第3話 初恋の話

「今までどんな人と付き合ってきたの?

そういえば、そんな話したことなかったなって」


映画を見た帰り道、そんな話題になった。


「えー、興味あります? 私の昔の恋愛なんて」

「あるよ。同じ過ちを犯さないようにっていうのと、あとは、他の誰にも負けたくないじゃん」

「なんだそれ。そんな、いいものじゃないですよ、私の恋愛なんて」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


初めて彼氏ができたのは、高校生になったばかりの頃だった。


よく晴れた朝、駐輪場で声をかけられた。

私が登校するのを待っていた様子だった。


「おはよう。ちょっといいですか?」

「ずっとかわいいなと思っていて……好きです。付き合ってください!」


背が高くて真面目そうな、眼鏡をかけた優しい人。


「あ……はい」


誰が見ているかわからない場所で、咄嗟に出た言葉だった。


「本当に!? よかった……連絡先交換してもらってもいいですか?」


そこから連絡を取り合うようになった。私は彼を「そうくん」と呼んでいた。

廊下ですれ違うたびに小さく手を振ってくれる、見た目通りの優しい人だった。


「お祭り楽しみだね」


初めてのデートは、河川敷近くのお祭り。

少し遠かったけれど、二人並んで自転車をこぎながら、わくわくと胸が高鳴った。


「好きな食べ物はオムライスだよね」

「うん、そうだよ。そうくんはお肉だっけ?」

「ひなちゃんは甘いもの好きなんだよね。僕は苦手で、あんまり食べられないんだ」

「そっか、苦手なんだ〜」


「好きな色は水色とピンクだよね」

「うん、そうだよ」


中学校の頃の部活や家族のことも、淡々と答え合わせのように訊かれる。


「あれ? おかしいな……ごめん、道わからなくなっちゃった。お祭りやめて、近くのゲーセン行こうか」


え!? そんなことある!?

日付も場所も調べて誘ったんじゃなかったの!?

気づけば、ゲームセンターの前に立っていた。


プリクラ機の前で、ぎこちなく笑いながら写真を撮る。

帰り道、私は決心した――

「もう、終わりにしよう」


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「それが、初めての彼氏」


晴人は、お腹を抱えて笑い出す。

「どうぞ、笑ってください」

「ごめん、ごめん。それは苦い思い出だね」


「私、本当に恋愛運ないんです」

「他には?」

「面白がってません?」

「うん、ごめん、少しだけ」


にやにやと笑う彼に、私こそは頬を膨らませる。


「私、2回しか付き合ったことなくて。」


ぽつり、ぽつり、と。

昔のことを思い返しながら、私は少し照れたように言葉を紡いでいた。

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