第15話:授業後の議論と新たな疑問

魔法哲学の授業後、私とアリアはいつものように図書館で教授の話について議論していた。


「グレイ教授の授業は本当に考えさせられますね。他の授業とは全然違います」とアリアは言った。


「そうですね。魔素計算では数字しか扱いませんが、教授は人間の心について語ってくれます」


私たちは教授の言葉を反芻していた。


「真の自己は他者との関係の中に存在する」という洞察は、特に印象深かった。


「でも」とアリアは少し困った顔をした。


「教授の話は深すぎて、時々わからなくなります。『世界との対話』って、具体的には何をすることなのでしょう?」


私も同じ疑問を抱いていた。


教授の言葉は示唆に富んでいるが、実践的な解決策は示してくれない。まるで禅問答のようでもある。


「実際に魔法を使う時、どうやって『世界と対話』すればいいのでしょうね」


その時、マルクスが近づいてきた。


「君たち、まだグレイ教授の話をしているのか?」


「ええ、でもよくわからないことが多くて」と私は答えた。


マルクスは苦笑いした。


「それが普通だよ。あの教授の話を完全に理解している学生なんていない」


「でも先輩方は...」


「先輩たちも同じさ。四年間あの授業を受けても、結局答えは見つからない。ただ、疑問が増えるだけだ」とマルクスは言った。


これは困った話であった。学問とは答えを見つけるためのものではないのだろうか。


「でも」とアリアは反論した。


「疑問を持つこと自体に意味があるのかもしれません」


「どういう意味ですか?」


「以前の私は、魔法理論を暗記することが勉強だと思っていました。でも教授の授業を受けてから、なぜ魔法を学ぶのか、魔法とは何なのかを考えるようになりました」


確かにその通りであった。


グレイ教授の授業を受ける前の私は、ただ魔法使いになりたいという漠然とした憧れしか持っていなかった。


しかし今では、魔法の本質について深く考えるようになっている。


「つまり、答えを得ることより、正しい疑問を持つことの方が重要ということでしょうか」と私は言った。


「その通りだ」


突然後ろから声がした。振り返ると、グレイ教授が立っている。


「教授、いつから...」


「今しがた通りかかったのだが、興味深い議論をしていたようだな」と教授は微笑んだ。


教授は我々の隣に座った。


「君たちの疑問は正しい方向を向いている。学問の目的は答えを得ることではなく、より良い疑問を見つけることなのだ」


「より良い疑問、ですか?」


「そうだ。『魔法とは何か』という疑問は、『どうやって強い魔法を使うか』という疑問より遥かに価値がある」


私は納得した。確かに最初の疑問は本質的で、後者は表面的である。


その時、教授は私たちに意外な提案をした。


「来週から、君たちだけの特別セミナーを開こうと思うのだが、どうかね?」


「特別セミナー?」


「通常の授業では扱えない、より高度な哲学的問題について議論する場だ」と教授は説明した。「興味があれば参加したまえ」


私とアリアは顔を見合わせた。


確かに魅力的な提案だが、ただでさえ忙しい学業にさらに負担を加えることになる。


「時間は夜間だ」と教授は付け加えた。


「月に一度、満月の夜に行う」


満月の夜...それは記憶増強薬を飲んだ忌まわしい夜でもある。


「なぜ満月の夜なのですか?」と私は尋ねた。


教授は意味深に微笑んだ。


「満月の夜は、人間の直感力が最も鋭くなる時だ。理性だけでは解けない問題について考えるには最適だろう」


マルクスが横から口を挟んだ。


「教授、それって例の『魔導河伝説』と関係があるんですか?」


教授の表情が変わった。


「ほう、君たちは魔導河の伝説を知っているのか?」


私とアリアは驚いた。まさか教授も魔導河の秘密について知っているのだろうか。


「つまるところ...この学院には我々の知らない深い秘密がまだまだあるということなのだろうか」と私は呟いた。



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