ライトオフ、ステージアップガール
なつろろ
第1話
初めて誰かのために歌い続けたいと思った。「辞める」なんて言わなきゃ良かった。そうしたら、あなたの居場所を私は作れたのかもしれない。
「ありがとうございました」頭を下げる私へ贈られる賞賛の声、割れんばかりの拍手と、皆が掲げるスマホのライトの中、私は体育館の後ろに控えめに車椅子に座って私に「サイコー!」と叫ぶ彼女の姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。
安達
null《ヌル》という歌い手のようなシンガーソングライターぶって、カバー曲やオリジナル曲を中学生からネットに投稿していた、ある歌ってみた動画がバズり、一躍はあの曲と言えば、nullと言われていたくらいで私は勘違いをしていた。
(これくらい、動画がバズったんだからオリジナル曲を作って歌って投稿したら……)
なんという、軽い気持ちで作詞や親に頼み込んで機材を買ってもらったり、私はなんとなくでネットの海で歌をただ投げる高校生へと成長を遂げていた。
バズった動画は、当たり前だが有名なバンドの有名な曲で他の人もカバーを上げていた、私の代表とも言えるそのカバー曲も今も私の動画投稿サイトチャンネルの頭を張っている。
だが、数字は高止まりしているしオリジナル曲は鳴かず飛ばずで、親にお金を出してもらった機材は出世払いで親に返す気持ちで買ってもらったし、最近の食卓の話題もそればかりだ。
結果が出ないならやめなさいと両親はそう言う、でも私は絶対に音楽で食べていきたいと反論していつも動画投稿サイトの再生数を見せて、少し伸びたでしょと言い訳していた、だがそれも通用しなくなってきた。
「……成績にも響いてきているだろう」ある晩の食卓を囲んで晩御飯を食べていたが、父が口を開く。
私は、なんだか居心地が悪くなって茶碗と箸を置いて父を見る。
「……お母さんから聞いたの?」私の問いに父は軽く頷く、母もそれを見て「零、悪いことは言わないから今のうちに進路を変えるのも」と言うが私は意固地になって。
「だから、毎回言ってるじゃんネットではぼちぼちオリジナル曲も聞かれてるんだってば、数字取れてはいないけど、今日も一応チャンネル登録者増えたし」「どのくらいだ」「……4月より、2人だけ増えた」
父の低い声に私は正直に答えると、父も箸を置いて私の方を見る、「零、いい加減にしなさい……あの機材だって安くなかったんだぞ、出世払いするなんて大口を叩いたんだから結果を出せ」「そんなこと言ったって……」「たった2人増えただけで喜ぶだけでいいのか?ネットでしかも歌で食っていけるのは片手だってお前が教えてくれただろう、お前は今この中に入っているのか?」父の猛攻に私は口を噤む、あれだけ動きがなかったチャンネル登録者数が動いたのが嬉しくて成果だと思ったから、言ったそれだけなのに。
「……どうするか、考えとく」このままご飯を食べる気にはなれなくて、私はごちそうさまと言うと。
自室に籠って、スマホをベッドの上で見る。お父さんもお母さんもいつも成果だけ、求めてくるなぁ。
SNSも顔を出している訳じゃないし、一応アコースティックも電子ギターもあるから弾き語りとかもしているけど、短い動画も伸びないし、SNSの投稿が万バズする訳でもなくて。
絶対こうはなりたくない!と思っていたインターネットシンガーソングライターの姿かたちそのものになってしまったなぁと、スマホを持ちながら横になる。
同じような仲間はみんな有名になったり、若くしてデビューしたりしていて、学校辞めて音楽を本格的にやっていきます!という投稿をTLで見かける度に自分の環境と比べては落ち込んだりもしていた。
そんな中、チャンネルでもSNSでもずっと私にコメントやリプをくれる熱心なファンが居た。
【ちゅら】という子で、アイコンは自撮りだろうか最近出来たらしい水族館の大きな水槽前で撮って貰ったものをアイコンにしていた、彼女からフォローが飛んできた時何気なく彼女のプロフィールページを見てビビッときた私はこの子に会ってみたいと思ったのだ。
