第5話 手代への昇進

ある日、男は番頭の部屋に呼ばれた。


かつては震え上がる場面だったが、今の男は別人だった。竹皮をさすりながら、胸を張って部屋へ入った。


番頭は笑いながら言った。


「何がお前を変えたんだ? その貫禄は小僧のものじゃない。今までご苦労だった。今日から手代として働いてもらう。」


男は予期せぬ言葉に目頭を熱くし、道祖神の言葉を思い出した。


小判とは例えに過ぎず、認められることこそが報われることなのだと悟った。涙が頬を伝った。


そこへ手代頭の松吉が現れ、「私のことは兄貴と思え」と気さくに言った。


男は救われ、松吉に頭を下げた。松吉は男に商売のいろはを教えると約束し、さらに言った。


「お前が女中頭に物申したのは、私がすべきだったことだ。波風立てず問題を解決した。お前のおかげで長年の悩みが消えた。感謝してるよ。」


男は驚き、「ただ無我夢中だっただけです」と答えた。


松吉は笑い、「狐にでも憑かれたか? お前の人変わりは店で評判だ。そんな狐なら俺も憑かれたいよ」と冗談を言い、去っていった。

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