2二ャ:猫たちと私の日常


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ネネねココこ

ep.2 2二ャ:猫たちと私の日常

掲載日:2025年07月26日 21時52分

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朝の支度をしていると、視界の端に、まるっとした影がぬるりとすべり込んできた。




「……ん?」




振り返る前に、ふにゃりとした何かが足に当たる。やわらかくて、あったかくて――しかも重い。




見なくてもわかる。みーたんだ。




「おはよう、みーたん。今日も元気ね〜」




「みゃっ!」




まるで「まかせてにゃ!」とでも言うような声。元気いっぱいに鳴いて、トテトテとキッチンまで私のあとを追いかけてくる。




私の足の間を……器用にすり抜けている、つもりなのかもしれないけど、


現実にはぽよぽよのお腹で、ぼこぼこ当たってる。




そのお腹、また……ちょっと大きくなったような……?


いや、うん。気のせい……かもしれない。


――言えないけど。




「だめよ。まだ朝ごはんには早いの」




そう言うと、みーたんはその場でくるりと回って、ごろんと床に寝転がった。


ふわふわの腹毛をこれでもかと見せつけてくる。




ころん。ぽよん。……おもち、か?




「……あ〜〜〜もう、かわいい〜〜〜〜っ!」




負けた。完敗である。


つい誘惑に負けて、お腹をワシワシ撫でてしまう。




ゴロゴロゴロ……と喉を鳴らしていたかと思えば、突然ガジガジと甘噛みしてくる。




……嫌なの? それとも、うれしいの? どっち?


でもそのツンデレ加減も、やっぱり、ずるい。




***




夕方、玄関の鍵を回すと、ドアの向こうからかすかに「トットット」っと足音が聞こえる。




ドアを開けた瞬間――ぬんっ! とみーたん登場。


ころころの体で、お出迎え。




私がまだ靴を脱ぎかけてる最中だというのに、もふっと足の間に身体をねじ込んでくる。


暖かくて、重くて、くすぐったい。




「ただいま、みーたん」




「みゃあ!」




ちゃんとお返事。えらい。




けれどそのあと、当然のように私の前を歩き出して、振り返る。




……そのまま、キッチンへ。


どうやら、晩ごはんの時間が近いことは、完璧に覚えているらしい。




「はいはい、まずはツンたちにもただいま、ね」




みーたんは「しかたないにゃ」とでも言いたげに、ふるふるとしっぽを揺らしてソファへ。


そこには、いつものように香箱座りで目を細めていたツンがいた。




するりと近づいて、ちょこんとすり寄った、その瞬間――




バシッ。




「シャーッ!!」




「みゃっ!?」




……また怒られてる。




それでも、次の日も、またその次の日も、みーたんは懲りずにツンに突撃していく。




「ほんと、懲りないよねえ……でも、えらいよ」




でも、ときどき、ソファの陰でしょんぼりしてる姿を見ると……ずるい。


なでなでして、なぐさめてしまう私の負け。




***




夜。布団に入った私の上に、ドン、と乗ってくるおもち(みーたん)。




「……重いよ、みーたん」




体温と重さに包まれて、息をのむほど温かい。




それでも、ふみふみ。


まるで、生地をこねるようなリズムで、私のお腹をふみふみ。




「甘えんぼちゃんだねぇ……」




「みゃあ……」




満足そうな、まんまるな目。




みーたんがいるだけで、今日の疲れがじんわりとほどけていく。




ほんとに、今日も全力でかわいかったよ。


みーたん、ありがとう。




***




朝、目を覚ますと、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。


その細い光の帯の中に、すっと座っているしなやかな影がある。




窓辺にいるのは、ツン。




「……また、そこにいるのね」




名前の通り、彼女はいつもツンとしていて、勝手気まま。


呼んだからといって振り向くこともなければ、甘えた声で近づいてくることもない。


でも。


逆光に透ける輪郭をなぞるように、フワッとした長毛が光をまとって揺れている。


キッとつり上がった目尻に、氷を溶かしたような淡い青の瞳。


すっと伸びた首筋、何かを見つめるときの緊張感――。


その横顔は、ときどきドキッとするくらい、綺麗だ。


ふわふわのしっぽを静かに揺らしながら、真剣な目で外を見つめている。


朝の静けさと相まって、まるで美術館の一角に飾られた彫刻みたい。


「鳥さんでもいたの?」


問いかけには、もちろん返事なんてない。


けれど、しっぽの先がぴくんとひとつ跳ねた。


ふふ、聞こえてる。



***



ツンは、ごはんを「もらう」ことはしない。「いただく」のだ。


こちらが準備を整え、器も清潔にし、所定の位置にぴたりと置いて――ようやく彼女は、静かに歩いてくる。


まるで「よろしい、ではいただきましょう」とでも言うように。


気分じゃないときは、わざわざ皿の前まで来て、無言で見つめるだけ。


それから、くるりときびすを返して、音もなく立ち去る。


食事中に話しかけたり、物音を立てようものなら、彼女のテンションは一気に冷却されてしまう。


「……気に入らなかった?」


「……にゃ。」


短く、小さく、気まぐれな声。


ああもう、わかりやすいようでわかりにくい子!