「チェルシーに、Reすてるに、シーライズ……が好きなんだ」マイナーバンドが好きという彼女の参戦歴を見てみると本当にマイナーバンドやマイナー音楽ばかりで、中には私も密かに追っているバンドが被っていた、年齢も17、高二だ。
ただ、少しだけ住みが彼女の方が遠くて、基本的にネット上で絡むことが多かった。
《nullさんの歌、毎日聞いてます》《オリジナル曲もサウンドクラウドから聞いてます》彼女が私に飛ばしたリプだった、新作ですと愛想なく投稿した楽曲も彼女は1番に拡散してくれたし、1コメもいつも彼女であった。
私の音楽とは関係ない、例えば親に怒られたとか友達に変なこと言われたとか、テスト散々だったとか何気ないつぶやきにも、彼女は励ましや私ならそんな事言わないのにと心配もしてくれていた。
私は曲を作りながらSNSも見るのだが、彼女のリプやコメントには助けられてきたと言っても過言では無い。
他の視聴者やフォロワーは私にあまり興味が無い中、彼女は私のことを自分のフォロワーや少ない私のファンと交流をし続けていた。
《nullさんの布教、頑張ります》彼女は私の今月の頭のツイートにそうリプを残していた。
少し、期待したけれどやっぱりそんな急にフォロワーやファンが増える訳でもなくて、無風の日が続いた。
私は、そんな日もあるかと切り替えてまた新作の準備に取り掛かった、暗い部屋で編集ソフトを開いて音を打ち込んで、声も入れて、ちょっといいかなと思いつつ寝かせようの繰り返し。これを続けていると気づいたら朝、なんてことがしばしば。
今日もそのコースか?と思いながら編集ソフトを開こうとしたが、マウスを動かす手が止まる。
机に伏せておいたスマホが震える、バッとスマホを見ると、何故か家族のグループチャットが動いていた。
友達からの連絡かと思って、慌てた自分がアホだと思ってまた、スマホを伏せて作業をしようとしたが。
父のメッセージに気になる文字が、2つ見えた。
「転勤……?転校……?」嘘でしょ、あのお父さんがこんなことを言う?それなら晩御飯の時に言えばいいのに。
私は、スマホを持ってリビングに降りると父はまだ下にいた、母は風呂だろうかいなかった。
「転勤って何」「慣れてるだろ、高校も転入届を出しておいた」「なんで、勝手に決めるの」本当にこの人は私が小さい頃からずっとこうで、私の声も聞いてくれていないんだなとは思うけどここまでとは。
「せっかく友達できたのに、今の高校でも十分なのに」高校生になったんだからお父さんについて行くかどうかは選ばせて欲しかった。
「単身赴任じゃだめなの?」「……」私の疑問に父は黙る。こうなると父はずっとこのままだ、こちらが折れるしかない。
「お母さんとも話したんだよね?じゃあついて行く、ついて行くから次はどこに転校するかそれだけ教えて」私がそういうと、父は少し機嫌が良くなったのか私たち家族が次に行く場所を教えてくれた。
「え……」私は慌てて、SNSを開いてちゅらちゃんのプロフィールページに飛ぶ、私が今度に行く地域で。
「嘘……もしかしたら……会える?!」私はその場で飛び跳ねて喜ぶ、「零、うるさいわよ……あら、あなたまさか話したの?」
お風呂から上がってきたお母さんがお父さんに言うが、それより私が久しぶりに喜ぶ姿を見て母もどこか嬉しそうだった。
「ファンの子と住みが近くなるの嬉しくて」私はその子のSNSのページをお母さんに見せると、「いつものコメントとかくれるって言ってた子?」お母さんに色々話をしていたから良かったわねと言ってくれた。
ちゅらちゃんに住みが近くなると言うのも何かおかしいかなと思いながら、どう転校するということをよく分からない存在の私は伝えていいのか分からなくて、お風呂で髪を洗いながら色々考えていた。
「そもそも転校するだけで速報とかつけるのもどうかと思うし、フツーにツイートする……?でもこういう時にネタツイをするとか?」
うーんうーんと唸りながら髪を洗い体も洗い湯船に浸かってずっと考えていた。
「私、有名じゃないからなぁ……」全部そこに帰結してしまう。自分でさえたまにやるネタツイとかネタ投稿に何やってるんだ……という気持ちが湧くのだが、今そんな気持ちだ。
