モラハラ女がいるジャンルの話
ちょり
第1章 当選自慢するのやめてください
あのアニメが始まってから、私は毎週欠かさずイラストや漫画をXに投稿していた。
別に企画に参加してたわけじゃない。ただ好きで描いてただけ。推しがいるって、そういうことだ。
最初に交流を持ったのは、犬尾さんだった。
この人とは相性が良かった。絵のタッチも好みだし、キャラの見方も合う。
「AくんはBに対してこういうとこあるよね~」って語り合ったり、「このネタ最高!描こう!」って盛り上がったり。
まさに“お絵描きで遊ぶ”って感覚だった。何気ないやりとりが楽しくて、創作がもっと好きになれた。
次に出会ったのが、はれだサン。
この人も、絵はすごくカッコよかった。構図とか塗りとか、正直見とれるレベルだった。
でも、付き合いが深くなるにつれて、どんどんしんどくなってきた。
通話すれば毎回「私の絵なんて…」「見られるの恥ずかしい…」のオンパレード。
そのたびに私が「いやいや、◯◯の描き方とかすごく上手だし!」って全力で褒める。
本心だったし、最初はそれも良かった。でも、それが毎回続くと、ちょっと疲れてくる。
私はアニメの話がしたいのに、通話がいつも“イラスト褒め合い大会”になる。
しかも、はれだサンの構ってオーラが強すぎて、会話がいつも彼女中心になる。
もちろん、褒め合い自体は楽しい部分もあるし、全否定する気はない。
でもやっぱり、犬尾さんみたいに「一緒に描いて楽しむ」方が、私は好きだった。
──そんなある日。
アニメの推しキャラがメインの回で、公式が「感想を送った人の中から抽選でサイン入り台本が当たる」って企画をやってきた。
これはもう全力案件。私は気合いを入れて長文感想を送った。
結果、推し声優のサイン入り台本が当たった。
もう、ガチで飛び跳ねた。日頃の愛が報われたって思ったし、嬉しくて泣いた。
そしてアニメの最終回の日──
私ははれだサンから通話に誘われた。ちょっと不安だったけど、他にも人が来るなら大丈夫かなと思って参加。
集まったのは、私、はれだサン、リンゴさん、ぬんさん、ハヤシさん。
話がひと段落した頃、「自慢してもいいですか?」って私が言ったら、みんな「いいよ~!」って和やかに返してくれた。
それで「台本が当たりました!」って報告したら、みんな「えー!すごい!」「おめでとう!!」って本当に喜んでくれた。……はれだサン以外は。
はれだサンの様子だけ、明らかにおかしかった。
「なんで?なんでアナタが当たるの? 私だって欲しかったのに…最初はAくん嫌いだったけど、今は好きになったのに…なんで?」
その空気、察したメンバーが「そればっかりは運だよ!」「公式が決めてるんだし!」ってフォローしてくれたけど、はれだサンは止まらない。
私は空気を和らげたくて「今度のイベント、皆で観ようよ!」って言ってみたけど、それも効かず。
はれだサンはまだ、ブツブツ文句を言い続けていた(正直ここからは記憶があいまい。多分ずっと責められてたと思う)。
それでも精一杯の言葉を絞り出して、「ゴメン…こればっかりは、譲れないかな」って言った。
はれだサンは「ゴメン、落ちる」と言って、通話を切った。
しばらくして、犬尾さんが通話にやってきた。
私は何事もなかったかのように振る舞ったけど、内心ではぐっちゃぐちゃだった。
他の子たちが「気にしなくていいよ」って言ってくれたのが救いだった。
──この時は、まさか翌日、地獄の扉が開くとは思ってなかった。
「お気持ちDMという名の地獄便」
あの日の通話は、犬尾さんが旅行中ってこともあって、いつもより早めに解散になった。
ふぅ……とりあえず空気は重かったけど、何とか終わった。
そう思って、私はそのまま布団にダイブした。
──で、翌朝。
XのDM通知が鳴ってるのを見て、一気に目が覚めた。
開く前からわかる。嫌な予感しかしない。
通知の主は、案の定、**はれだサン**だった。
DMの内容は、まぁ要するに**お気持ち表明**だった。
> 「台本自慢するのやめてください。
> “あげられない”って言われたのが、馬鹿にされたみたいで嫌だった。
> 私は“幸せ自慢”はしないようにしてる。」
──うん、きたな、これ。
