第13話:哲学的問答と内省の迷路
一週間後、私は依然としてグレイ教授の格言について答えを見つけられずにいた。
「力を求める者は力を失い、理解を求める者は力を得る」
この言葉を何度繰り返しても、その真意が掴めない。アリアと図書館で議論してみても、明確な結論には至らなかった。
「もしかすると」とアリアは提案した。
「記憶増強薬の件が関係しているのではないでしょうか?」
「どういう意味ですか?」
「あなたは魔法の力を求めて薬に頼った結果、記憶を失いました。これはまさに『力を求める者は力を失う』の実例かもしれません」
私はなるほどと思った。確かにスカーンの薬は力を求めた結果の失敗であった。
「では、『理解を求める者は力を得る』の方はどうでしょう?」
「それは...」とアリアは考え込んだ。
「私たちが図書館で勉強している時のことかもしれません。魔法の仕組みを理解しようとすることで、実際に魔法が使えるようになる」
しかし、それだけでは何か物足りない気がした。もっと深い意味があるような気がするのである。
――― 魔法哲学の授業で、グレイ教授は我々の考察を聞いた後、興味深そうに頷いた。
「君たちは良い線を行っている」と教授は言った。「しかし、まだ表面的だ。もっと本質的な問題がある」
「本質的な問題、ですか?」
「そうだ。君たちは魔法を学んでいるが、なぜ魔法を学ぶのかね?」
私は答えた。「魔法使いになるためです」
「では、なぜ魔法使いになりたいのかね?」
「それは...人の役に立つためです」
「ほう、では君は現在、人の役に立っているかね?」
私は困惑した。「いえ、まだ学生ですから...」
「つまり、君は将来のために現在を犠牲にしているということになる」と教授は言った。
この指摘は痛いところを突かれた。
確かに私は「いつか立派な魔法使いになる」ことばかり考えて、今この瞬間の価値を見落としているかもしれない。
「教授」とアリアが手を上げた。
「では、現在を大切にするというのが答えなのでしょうか?」
「それも一つの視点だ。しかし、より重要なのは、君たちが何のために力を求めているかということだ」と教授は答えた。
教授は黒板に図を描き始めた。
中心に「自我」があり、そこから「力」「名声」「承認」などの矢印が外に向かって伸びている。
「多くの者は、自分のために力を求める。しかし、それは結局、自分を孤立させる道である」
次に教授は別の図を描いた。今度は「他者」「世界」「真理」に向かって矢印が伸びている。
「理解を求める者は、自分を超えたものに向かう。その結果、逆説的に真の力を得るのだ」
授業後、私は一人で考え込んでいた。教授の話は深すぎて、正直よくわからない部分もある。
そんな私に、マルクスが声をかけてきた。
「グレイ教授の授業、受けたのか?」
「ええ、でも難しくて...」
「あの教授はね、学院で一番人気のない授業を担当してるんだ」とマルクスは苦笑いした。
「人気がない?でも内容は興味深いですよ」
「そこが問題なんだ」とマルクスは説明した。
「あの授業を受けると、他の授業がつまらなく感じるようになる。魔素計算や古代魔法語が、急に意味のない作業に思えてくるんだ」
私は驚いた。「それは...」
「実際、去年あの授業を受けた先輩の半分は、魔法学院を辞めてしまった」とマルクスは続けた。
「哲学にはまりすぎて、実用的な魔法が学べなくなったらしい」
私は複雑な気分になった。確かにグレイ教授の授業は魅力的だが、それが学業の妨げになるとしたら...
「つまるところ...知識もまた諸刃の剣ということか」と私は呟いた。
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