第10話森のヌシ
あるところに幻想の森という深い深い森があった。
噂によると、その奥にはとても恐ろしいヌシが住んでいるとか。
ある夏の暑い日、村一番の力持ち、ポンは森のヌシを退治に行くと言い出した。
「俺は村一番のちから持ち。村一番に力があるというのは、神に祝福されているといことだ。そう、おれは神の子。誰にも負けない。ちょっとヌシを退治してくる」。
ポンはそう村人たちに言い残すと森の奥へと旅立った。
村人たちは呆れてこう噂した。
「ポンは、力は強いが、アホだからなぁ。力をもうちょいいいことに使えばいいのに」。
ポンは森の奥へ、奥へとゆっくりと歩いていく。途中で嫁さんのキヨに作ってもらったおにぎりを食べつつ、ゆっくりゆっくりと歩いていった。
ポンがどんどん歩いていくと、ついに森の奥深くに到達した。
そこで、ポンは大声でヌシを呼んだ。
「森のヌシよ、私はポン、村一番の力持ちだ。いざ、私と勝負せよ。恐れずに堂々と出てこい!」。
その大きな叫び声を聞くと、森の奥でぐーすか寝ていたヌシがぱっちっと目を覚ました。
「ヌシよ〜〜、出てこい!」、ポンがまた叫ぶと、ポンの目の前に緑色の雪だるまのような丸っこいなにかが現れた。
「お前、うるさいなぁ。せっかく私が寝ていたのに〜」。
ヌシは大きな目をパチクりしつつ、ちょっと不機嫌。
でも、ポンはヌシが出てきたことを喜んだ。
「おお、ヌシよ、現れたか。私はポン、あんたに勝負を挑みに来た」。
そう言うとポンは嬉しそう。
ヌシはやれやれという感じで言った。
「私はこの森のヌシ、メメという。お前、本当に無知にもほどがある。このメメの力を知らぬとは」。
メメはそう言うと、ニヤッと笑ったが、どうにも雪だるまのような見た目なので、威厳がない。やはり世の中、見た目も大事なのかも。
ポンは完全にメメの見た目に油断をして、言った。
「あんたこそ、私の実力を知らないとみた。これを受けてみろ」。
と言うと、ダダダダとメメの目の前にポンはかけこんで、メメの雪だるまのような、のほほんとした顔面にパンチを一発お見舞いした。
「ぽよよ〜ん」。
ポンの拳がメメの顔面にめり込んで、文字通り「ぽよよ〜ん」とメメの顔面は変形した。
だが、メメ、「う〜ん、痛くもかゆくもないんだなこれが」と嬉しそうにいう。
変形したメメの顔面は「ぽよよ〜ん」となりつつも、すぐに元の形に戻った。
ポンはあまりにも手応えのないメメの反応に焦ったが、続けてメメの顔面を連打した。
「おりゃおりゃおりゃおりゃ」、ポン、容赦ない。
だが、メメの顔面は「ぽよよ〜ん」と変形しては元に戻る。キリがない。
ポン、もう30分ばかりもメメの顔を連打していたが、さすがにスタミナが尽きてきた。
「あんた、なんなんだ?」。
ポンはこういうと、もうメメの顔面を連打するのを諦めた。確かにキリがないし。
「ポンよ、なかなかにいいパンチだったが、私にはきかないぞ」。
メメはそういうと、嬉しそうにニコッと笑った。
ポンはというと、自分のパンチがこれほどメメに効かないということにショックを受けて、泣きそう。ポン、生まれて初めての挫折である。
「ポンよ、お前が自分の力を試したいというのはわかる。だが、力とはなにかを守るために使うもの。これから村に帰って、村人たちを守るためにその力を使うとよい」。
メメはいかにも森のヌシの言うことのように真理をついた言葉を発した。
ポンはメメの言うことはもっともだと思ったが、このメメ、攻撃が効かないだけで、そんなに強くないのではとちょっと思っていた。
「メメよ、あんたはそもそも攻撃ができるのかい?あんたの攻撃を一度受けてみたいものだなぁ」。ポンは正直なところを言ってみた。
メメはそれを聞くと、ニヤッと笑い、言った。
「お前、全然反省してないな。いいだろう、私の力を見せてやろう」。
と言うと、メメ、「はいっ!」と気合を入れると、メメのお腹のあたりから、腕が伸びてきて、ポンの顔面にパンチを一発食らわした。
ポン、たまらず吹っ飛んだ。
メメは言う。
「私、最強かも〜」。
ポンは村の隅っこまでふっ飛ばされて、ボロボロ。
森のヌシの強さを痛いほど味わったのであった。
それからというもの、ポンは自分の力を自慢しなくなった。
そして嫁のキヨとともに、田畑を耕し、静かに暮らしたとか。
メメはというと、村人たちにますます恐れられて、森の奥には誰も来なくなった。
「いや〜、誰も来ないというのも、それはそれでさみしいかも〜」、とメメはちょっと愚痴ったとか。
「ああ、またアホなヤツ来ないかなぁ」というメメのつぶやきが山奥にこだまする。
世の中、力がありすぎるというのも孤独なものだな。
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