完全に地雷を踏み抜いてしまったらしい。
私は正直イラッとしたけど、犬尾さんが今度イベントでアンソロを主催するってのもあって、揉め事を表沙汰にしたくなかった。
だから、とりあえず謝った。
> 「そんなつもりじゃなかった、ごめんなさい。
> 馬鹿にした意図はなかったです。」
でも、はれだサンは止まらなかった。
DMが追撃でまた飛んできて、そこには不満と不満と不満と、さらに不満が詰まっていた。
──ああ、これ完全にサンドバッグ役にされたな。
もう、私が何を言っても無駄だと判断した私は、以降の返信を「謝罪文のみ」にした。
反論も、弁明も、感情も込めない。
とにかく、終わらせたい一心だった。
正直、この時点でもうしんどかった。
でも、それでも終わらなかった。
はれだサンは今度は「通話で話したい」と言ってきた。
私の心は一瞬で冷えた。
──いや、ムリムリムリ。
この人との通話は、どう転んでも“もう一度怒られる時間”にしかならない。
私は断った。何度も断った。
誠意が足りないとか思われてもいい。もう、限界だった。
それでも、どこかで“私が悪いのかな”って気持ちが消えなかったのも本音だ。
だから、はれだサンを外した状態で、信頼してる同ジャンルのサークルメンバーにだけ、あらためて台本が当たったことをポストした。
だって、他の人たちは普通に喜んで投稿してたし、なんで私だけが、誰かの機嫌を気にして台本すら自慢できないんだろう?
悔しさと惨めさが交互に押し寄せたけど──
サークルメンバーたちの「おめでとう!」のリプで、私はちょっと救われた。
ただ、その裏で──
はれだサンからのDMは、まだ、終わってなかった。
「お気持ちは終わらない」
はれだサンからの「通話したい」ラッシュを断り続けていた頃──
私はもう、かなり限界だった。
この頃になると、X(旧Twitter)のタイムラインを見るのもしんどくて、ほんの少しだけ、サークルの鍵付きグループで愚痴を漏らした。
誰の名前も出さず、やんわりと。
> 「最近ちょっと、お気持ちDMがしんどくて……」
そんな感じの、一見ただの呟きに見えるようなつぶやきだったと思う。
それでも、ずっと押し込んでた気持ちがにじみ出てたのかもしれない。
ある晩、リンゴさんと犬尾さんとの深夜通話の中で──
リンゴさんがふと、こんなことを言った。
「……ねぇ、大丈夫? 最近、なんか無理してない?」
そのひとことに、私はもう、堰を切ったように全部話した。
はれだサンからのDMが、ずっと続いてること。
謝っても謝っても終わらないこと。
通話したいと何度も言われ、それが怖くなって断ったこと。
それでもまだ終わらないこと。
犬尾さんもリンゴさんも、私の話をちゃんと聞いてくれた。
「それは辛かったね」
「無理しなくていいよ」
「気持ちを聞かせてくれてありがとう」
そんな、静かな言葉たちが本当に沁みた。
否定もされず、責められず、ただ受け止めてもらえるだけで、心が少しだけ軽くなった。
私は通話しながら、声を押し殺して泣いた。
その夜、やっと少しだけ、肩の力が抜けた気がした。
──でも、あの通話にいた全員がそうだったわけじゃない。
ぬんさん。
彼女は後日、まるでその通話のことを知っていたかのように、Xのタイムラインにこんなことをポストしていた。
「いつまで気にしてんだよ、忘れろよ」
「もう終わった話引きずるとか面倒くせぇ」
名指しこそなかったけれど、その言葉はまるで私に向けられたもののように感じた。
見なきゃよかったと思った。
それ以来、ぬんさんのことはちょっと苦手になった。
仲良くしたいとは思えなかった。
こっちは一生懸命、しんどさを飲み込んで、ちゃんと相談できたって思えた夜だったのに──
外野から投げられた石みたいな言葉は、思った以上に心に刺さった。
──が、平穏は長くは続かなかった。
数日後。
犬尾さんの友人たちと、前々から予定していた**別ジャンルのスポーツアニメ鑑賞会**を開催した。
界隈を離れた、ただの「アニメを楽しむ時間」。
すごく楽しかったし、これで少しでも気持ちが晴れるならと思って、軽くその話をXのTLに投稿した。
> 「久々に○○(別ジャンル)見たけどやっぱり面白い~!
