第3話
日誌を出して、軽音部へ顔を出したが海音の姿はなかった。先輩へ聞いても来ていないとのこと。
(いつもなら私より先に来ているのに)はぁとため息をついて、私は先輩達に今後について話すことにした。
曲へのアドバイスも嬉しかったし、このまま音楽を続けたい気持ちも強かったけど、前のテストでいい成績を取れなかったことや、あれから出したオリジナル曲もカバー曲も鳴かず飛ばずだったこと。
「……才能、ないしもう辞めようとは思っていたんです」パイプ椅子に座って、スカートの裾を握る。
先輩たちの顔は見れなかった、出会って少ししか経ってないし、海音を通じてでしか知り合うことしかできなかったけど。
「音楽以外やりたいことあんの?」紫月先輩がお菓子を食べながら言う。
「まだ、考えてないですしこれから他のオープンキャンパスとか見て、いい所あれば進学したいですし」「でも、顔はどれにも納得してないって顔してる」先輩は痛いところを突く。
確かに親の言うことも、成績も、自分の音楽への姿勢も【納得はしていない】
でも、【どこかで区切りはつけるべき】だと私は高校生になって、どれも伸びないモノに手を伸ばすことに限界を感じていた。
先輩達から私は結局どんな言葉が欲しかったのか、アドバイスもせっかく貰った曲も少し伸びたけど私の理想が高いのか納得できなかった。
【もっと高みへ】自然と思うようになっていたのかもしれない、周りとの差は歴然だ。
焦りなのかもしれない、ぐるぐるとした考えが頭をよぎっては消えるを繰り返す。
「……もう少し、考えてみてはどうでしょう」めい先輩は言う。十分考えた結果だけど、また考えないといけないのとは先輩には言えない。
「……はい」私は返事を返すことしかできなかった、黙っていたゆかり先輩も口を開く。
「このことって、海音には伝えているの?」「え?」
彼女の言葉に先輩二人は私の顔を見る、私は慌てて変な声が出る。
「な、なんで海音に教えてあげないといけないんですか……別に私のことですし……」「海音が1番のファンだって知ってるなら尚更じゃない?教えてあげた方がいい気がする。」「いや、でも言わなくていいこともあるといいますか……その……」私はそこまでする必要かと慌てているとゆかり先輩は続ける。
「教えないで後悔するより、教えて後悔した方が後腐れないかなって思ったんだけど、まあそこは零ちゃんが決めればいいし」「ゆかりちゃん、そんな風に言わなくても」めい先輩に宥められても、ゆかり先輩は止まらなかった。
「海音は、病気なんだよ」「……は?」私だけ、時間が止まった。
海音が、病気……?
信じ難いことだった、SNSにもいつもいるし学校にも来ているし。
「……治療してから学校来ているか、学校行ってから治療してるの」ゆかり先輩の言葉で私はハッとした。
綺麗な机に、置き勉はしないと言っていたことも、変な時間に帰ることも。
「全部……治療のためですか?」私が先輩に聞くと、彼女は縦に首を振った。
「私と海音と紫月は幼なじみ、ずっと妹が出来たみたいで嬉しかった、小5の時に発症してそれからずっと入退院を繰り返している、私と紫月が音楽を始めたのもそれがきっかけだし、海音の音楽好きも長い入院も関係ある」初めて聞く話に私はついていけなかった。
明るい彼女は戦っていた、体が内側から破壊されながら彼女は人生という舞台で明るく振る舞い続けている。
私はそれを照らす明かりだったのかもしれない、先輩達の音楽もそこへ混ざるなら私はほんの少しの光だったかもしれない。いくつもあるスポットライトの一つかもしれない。
でも、それを私が自分で消そうとしている、彼女の希望を私が勝手な理由で消そうとしている。
「海音が初めて見せてきた動画の中の零ちゃんを見て、私と紫月は嫉妬した、こんなに近くで音楽をやっているのに顔も知らない人の音楽が好きなんだって」自分たちじゃだめだったんだって気づいたと零す先輩に私はかける言葉もなかった。
「だから、さこの話はちゃんと海音にもしてあげて欲しいんだ」ゆかり先輩は縋るような目で私を見つめてきた。紫月先輩もめい先輩も頷いている。
「海音のことだから、多分無理強いはしないだろうけど今度の学祭で私たち軽音部のステージあることは知っているんだけど、もし話が出たらのってあげるかハナから無視して諦めさせてあげて」そうじゃないとあの子、ずっとなんで零ちゃんをステージに上げなかったのか喚くはずだからと彼女は困ったように笑った。
