを言う。

 小さいお嬢が鉄板に手を伸ばす前に俺が出したパンでメイリーンが油の流れ先を撫でていく。

 肉とパンの焼ける香ばしい香りが胃を直撃して暴力的だ。

 肉団子スープと野菜を食べていたお嬢はあまり食べれないようだが部位が違うらしい馬肉をとりあえずは食べ「おいしー。おなかいっぱーい」とさほど膨らんでも見えない腹をさすっていた。



 二階の寝室にお嬢が。階段室にメイリーン。俺は食後の片付けも兼ねて玄関か庭に寝る。


 視線から逸らされてきた『本棚』と鑑定された木の板の束。

 一番長さを持つ板でメイリーンより少し低いくらいだろうか?

 本棚?

 家具職人か大工に見せれば組み立て方もわかるのだろうか?

 疑問しかない。


 食事あとを片付け軽く掃除して庭と出入り口を確認してからマントにくるまって寝る。階段室からはメイリーンがごそごそ動いている音。

 少ししてしんと静まった夜の気配が支配する。

 風の音。

 夜警の見回りなのか金属の足音。

 裏の水路を流れる水の音。

 建物の出入り口には金属の鳴子が備えてある。

 メイリーンが魔法結界だと嬉々として術を行使していた。

 鳴子が鳴れば目も覚めるからと、俺の意識は朝へと移る。

 階段室から聞こえる水音という想定外の音で目が覚めた。

 カランと鳴子を鳴らして入った階段室では水桶に水をはるお嬢と、その水の一部を凍らせているメイリーンがいた。


「なにやってんですか。ふたりとも」


「あ。ジェフおはよー。朝ごはんにいいものが出たから冷やして食べよー」


「すぐ冷えるとは思いますけど、お嬢さま、これ加熱する植物ですか?」


「そのままでもいけるんじゃないかなぁ。瓜の仲間だと思うよ?」


『西瓜』(野菜)


『トマト』(野菜)


『枇杷』(木の実)


 緑、赤、黄色。大きさはみごとにばらばら。すべて食用可だった。

 今回のくじ引きは見そびれたらしい。メイリーンが得意げだ。得意げな顔が腹立たしい。

 お嬢が両手で水から抱え上げた西瓜は重いのかしてお嬢の体をふらつかせる。


「ジェフ、切って。食べよ」


 お嬢のおねだりかわいいな。



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