ここで考えていても仕方ない、ざばっとお風呂をあがって、テキトーに夜のおやつを取って部屋に篭もる。
少ないフォロワー、動かないTLに私が転校しまーすと爆弾を落としてもなんも影響ないんだよなぁと思いながら、SNSを開く。
フォローしているのが音楽関係やネットシンガーソングライターのつながりばかりで成功者の体験を見ているようで、今の私にとって眩しいものばかりで。アプリを閉じようとしたが、日課になっているのか。
自然に転校しまーすとツイートしていた、「……やっちゃった」送信しましたのポップアップを見て私はベッドに倒れ込む。「私の転校の話なんか誰も得しないのに、やっちゃった……」あ゙ーもう、とジタバタするけど遅くて。
ちゅらちゃんから早速いいねとリプが飛んできた。
《転校しちゃうんですか?》それを見て、私は肯定の意味でそのリプにいいねをつける。
《転校先でも音楽は、歌うことはやめませんか?》彼女はまたリプを送ってきた。
そうだよ、と送るのは簡単だ嘘であっても。私は伸びもしないオリジナル曲を作り続けるのも、有名な曲のカバーばかり歌っている毎日に少し、嫌気が差していた。
周りは成功していくし、親からは成果をせっつかれる。
(本当に、私がやりたかったことはこれなのかな)さっきもお風呂に入りながらそう考えていた。
親にもちゃんと話そうかなと思っている。
「高校卒業したら……やめる、やめよう」、でも彼女へのリプ返しは《続けるよー》と私の指が無責任に返していた。
嘘はつきたくないのに、結局離れられることが怖いから。
「でも、やめますって呟いた方がそっちの方がウケが良かったかも」
不確定なことを呟くのもどうかと思って、いやでも引越し先でも音楽を作れる環境を親が整えたり私が整えることができるか分からないし、もしかしたら音楽よりやりたいことが出来るかもしれない。
離れるかもしれない、機材達を少し撫でる。
DTMの本や発声の本も、教科書や宿題より開いた教材達も撫でる。
「夢を追うのって、やっぱり簡単じゃないんだな」私はそうぽつり呟いて、「寝る前にちょっとだけ、曲作ろうかな……」と、スマホを充電しおやつを食べながら作業を始めた。
自分の好きなテンポで、コード進行で作る曲は伸びないし、好きだという人はちゅらちゃんしか見たことない。
彼女は私の歌声も好きだと言っていたが、作曲方面にも明るいのか彼女は私のオリジナル曲の布教をずっとしていた。
文字で見てもわかるくらい、高いテンションで彼女は自分のフォロワーやそれ以外の人に私の曲を布教してくれていた。
私はありがたいと思っていたけど、その熱量がすごくて少し怖いと思っていたから「ありがとう」も「嬉しい」も彼女に伝えていなかった。
後に、それが私の創作の考えを改める出来事に繋がるのだが、高二の私はまだソレに気づいていない。
見返りも求めずただ、自分の「好き」を発信している人を見ると少し彼女が重なってしまって苦しくなる時も正直ある、でも今の私はあの日あの時スマホのライトの海を泳ぐ人魚として、ステージという海岸に立って歌を満喫して、割れんばかりの拍手と声援を貰った。
ステージが終わって消えていくライトが愛おしかった。それを実現した彼女はステージに立つ私を見て満足したという顔をしていたらしい。
歌を満喫した、人魚は光の消えた海へ潜って泡になって消えたのだ。
文化祭以降、車椅子で体育館を後にした彼女に会うことは出来なくなった。
私は、必死に彼女に向けた曲や歌詞を書いたり作ったりしている、そしてこれらを引っ提げてまた彼女の前に立ちたいのだ。
彼女はそんな私を見て、笑うだろうかそれとも困った顔をするだろうか分からないけれど。
彼女の反応が楽しみでもあり、寂しさも際立つ、私のファンは私を遺して行ってしまったから。
文化祭前に二人で海に行ったことを不意に思い出した、あの時海を見て彼女は。「楽になりたいなぁ」と呟いたのを未だに覚えている。
私の音楽は彼女にとって、安定剤になれなかったのかと、その日以降自問自答している。
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