そういえば、海音とは一緒に帰ったことは無いなと帰路に着きながら私は思った。
夕暮れの中、自転車を押しながら歩いていると私の隣をゆっくりと見慣れない車が付いてくる。
そういや、最近不審な車の話が出ていたっけと思い歩く速度をあげると、車の窓がウィィと下がって。聞き覚えのある声が聞こえた。
「零ちゃん!今帰りですか?」海音だった。私は思わず立ち止まった。
運転席は海音のお母さんだろうか、私と目が合って会釈をする。
助手席に座る彼女はこの季節と反してブランケットを羽織って居た。
「海音も今から帰り?」「はい!えっと……その……」「言わなくていいよ、私に知られたくないこともあるでしょ」笑って言ったつもりだけど上手く言えたかな。
「……うん、知られたくないです」「じゃあいいよ、お母さんにも迷惑かけてるし、私そろそろ行くね」私はまた、海音のお母さんにお辞儀をするとハンドルを握って彼女の母はまた会釈をして窓が開いたまま私を追い越していった。
私は、深まる夕暮れの中をいつもより時間をかけて家に帰った。
【ちゅら】、【海音】のためにSNSでライブをしようかと思ったけど、彼女は触れられたくないところを多分私に見られたと思っているはずだから、それは触れない方がいいかなと思って私は普通にご飯を食べて、宿題もして、またオリジナル曲を作り始めた。
【これが最後だとしたら?】先輩の話を聞いて、作業の手が止まる。
私の音楽も、私が音楽を辞めたら海音が生きる意味を失ったら?
ぼんやり考えていた、【最後にしよう】について深く考えるようになった。
「……最後にしよう」モニターの前で私はずっと考える。
ジャズ調?私や海音が好きなロキノン系?それとも先輩達のロックやメタル系?それとも流行り調?
「最後にするならどんな曲がいいんだろう」
本当は高校卒業と同時に上がるように今は音楽を作っている途中で、そこに海音の話が出てきてしまったから。構成から練り直しにしたのだ。
「ロックやメタル系は多分学校祭でやるはずだし……じゃあロキノン系……?EDMは確か私も海音もあんまり詳しくないけど……」うーんと唸りながら、モニターに佇む夜を送り空が白くなり始めたら少し寝るの繰り返しをしていた。
そんな生活をしていたら、倒れるに決まっている。
案の定、私は体育の時にぶっ倒れた。
目を覚ましたら、保健室の天井とそれを覗き込む海音が居た。
「うわあああ」私が大きな声を出したことでシャッとカーテンが開けられる。「あら、安達さん起きたのね」寝不足はダメよちゃんと寝ないと、保健医は優しくそう言う。私の隣に座っていた海音にも目をやり、「あら、中園さんは隣のベッドに居なきゃダメよ、熱あるんだから」と優しく声をかける。
「熱……?」私がそう聞くと海音はあーあー!と遮る。
「ち、知恵熱です!知恵熱!久しぶりに補習を受けていて、数学分からなくて……」そう言う彼女の顔を覗き込むと、「うわぁ!」今度は彼女が声をあげた。
「ね、熱上がるからやめて欲しいです!」「はは、数学どんだけ苦手なの」「片手三本に収まるくらいです」うーんうーんと唸りながら彼女はピンッと三本、指を立てて私に見せる。
「数学くらいなら教えられるけど」「え?!」「ホントホント、転校してくる前も今も数学は成績いいし、だけど文系がダメ」「わぁ、私と真逆……」「何、その顔」文系がダメで何が悪いのさと私が言うと、彼女は意外だからと笑った。
「だって、オリジナル曲の歌詞もあれだけ語彙がすごいのに……文系が苦手なの意外で」「別に……歌詞は調べたらそれっぽい言葉出てくるでしょ」私が照れ隠しでそう返すと、彼女は羨ましいなぁと呟いた。
もうすぐ、夏だ。保健室に入ってくる風もどこかそんな匂いがする。
窓を背に座っていた海音の髪が揺れる、私には出せない雰囲気だった。
「……海音さぁ」「うん?」「今度……調子いい時でいいよ、空いてる日あったらさ、海行こうよ」私がそう言うと彼女はふむと一度考えるフリをして、「いいですよ!」と答えた。「考える意味無さすぎ、体調悪かったら朝連絡くれたらいいし」「いーや!悪くても行く!零ちゃんのお誘いだから!」「だから、悪いなら来なくていいんだってば」私たちは、保健医にバレない程度の声で言い合ってお互いを小突き合う。
それが楽しかった、教室にいたら私は見世物で彼女はお触り禁止な雰囲気で、私たちにとって息苦しい水槽のようだったから。
ここは、保健医しかいない。