> ○○くん、あの回はやっぱ神だったな…」
そんな、普通の感想ポスト。
──すると、通知が鳴る。また、DMだった。
送り主は……はれだサン。
開く前から、内容が見える気がした。
そして、やっぱり。
> 「私とは通話してくれないのに、他の人とは通話してるんですか?
> 私、あんなに通話お願いしたのに……」
──お気持ち再来。
しかも今回は、もはや台本とかアニメとか関係ない。ただただ「通話してくれなかった」ことにキレている。
私はもう何も言えなかった。
ただ、胸の奥に、どす黒い感情がぽつんと芽生えたのを感じた。
「もうやめてください」──限界を超えた夜のこと
はれだサンの、“異常なまでの通話したい欲”が、私にはもう**恐怖**でしかなかった。
「もう大丈夫だから」
「ほんとに、もういいです」
何度そう伝えても、「話し合いたい」「ちゃんと伝えたい」と引き下がってくれない。
気持ちを押し付けられるたび、こっちの心はすり減る一方だった。
心の中ではもう「勘弁してくれマジで……」という言葉しかなかった。
限界だった。
私は、犬尾さんとリンゴさんに再び相談した。
通話の中で気持ちを整理しながら、ようやく一つの答えにたどり着いた。
──**もう、終わらせよう。**
私は意を決して、はれだサンにメッセージを送った。
> 「もうやめてください。迷惑ですし、正直怖いです。」
> 「通話は前々からの約束だったし、私も仕事が忙しかったのは事実です。」
> 「でも、これ以上はもう無理です。」
自分でも驚くくらい、冷静だった。
けれど、言葉の一つ一つには、今まで溜め込んだ気持ちを全部込めた。
すると、はれだサンから返ってきたのは──
> 「私が仲直りに失敗したんですね」
なんかもう、そういう問題じゃないんだよ……と思ったけど、もうどうでもよかった。
私は最後にこう返した。
> 「今後どうするかは、はれだサンが決めてください。私は私で好きにします。」
それ以上でも、それ以下でもなかった。
本当に、もう関わりたくなかった。
あの一連のやりとりが終わって、やっと静かになったTLをぼんやりと眺めながら、私はふと考えていた。
はれだサンって、いったい何だったんだろう、と。
絵は、正直に言って、好きだった。
構図も色使いも、キャラ解釈も、すごく刺さった。
でも、彼女自身との関係は……しんどい、という言葉では足りないほど、重たかった。
彼女は、悪い人じゃなかったと思う。
たぶん本当に、自分に自信がなかったんだ。
「どうせ私なんて」って、通話で言うたびに、本当にそう思ってるようだったし、
誰かから「そんなことないよ」って言われることだけが、彼女の心を支える糸だったんだと思う。
でも、だからってその糸を、他人に握らせるのは違う。
私は、絵が描きたくて、推しの話がしたくて、このジャンルにいた。
だけど、彼女は、共感が欲しくて、承認が欲しくて、誰かにずっと「あなたは大丈夫だよ」って言ってほしくて――
まるで通話を“自分のメンタルを保つためのカウンセリングの場”みたいに使っていた。
それは、優しさで付き合える範囲を、ゆっくり超えていった。
そして、いつしか私は彼女の「聞き役」になり、「吐き出し口」になり、
最終的には、「謝罪し続ける壁」になっていた。
たぶん、彼女自身も気づいていない。
自分がどれだけ、人の感情をすり減らしていたのかを。
――だから私は、もう関われないと思った。
口では「仲直りしたい」って言ってたけど、
それもきっと、“また通話で聞いてほしい”だけなんだ。
最後はブロックされていたけれど、
私はもう、彼女に「何かしてあげたい」とも「理解されたい」とも思わなかった。
正直に言えば、悲しいよりも、ほっとしていた。
彼女は、私の中で「口だけの人」という印象で終わった。
この時これでやっと平和に二次創作が出来る!と思ったがコレが始まりだったとはこの時はまだ気づいていなかった。
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