***



仕事から帰ってきても、ツンは玄関には来ない。


私がリビングのドアを開けると、ようやく奥の棚の上からちらりと視線を向け、それからまた目を閉じる。


「おかえり」なんて言葉は、もちろんない。


それでも、視線が合った瞬間の、あの一瞬の間が――私には、ちょっとだけ嬉しい。


でも、たまに――ほんのたまに。


私が少し落ち込んでいたり、元気がなかったりすると。


ふわりとベッドに乗ってきて、私の枕元で丸くなる。


その瞬間、私は胸の奥をきゅっと掴まれる。


「……気づいてたんだね」


声に出しても、もちろん返事はない。


けれど、ふわふわのしっぽが、そっと私の手に触れる。


まるで「そばにいるわよ」と告げるように。


それが、ツンなりの優しさ。


ツンは、女王様。気まぐれで、プライド高くて、それでいて、誰よりも繊細。


まっすぐに愛をぶつけるわけじゃない。


でも、確かにそこにいて、私を見てくれている。


そんなツンの距離感に、私はいつも翻弄されてばかり。


でもそれが――たまらなく、好きなのだ。


***


サバ太は、名前に「太」がついているけれど、れっきとした女の子。


けれど、その名に恥じない――いや、名前すら追い越してしまいそうな――立派すぎる体格の持ち主だ。


かつてはくっきりしていたサバトラ模様も、今では横にのびのびと広がって、まるで抽象画みたいにふんわりぼやけてきた。


むちむち、どてん。寝そべると、まるで湯たんぽのような暖かさと丸みで、冬場はまさに最強の癒しアイテム。……ただし、決してお腹は触らせてくれない。うっかり手を伸ばそうものなら、ばしっ!と猫パンチが飛んでくる。


その体に似合わず、顔だけはびっくりするくらい小さくて、まるで「猫の着ぐるみ」の中に、小顔の精霊でも入っているかのよう。


しかも、口元からはいつもちょろんと舌が出ている。ほんの少し、下の歯の間からピンク色の舌が顔を出す。それがもう――反則級にかわいい。


「ただいま」と声をかけると、サバ太はのそり、のそりとやってくる。


ドタ、ドタ……と床を揺らすような足音は、もはや猫のものではない。踏みしめながら歩いてくるその様子は、どこかマイペースな小さな相撲取り。


カーペットに爪が引っかかって、よろめいた拍子にごろんと転がることもあるけれど、すぐに何事もなかったかのように立ち上がって「ナァッ!」と鳴く。照れ隠しみたいに足元にすり寄ってきて、顔をうずめてくる。


――もちろん、そのときも舌はしっかり出っぱなし。


***


サバ太は神経質だけど、ちょっとドジっ子。


音には敏感で、少しの気配にもピクリと反応するくせに、私が真後ろに近づくと気づかずにビクッ!と飛び跳ねる。


抱っこしようとすると、どっしりとした重さが腕にずっしりのしかかってくる。前足をちょこんと揃えて、お腹はぷよんと前に突き出たそのフォルムは、まるで招きだるま。


「ぅう〜〜」と低く不満げな声を漏らしながらも、実はまんざらでもない顔をしているのが、またずるい。


***


夜になると、サバ太は私のベッドをじっと見つめる。うずうず、そわそわ、しっぽが左右に揺れて、よし!とばかりにベッドに飛び乗る。


着地点は――大体、お腹の上。


ずんっ。


まるで地響きのような衝撃が走って、思わず「うっ」と声が漏れる。


そしてベッドの上をのしのし歩いて、お腹に足をめり込ませながら「ここかな?いや、やっぱりここ?」とポジションを探す。


お願いだから、早く落ち着いて……。


ようやく丸まって寝ると、顔を埋めてぐぅぐぅ。舌はいつものようにぺろりと出たまま。


「ナッ……ナッ……」と寝言をもらしながら、どんな夢を見てるんだろう。


ごわごわとした毛並みは撫で応えがあって、耳の後ろを揉んでやると、目を細めて「もっと」と催促するように体を預けてくる。


「サバちゃん、ずるいなぁ。そんなに可愛くて」


返事はないけれど、喉の奥から「ゴロゴロ……」と幸せな音が返ってくる。


***


ちょっぴりドジで、どっしり重たい、甘え上手な恥ずかしがり屋。


それが、サバ太という猫。


私は、そんなサバ太の全部が――どうしようもなく、愛おしいのだ。


***


私は、三匹の猫と暮らしている。


というより、猫たちのおかげで、今日もちゃんと暮らせている――そう言った方が、たぶん正しい。


朝は、ツンが「起きて」と頭を叩く。みーたんは枕のど真ん中で丸くなり、私はいつも端の方でひっそり眠る。サバ太はといえば、私のお腹にどすんと寝そべっていて、目覚めたときにはすでに圧がすごい。


そんな日常の中で、私は毎日、せっせとごはんを用意し、トイレを掃除し、お水を新しくして回る。猫たちが快適に過ごせるように、そっと毛布を整えたり、陽の当たる場所を開けておいたりする。


ふふ、なんだかまるで、小さな女王さまたちに仕える侍女みたいだ。


お仕事から帰ってくると、三匹が順番に「おかえり」をしてくれる。ツンはちょっとすました顔で、みーたんはお腹を見せてごろん、サバ太はどたばたと走ってきて、盛大に転ぶ。


その一連の騒がしさに、私は毎日、きゅうっと胸を掴まれてしまう。


きっと私は、この子たちに甘やかされて生きているのだと思う。


疲れて帰った日も、泣きたくなる夜も、猫の寝息に耳をすませているうちに、いつの間にか心がほどけていく。


猫と暮らすということは、静かで穏やかな、だけど毎日ちょっぴりにぎやかな幸せの中で生きること。


そんなふうに、今日も私は、猫たちに育てられながら、大人になっていく。

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