でも、彼女は熱が出ているから本当に静かに静かに会話を続けた。
昨日は声掛けてごめんから、あれから車の中で自分はずっとテンションが上がっちゃってお母さんからはしゃぐのはやめなさいって言われたと彼女は照れくさそうに笑う。
私も昨日のことを話そうとしたけど、どうしようか迷って。オリジナル曲をまた作っているという話にすり替えた。
やはり、彼女は食いついてきた。
「いつ、公開するんですか?」「んー、未定……予定狂ったから」「えー、何月とかぼんやりしたのでいいから教えてください!」「……3月とか?」必死に悟られないように答えると、彼女の表情は一瞬強ばったように見えたけど、またパッと笑顔を作って。
「3月かぁ、3月なら卒業ソングとかですか?」「それも秘密、楽しみにしときなよ」「えー、わかった……楽しみに生きマース」私はジャンルも何も彼女に教えなかった。
そして、3月に彼女の顔が強ばったのを私は見逃さなかった。
私はゆっくり、彼女の目を見る。
聞こう、私の最後に海音は耐えられるか。
あなたのステージから私が居なくなることを。
「海音、大事な話があるの」私の声のトーンに海音も真剣な顔になる。
「私、高校卒業したら音楽を辞めようと思うの」
「え……」
私が握る彼女の手が小刻みに震える、私はそれを包むように握り返す。
「伸びないし、才能ないなってずっと思っていたの」
「だから、もう夢を見るのをやめる」
私が続けて言うと、彼女の瞳からぼたぼたと涙がこぼれ落ちていた。
しゃくりあげるように彼女は泣く、「だ、め……だめです、やめるなんていわないで……nullちゃんは……音楽を続けて……やめないで……」こうなるって分かっていたはずなのに私は結局、彼女にこの結論を伝えてしまった。
私に手を握られたまま、彼女は言う。
「お、お願いが……あって……む、無理ならいいです」「うん」どんなお願いが来るか、私は予想済みだから、答えは決まっている。
彼女は言うか迷いながら、おもちゃを買って貰えるように駄々をこねる子供のようにお願いをしてきた。
「け、軽音部の……先輩たちの……ボーカルに零ちゃんに出て欲しくて……で、でも辞めるなら……」「いいよ、出る」私のあっさりした答えに彼女はピタッと一瞬動きを止めた。
「……へ?」「出るよ、学祭」「い、いいの……や、めるって」「そんなすぐじゃないよ、卒業したらって言ったじゃん」そう言うと海音はゔわあああと言いながら私にしがみついてきた。
「か、勘違いしたじゃないですか……ひ、ひどい……こんなに泣いて……バカみたいじゃないですか……!」「はは、泣きすぎだって……ごめんって……でも、卒業まで私のことを見守っていてね、約束」私は海音を慰めながら、小指を彼女の前に差し出す。
「ん、約束……卒業まで見守る……約束する……」「学祭中でもいいけど、後でもいいけど新曲のタイトルさ、海音に考えて欲しくて」「え?」「サブ曲は私が考えるから、タイトル曲のタイトルは海音に考えてもらおうかなぁって」「な、なんで」「だって、私の一番のファンだから、それくらいの特権……あってもいいでしょ?」私は彼女の小指を握り返して笑う。
彼女は嬉しかったのか泣きながら彼女も私の小指を握り返した。
それから、お互い学校祭の準備で忙しくなってきた。
なんと、彼女は学校祭の実行委員に立候補したそれでも何とか学校に来ている状態で、準備までは学校にいることができても、私たち軽音部の練習までいることが出来なくなってきていた。
それでも、無理やりにでも来ようとする彼女を先輩達があの手この手で帰そうとしているのを見て私は笑っていたが、海音が助けて零ちゃん!というと私は彼女と一緒に先輩たちに混ざって返すフリをして彼女と学校を抜け出したりしていた。
一緒に帰ることがないなぁと思っていた通学路を二人で通る、青い空、白い雲。
二人で買ったアイスを食べながら道を歩いていると、ちょうど手前を歩く海音と青空と入道雲、それを突っ切る飛行機雲が綺麗で私は必然的に声をかけていた。
「海音、止まって」私の声に彼女は止まる。
夏の陽射しにも負けないくらい明るい笑顔、こんなに暑いのにずっとカーディガンを着ているのは点滴の跡を隠すため、先輩達から聞いたことで。
私は準備中に綺麗に写っている海音を残そうとスマホで写真を撮り始めた。
こうしたら、また会える気がして。
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