第4話 グラスを鳴らして

ボーイが静かにテーブルへと近づき、銀のトレイからグラスを置いていった。


珈琲の黒く艶めく「漆黒の夜」、そして淡いブルーが美しくグラデーションを描く「初恋ブルー」

ラメのように光るゼリーが底に沈み、グラス越しの照明がきらりと反射していた。


「いいね!葵タンが頼んでくれたから、さらに特別感あるぜ!」

仁はニヤッと笑って、グラスを持ち上げる。

葵も慌てて自分のグラスを両手で持ち、そっと差し出した。


「お、に、い、ちゃ、ー、ん!」と言いながらグラスを鳴らし、こんな感じでいいのかな?どうしよ…焦る葵

仁の目はキラキラして「ボクもやる!ボクも!」と楽しそうに言い「あ、お、い、ター、ン!」とグラスを鳴らし、乾いた音が響いた。


葵はそんな反応に思わずクスクス笑い、「女神様にお願いして、ポイント貯めてやっと転移出来たんだよ!だから葵だけ見てくれなきゃいやだゾ!」と妹役を続けた。

「頑張ったな!何をしてポイントを貯めたんだい?」と楽しそうに会話に乗ってくれる。


「女神様の肩や腰をフミフミしてマッサージしたの。でもつい爪立てちゃうから、ポイント減らされたりしちゃった…」と葵が言うと、仁は吹き出して笑った。


「猫あるあるだな!爪伸びていたから女神様も痛かったんだろう。ルウちゃんもそうだったな…」と切なげな顔をした。


ヤバっ…どうしよう、こんな時妹キャラはどうするんだっけ?頭フル回転する葵。

「今は、爪立てないやり方…覚えたんだよ」自分の手をそっと仁の手に重ね「大好きなお兄ちゃんに、やっと会えたんだから」


パァぁぁぁと表情が和かになり、「そうか!偉いぞ!」とキリッとした仁。

葵は「お兄ちゃん、今の顔かっこいい!見惚れちゃった」と本心が出た。


「オニイタマに惚れていいんだぜ!葵タン、何が食べたい?オニイタマにアーンしてよ」とメニューを開く仁。


ここのメニュー、見た目だけで美味しくなさそうなのに高いんだよな。コーヒー系のドリンクだからサンドイッチでいいかと『地の果てサンドイッチ』という謎メニューを選んだ。

メニュー名が気になる仁、「『地の果て』って何?葵タンの選ぶメニューはセンスいいな!面白いゾ!」と笑っている。


葵はグラスの中の飲み物を見つめながら、自分の妄想の世界に入り込んでくれる仁を、変な人、だけどなんか、優しくて話しやすい。

いつものイメージと全然違う、好きかもと恋心が芽生えていた。

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